第四部 石片の向こう 96 異なる解釈
同じ伝承を聞いても、人は同じ結論に至らない。
エリゼーは、それぞれが何を守ろうとしているのかを聞く。
翌朝、宿の台所では二人の女が麦粉をこねていた。
片方は夕べの伝承を語った女性で、もう片方は慰霊で水を運んでいた人だった。
「昨夜は長くなったね」
女性が笑う。
「旅の人がいると、皆いつもより多く話す」
エリゼーが湯を運ぶ手伝いを申し出ると、もう一人が木椀を四つ渡した。
「話を聞くだけなら、何でも言えるよ。朝から働く人は、後で考え直す時間もない」
それは非難ではなく、暮らしの手順を確かめる声だった。
「昨夜、祈りが皆を救ったという話がありました」
エリゼーが切り出す。
「そう聞いて育った者は多いね」
「同じ祈りが災いを強めたという話もありました」
「あるよ。どっちを話すかで、家の中でも口論になる」
粉をこねていた女性は手を止めた。
「私の母は、あの祈りのおかげで祖先が助かったと言っていた。私は母の言うことを大切にしている。でも、誰かを助けたのが祈りだけだったと言われると、困る」
「どうしてですか」
「私の家で伝えているのは、門を開けた人の名前だから。あの人がいなければ、祈りながら外に立ち尽くした者がいたかもしれない」
もう一人が水を足した。
「うちでは、祈らなかった家にも人が泊まったと聞く」
「祈らなかった?」
「そう伝わってる。あの夜、声を出せなかったのか、出さなかったのかまでは知らないよ」
エリゼーは二つの声を、帳面の左右へ並べるような気持ちで聞きかけた。
しかしそれでは、女性たちの言葉がただの比較の材料になってしまう。
片方の母の記憶も、もう片方の家に残る沈黙も、暮らしのなかで大切にされてきたものだった。
***
昼前、ヘルマンは四人を水路の奥へ案内した。
小さな修繕場では、昨夜の話を聞いていた若者が壊れた桶を直していた。
「あなた方、祈りの場所へ行くそうですね」
若者が言った。
「ええ。案内してくださる方を待っています」
「気をつけて。あそこへ行くと、何か分かると思う人が多い」
「分からないまま帰るかもしれません」
ジュリアが答えると、若者は少し驚いた顔をした。
「じゃあ、どうして行くんですか」
「誰がその場所をそう呼んでいるのか、知りたいんです」
「石なんかを見ても、昔の人の気持ちは分からないよ」
「そうでしょうね」
若者は桶のたがを締め、乾いた音を確かめた。
「僕の父は、祈りが強すぎたせいで昔の災いが起きたと言う。祖父は、強い祈りがあったから生き延びたと言った。同じ家で暮らして、毎日一緒に食事をしていた二人だよ」
「どちらかを選ばなかったのですか」
エリゼーが訊いた。
「父は祖父を大事にしていた。でも、考えを変えなかった」
たがが一度外れ、若者は仕事へ戻った。
エリゼーはそれ以上尋ねなかった。
意見の違いを、家族の壊れた印として扱いたくなかった。
***
修繕場を出るとき、若者はふと付け加えた。
「父と祖父は、あの話では意見が違った。でも、冬になると同じ部屋で火を囲んでいたよ」
「そうでしたか」
「祖父が死んだあと、父は昔の節を歌えなくなった。嫌っていたわけじゃなかったんだろうけれどね」
若者は桶を裏返して底を見た。
「だから僕は、祈りが良いとか悪いとか、よそから来た人にすぐ決めてほしくない」
ジュリアは一礼した。
「決めるために来たのではありません」
「なら、なおさら聞いていってください」
若者はそう答え、仕事の音へ戻った。
その背中には、議論に勝ちたい人の固さよりも、家族が暮らした家を守る人の慎重さがあった。
午後、ハインツとエリゼーは宿の前で洗濯物を取り込んだ。
ハインツは右腕を高く上げず、低いところの布から外していく。
「僕たちの教会なら、どちらの話を残すと思う?」
彼が言った。
「正式な記録にするには、何が分かっているかを確認するでしょうね」
「確認できない話は、残らない?」
「それをどう残すか、私もまだ迷っている」
彼は布を畳み、しばらく考えた。
「祈った人を慰めたい気持ちは分かる。でも、祈らなかった人のしたことまで消えるのは嫌だな」
「ええ」
「反対に、誰かが祈りで救われたと感じているなら、僕がそれを取り上げる理由もない」
エリゼーは返事を急がなかった。
彼女には、祈りに応じて現実が変わることを疑う理由がなかった。
変わらない祈りを自分で何度も経験しながらも、目の前で小さな魔法が働くのを見てきたからだ。
ただ、過去に起きたことのすべてを、その一語に預けることにはためらいがあった。
夜、ジュリアは青年の祖母から聞いた歌の言い回しを思い返していた。
「『帰らぬ』と『帰りを知らぬ』は違うと言われたでしょう」
「ええ」
「私は、どちらの祈りを信じるかより、まず誰がどう言ったかを覚えておきたい」
エリゼーは灯を小さくした。
違うままで隣り合う言葉が、今夜は少しも騒がしく感じられなかった。
災いをめぐる語りは、祈りを肯定する人と疑う人だけに分かれません。
同じ家族の中にも、異なる受け止め方が息づいています。




