春一つ、やり直せたなら

「彼女は、なぜ泣いていたのか――」

あれから何年も経ったのに、あの日の彼女の涙だけが、どうしても忘れられない。

社会人になった俺は、日々を淡々と過ごしていた。

だが、運命のいたずらか、突然の激しい頭痛に襲われ、気がつくと――

俺は、高校合格発表の“あの日”に立っていた。

なぜ戻ってきたのかもわからないまま、目の前には、あの頃の彼女がいて。

あの春の風の匂いも、制服の袖をすり抜けた光も、全部が懐かしくてまぶしい。

どうして俺は、彼女に何も聞けなかったのだろう。
なぜ、あんなにも近くにいたのに、遠く感じていたんだろう。

今度はすれ違わないように。
優しい嘘も、無理に隠した本音も、そのまま受け止められるように。

俺はもう一度、彼女の隣で、物語の続きを始める。

彼女が最後に言えなかった言葉を、今度は聞くために。