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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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私の親友も、あなただけ


橘寧々との出会いは、幼稚園だった。


みんながお昼の時間に外で遊びに出る中、一人だけ部屋の隅で本を読んでいる子がいた。


スズはその子のことを、「変な子」だと思ってた。


でも、何故か目が離せなかった。


誰かが「外に行こう」と言えば、みんなが当然のように従う。


そんな”当たり前”を無視して、ただ静かにページをめくるその姿に、

なぜだか心を奪われた。



「ねえねえ、お外であそぼ!」



―――これが、寧々との最初の会話だった。

今でも、鮮明に覚えている。


勇気を振り絞って声をかけたのに、返ってきたのは。



「?嫌だけど?」



首をかしげながら、まるで「何故外に行く必要がある?」とでも言いたげな態度。


スズは、世界で一番最初に寧々に“振られた”人間である。




でも、そこからだった。

スズが寧々に惹かれて、そばにいるようになったのは。


毎日、本の世界に生きる寧々の物語に入り込みたくて、ウザがられながらも絡み続けた。


小学校では、登校もイベントも、ずっと一緒。


口数の少ない寧々と、うるさいくらいに喋るスズ。


正反対だけど、不思議としっくりきた。


寧々の、静かで柔らかくて、でも一本筋の通った生き方に、スズはずっと憧れていた。




中学も同じ学校に進学したけれど、部活や行事で、気づけば一緒にいる時間は減っていった。


寧々は、そんなこと気にしてないと思っていた。

――だから、話しかける回数も、自然と減っていた。




そんなある、雨の日――


部活動で帰りが遅くなったスズは、親の迎えを待つ間。


豪雨の音と、暗がりが教室を覆う薄気味悪い雰囲気を醸していた。


どこか、明るくて人の多い教室がないか探検をすることにした。



ふと目に留まったのは、昔よく通っていた――図書館だった。


普通の教室よりも面積が広い分明かりがつくと、暗がりの中存在感がある。


涼香は、明かりの灯った図書館に引き寄せられていた。



「あれ………?」



その中に――彼女がいた。



窓を叩く雨音の中、図書館だけが、別世界のように静かだった。


背筋をぴんと伸ばし、長い髪を耳にかけるその姿は――

幼い日のままの寧々だった。


目を奪われて、息を呑む。



「………ん?」



視線を感じたのか、寧々がこちらを見てきた。


「………!!」


とっさに隠れてしまった自分が情けない。


なにも後ろめたいことはないのだが、顔を合わせることを気恥ずかしく思ったのか。



「なんで隠れるのよ」



笑いながら顔を覗き込む寧々は、さっきまでの毅然とした面影を崩して、柔らかく、温かかった。


「なんか……見てるって思われたら、恥ずかしくて……」


頭を掻きながら、視線を泳がせてしまった。


「なにそれっ」


吹き出しながらも、ツッコみを入れてくる。



――

「涼香、なんか久しぶりだね」


「ね!ほんとに!」


「図書館に一人で来るなんて珍しいこともあるのね」


「雨で帰れなくなっちゃって。ママ来るまで、私もここにいようかな~って」


「んー……涼香は話しちゃうからダメかな」


「なんでよっ!!」


「ほらっ」


ふざけ合いながらも、寧々はよく笑っていた。

涼香と話すことを、どこか嬉しそうに感じてくれていた。



「もう迎えも来るだろうし、下駄箱で待とう?」



そんな提案で、一緒に図書室を出る。



「寧々は、雨がやむまで待つの?」


「ん~私傘あるから、いつでも帰れるよ」


「えっ?! じゃあ先帰りなよ!」



「やだよ。涼香と久々に話せるし」



その一言が、胸に刺さった。


「な、なによ~」


「何それっ」


照れ隠しの笑顔とともに、ニヤけが止まらなかった。



――

「涼香、学校楽しい?」


唐突に、寧々が聞いてきた。


「うん、楽しいよ!」


「そうなんだ」


「寧々は?」



「私は……小学校のほうが好きかな」



「どうして?」



「私の友達は、涼香だけだから。他に一緒にいたい人、いないし。

 本読むくらいしかやることがないの」



「えっ……スズ、もっと寧々に話しかけていいの?」


「なんで今さらそんなこと聞くの?」


「だって……中学入ってから、あんまり話してないし……相性悪いって言われてるの聞いて、ウザがられてるのかと思ってた……」


「涼香のこと、ウザいなんて一度も思ったことないよ」


その一言で、涼香の心の中にあった不安の壁が音を立てて壊れた。



寧々は、涼香に対して身体の向きを正面にして、諭すように心の内を語る。



「涼香は、私のつまらない人生に、騒がしい音をもってきてくれた」


「それを騒がしいな~とは思うけど……やめてほしいって思ったことはないよ」


「むしろ、その音が日常から無くなって、また無音のつまらない日常になってたのが――ちょっと寂しかった」


「だから、私はもっと、涼香と話したいよ」



その言葉に、手を取られて――スズは心を撃ち抜かれた。



「スズ……勘違いしてた………」


隠さず見してくれた心の内を次に明かすのは、自分の番だ。


「寧々は、もっと静かな子と一緒がいいのかと思ってた……」


「……でも、スズも、もっと寧々といたい。話したいって、ずっと思ってた」



「スズ、寧々ともっと一緒にいて話したい………!」



―――いいに決まってるじゃない。



当たり前に、当然のように即答する寧々。


「……………!」


()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()



「………寧々っ!」


嬉しすぎて、飛び跳ねたい気持ちを必死に抑えた。


――テレビで見た、片思い同士が両想いになる瞬間。


あれって、きっとこういう気持ちなんだ。


体が勝手に、踊りだしてしまう。


誇張なしで、豪雨の中、外を走れる晴れやかさを感じた。


「寧々!!!大好き!!!」


涼香は寧々の手をもって、走り出す。


「???」


疑問符を頭に浮かべながら、引っ張られる寧々は何をするのかわかっていない。


「えっ?!ちょ、ちょっと!」


そのまま、雨の中へ――


びしょ濡れになるのもおかまいなしに。



「一緒に帰ろう!!!」



「お、お母さんはどうするの!」



豪雨の為、大声で話す二人。



「ん~~~~はいっ!」



スマホに打ったのは、ただ一言。


<寧々と走る!>



「まじか………」



開いた口が塞がらないとは、こういうことかと身をもって感じた。


だが、手を繋ぎながら踊るように雨を感じるその姿を見ると、どうでもよくなってしまった。



「もう、しょうがないな………!」



笑いながら、二人は雨の中を駆け出す。



――その時。

雲の隙間から、太陽の光が差し込んできた。


まるで、世界も祝福してくれているかのようだった。





――――

あの夏祭りの日から、寧々のことを思い返す時間が増えた。


何かを隠してる。


笑ってるのに、どこか寂しそうだで。


……分かるよ。寧々のこと、ずっと見てきたんだから。


寧々は、苦しんでいる。

ひとりで、何かを抱えてる。


でも、自分には、それを聞き出すことはできない。

どんなに近くにいたって、届かない場所がある。



………だけど、柊なら――。


何故か、この男には寧々を託してもいいって思える。


理由なんて、分からない。

でも、きっと柊は、寧々を笑顔にするためなら、何だってしてくれる。



だから、スズは――

親友として、できることをする。


ずっと見てきたスズだから、できることを。


柊に、託す。


寧々を、どうか――

もう一度、笑顔にしてあげて。


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