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第三部 異郷の声 87 恋人の腕
他人を傷つけまいとする思いが、相手の選択まで奪ってしまうことがある。
エリゼーはハインツの痛みと向き合う。
宿の小さな部屋で、ハインツは上着を脱ぐのに手間取っていた。
右の袖を引くと、肘から先に鈍い痛みが走るらしい。
布が途中で止まり、彼は少しだけ顔をしかめた。
「手伝いましょうか」
エリゼーが聞く。
「お願いできるかな。袖を引っ張らずに、服をたぐってほしい」
彼女は言われたとおりにした。
いつもなら勝手に肩を支え、腕を持ち上げさせただろう。
その癖が身体の奥で動くのを感じながら、彼の指示を待った。
宿の主人が教えてくれた手当てのできる人は、通りを二つ隔てた家にいた。
四人が訪ねると、年配の女が戸を開けた。
「動かすと痛むのかい」
「はい。昨日、落ちてくる箱を支えました」
ハインツが答える。
「手を見せておくれ。痛みのあるところは自分で教えて」
女は無理に腕を引かず、腫れや傷の有無を確かめた。
「骨のことまでは、ここでははっきり言えない。痛みが強まるなら、先の町で詳しく診てもらいなさい」
安静にして、重い荷を持たないこと。
ハインツの腕の痛みを通じ、エリゼーは心配と相手の意思の違いに向き合いました。
二人の関係に残る過去の問題は、まだ解決していません。




