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第三部 異郷の声 78 雨を避ける

雨は旅の予定を選ばない。

四人は急がず、誰かの言葉を聞きながら進み方を変える。

挿絵(By みてみん)

翌朝、休憩所を出ると空が低かった。

雲の端に明るさはあるが、山の方は濃い灰色に沈んでいる。


ヘルマンは路肩の土を靴先で確かめた。

「昼までには降りますね」

「強い雨?」

ハインツが聞いた。


「それは分からない。分からないから、濡れずに荷を守れる場所を先に探します」


四人は雨具をすぐ出せるように荷を組み替えた。


ジュリアは帳面を布で包み直す。

エリゼーは自分の鞄の留め具を確かめた。

ハインツはジャックにもらった布を広げ、その上に皆の小さな荷を置いた。


「これを先に使おう」

「自分の荷は?」

エリゼーが尋ねる。


「私のは内側へ入れられる。そちらの紙を守って」


最初の雨粒は、昼前に落ちてきた。


木の葉を叩く音が次第に増え、街道の乾いた土が黒く変わる。

ほどなく、風が横から吹きつけてきた。

四人は荷を抱え直し、ヘルマンの示した低い石垣に沿って進んだ。


「あの納屋を借りられるか聞きましょう」

畑の向こうに屋根が見える。


だが入口には鎖が掛かっていた。

ヘルマンは周りを探し、畑で働く女に声を掛けた。


「屋根の下で少し雨を避けさせてもらえますか」

女は四人を見比べた。


「中は駄目だよ。干し草があるから。でも軒下なら、荷を置かないことを約束してくれれば」

「ありがとうございます。軒下を汚したら片付けます」


雨宿りが決まると、ジュリアは濡れた靴を見てため息をついた。

「こんなにすぐ役に立たなくなるんですね。朝、きれいに拭いたのに」


「靴は歩くためのものだよ」

ハインツが答えた。


「拭くために歩いているわけじゃない」

彼女は笑った。


***


軒下で休んでいると、納屋の奥から桶が転がる音がした。


女が戻ってきて、入り口の溝に泥が詰まり、水が流れなくなったと告げた。

「雨がひどくなる前に掻き出したいけど、一人じゃ間に合わないね」


ハインツが立ち上がりかけた。

「手伝ってもいいですか」

「助かるよ。でも足元が滑る。無理はしないで」


ヘルマンが溝の流れを見て、土を除く位置を決めた。

ハインツは小さな鍬を借り、詰まった葉を掻き出す。

エリゼーは離れた場所へ落ち葉を運び、ジュリアは新しく流れ込む枝を避けた。


水が急に走ったとき、ハインツの足が滑りかけた。

「止まって」

エリゼーが声を上げた。


彼が自分で踏み直すまで、手は出さなかった。

「大丈夫?」

「平気。道具を先に置く」

その返事を聞いてから、彼女は鍬を受け取った。


水は納屋を避けて流れるようになった。

女は湯を沸かしてくれたが、四人は最初に借りた軒下を汚さぬよう、泥のついたものを外で洗った。


「助かった。雨の日には一人で困ることも多いんだ」

「こちらこそ、雨を避けさせてもらいました」

女は四人の道具を見て言った。


「仕事を手伝うと言う人は多いけど、壊した道具を黙って帰る人もいる。あなたたちはちゃんと洗ってくれたね」


ハインツが借りた鍬を持ち上げた。

「柄が少し緩いようです。直しても構いませんか」

「頼めるならありがたい。ただ、今日はもう手を冷やしなさんな」

「明日の朝、雨が止んでいたら」

「それでいいよ」


女は湯の入った椀を四人へ差し出した。

取引ではない親切にも、相手の時間や身体を考える必要があった。


雨が弱まっても、ヘルマンはすぐに出発しなかった。

道の向こうが白く霞んでいる。


「先に進むなら、日暮れ前に川沿いの休憩所へ着けるはずです。ただ、道が滑る」

「戻ることは?」

ジュリアが聞いた。

「できます。さっきの場所までなら」

ハインツは皆の顔を見た。


「今日はここまでにしませんか。泊まれる場所を相談できるなら、その方がいい」


女は農作業の道具を置く小さな別棟を案内してくれた。

住居の中ではないが、雨をしのぐことはできる。


四人は礼を言い、床へ敷く布を広げた。

火を使う許可のある場所だけを確かめ、食事の準備をする。


エリゼーは空が暗くなるのを見ていた。

今日歩くはずだった道は、まだ先に続いている。


ジュリアは濡れた帳面を広げず、その日の出来事を口で確かめ合った。

誰が軒下を借りる許しを取ったか。

誰が溝を見て、誰が鍬を借りたか。

途中で何度も相談し、進まないと決めたこと。


「これは記録したいです」

彼女が言うと、ヘルマンは首を傾げた。


「書いていいのは、自分たちがしたことだけにしてください。あの家の事情は勝手に書かないで」

「分かっています」


ジュリアは翌朝、本人の言葉だけを短く書くことにした。

けれども、進まなかったことを失敗とは思わなかった。


ハインツが隣へ来た。

「出発して二日目から予定変更だ」

「旅らしくなったわね」


「君はもっと落ち込むと思った」

「一人なら、無理に進んだかもしれない」

「四人だから?」

「四人でも、私一人の気持ちで決めたら同じよ」


ハインツは少し黙り、頷いた。


外では雨がふたたび強くなった。

納屋の水はけを直した溝を、雨水が無理なく流れていく。

祈りで雲を退けることはできない。


しかし今日、ここを守ろうとした手は、四人だけのものではなかった。

エリゼーは女に寝具の扱いを聞き、明朝の片付けを約束してから横になった。

四人は雨のために進路を調整します。

困難を魔法一つで解決せず、人の判断と協力で越えていきます。

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