第四部 石片の向こう 93 悼む日の準備
慰霊の日が近づく。
四人は、語り継ぐ儀式の前に必要な仕事を手伝うことになる。
慰霊の前日、広場には長い布が広げられた。
村人たちはそれを折ってはほどき、石段の上へ置く位置を確かめている。
白い布の端には、長年の洗濯で薄くなった縫い目があった。
「長すぎるね。去年はここまでだったのに」
布を持った男が言った。
別の女がそれに返す。
「去年、端を折り込んでいたんだよ。切ることはない」
エリゼーは二人の間に立たず、布の下に入り込んだ小枝を拾った。
「どこへ置けばよいでしょう」
「火を焚く場所の外へ。今日は風が強いから」
四人は準備の分担を教わった。
ヘルマンは谷の上から来る人の道案内。
ジュリアは水の器を並べる係の手伝い。
ハインツは座る場所へ運ぶ軽い敷物を受け持った。
エリゼーは、名前を読む人が使う台を乾いた布で拭くよう頼まれた。
「重い台ではないですか」
彼女がハインツを見て尋ねると、彼は首を振った。
「僕は布だけ。腕はまだ強く引くと痛む」
自分で割り当てを決めた言い方だった。
エリゼーはそれ以上口を挟まなかった。
台の表面には、昔の刃物の跡がついていた。
誰が、何のためにつけた跡なのかは分からない。
エリゼーは汚れだけを拭き、傷を埋めようとはしなかった。
***
昼過ぎ、祈り手の女性が小さな包みを抱えて来た。
包みの中には、名を記した薄い板が入っていた。
古い板は黒ずみ、新しい板は木肌が明るい。
「同じ並びにしていいの?」
ジュリアが尋ねると、女性は答えた。
「亡くなったと伝わる人と、帰らなかった人は分ける。けど、家族の望みで、隣に置くこともある」
一人の男が近づき、板を二枚手に取った。
「うちの祖父の名前を、今年は後ろへ動かせないか」
女性は眉を寄せた。
「後ろとは?」
「帰らなかった人の方へ。死んだと聞かされていたけど、その話を確かめた人は、もういないんだ」
周囲の手が、一瞬止まった。
女性は板を男へ返した。
「今すぐここで決めなくていい。家の人と話しておいで」
「でも、明日が慰霊だ」
「明日までに決められなければ、今年は読まないという選び方もある」
男は板を持ったまま立ち尽くした。
エリゼーは、手を差し出しそうになる自分を抑えた。
板をどこへ置くかは、その家の人たちの話だった。
***
日が高いうち、女性はエリゼーに名を読む台の脚を確かめてほしいと言った。
一本だけ地面への沈み方が違う。
エリゼーが薄い木片を差し込もうとすると、年配の男が止めた。
「明日、人が近づけば足元が揺れる。下へ板を敷いて、台ごと支えよう」
彼らは台をいったん持ち上げ、誰かを挟まないよう声を掛け合って置き直した。
「これで読む人も安心だ」
男が言う。
エリゼーは揺れを確かめた。
名を読む声は遠くまで届くかもしれないが、その声を支える台は、こうして誰かが直さなければならない。
夕方、広場の一角に二つの水鉢が置かれた。
一つは底まで澄み、もう一つには細かい砂が残っている。
青年が砂を洗い流そうとすると、祖母に似た顔の女が止めた。
「それは明日の朝まで置いておくの」
「どうして」
「昔の谷では、水を汲むのが難しかったという話があるから。でも、私も母から聞いただけだよ」
ジュリアは何も書かなかった。
由来を聞いたことと、由来が確かであることは違う。
エリゼーはその慎重さを好ましく思った。
同時に、自分が同じ年ごろのとき、誰かの仕事をただ見守ることができただろうかと考えた。
準備を終えた村人たちは、帰る前に一度だけ布を押さえた。
強い風が吹くと、四隅に置かれた石の一つが揺れた。
ハインツは近くにいた子どもへ声をかけた。
「大人を呼んでもらえる?」
子どもが走り、男たちが石を安全な位置へ置き直した。
彼は自分の右腕を無理に使おうとしなかった。
***
宿へ戻ってから、エリゼーは洗い残した水の匂いを手に感じた。
紙を扱う仕事では、濡れたものを遠ざけることが多い。
ここでは、水を運び、器を洗い、濡れた布を乾かすことが、昔の名を迎える準備になっていた。
「気になることがあるの?」
ハインツが尋ねる。
「板を持っていた人のこと」
「決められなかったこと?」
「ええ。決めないまま明日を迎えるのが、つらいのではないかと思って」
「そうかもしれない。けれど、誰かが急がせたら、別のつらさが残るんじゃないかな」
エリゼーは頷いた。
若い頃、相手が苦しまないよう先回りして答えを置いたことがある。
そこから奪ったものを、ずいぶん後になって知った。
部屋の窓から、広場の白い布がかすかに見えた。
明日はその前で、多くの名が読まれる。
読まれない名のためにも、今夜は風が弱まればよいと思った。
慰霊の準備では、名をどのように扱うかを住民自身が決めています。
エリゼーたちは、仕事を手伝います




