第三部 異郷の声 75 四人の決意
同じ道を歩くことは、同じ願いを持つことではない。
四人はそれぞれの目的を言葉にする。
北門の外にある茶屋で、四人は初めて旅の日程を相談した。
机には一枚の地図と、ヘルマンが書いた水場の一覧が広げられた。
エリゼーは地図の端を石で押さえた。
ハインツは道具を包む布を広げ、ジュリアは小さな帳面を用意した。
四人は、誰かに命じられてそこへ来たわけではなかった。
「最初の村までは二日ほどです」
ヘルマンが道を示した。
「雨が続けば三日になります。山道へ入る前に、通れる橋を確かめたい」
「宿は?」
ハインツが尋ねる。
「宿屋があるとは限りません。村の人に頼むなら、先に使える場所があるか聞きます」
ジュリアはすぐに書きつけた。
「勝手に泊まれると決めない」
「その通り」
ヘルマンが頷く。
「私は、祈りの違いを確かめたい」
エリゼーは言った。
「でも、誰かの言葉を教会の史実として持ち帰るつもりではないわ。許される範囲で聞くだけ」
「私は記録の扱い方を見たいです」
ジュリアが続ける。
「書き留められた祈りだけでなく、書かないことを選ぶ人の理由も」
ハインツは考え込んだ。
「私は二人の仕事のためだけに行くわけじゃない。会ったことのない人と話したいし、知らない土地で自分の判断をしたい」
「私は道案内をします。ただ、知らないことを知っているふりはしません」
ヘルマンはそう言って四人を見回した。
「体調が悪くなったら、どこで引き返せるかも決めておきましょう」
ハインツが地図を寄せた。
ヘルマンは道中の休憩所と、医療の助けを得られる村の位置を示した。
「この先は、橋が壊れると大回りになります。昔の地図だけでは判断できません」
「それは現地で確かめるしかない?」
エリゼーが尋ねる。
「ええ。必要なら進まない決断もします」
四人は、その言葉を約束として受け取った。
***
買い物の順番が決まると、会話は急に現実的になった。
履き慣れた靴を直すこと。
長い雨に備えて、荷を二重に包むこと。
水と食料はどこで補えるかを確かめること。
ジュリアは持ち物の欄をいくつも書き直した。
ハインツは修繕道具を机に並べた。
針、短い紐、折り畳める小さな刃物。
「私が道具を持つ。荷を積み過ぎるのが一番危ない」
ジュリアは帳面に丸を付けた。
「飲み水は?」
「人数分を分けて持ちましょう。一人が転んでも、全部の水をなくさずに済むから」
ヘルマンの提案だった。
エリゼーは、旅の技術が特別な魔法からできているわけではないと感じた。
「本を二冊、持っていきたいです」
「一冊でいいのでは」
ハインツが聞くと、彼女はしばらく考えた。
「そうですね。途中で読めなければ重いだけです」
「一冊も要らないとは言っていないよ」
「分かっています」
二人は笑った。
エリゼーが持ち出せるのは、私物と許可された簡単な参照事項に限られる。
彼女は原本や制限付きの写しを旅へ持っていく考えを退けた。
それを言うと、ジュリアは安心したようだった。
「私も、自分の作った覚え書きと、見てよい地図だけにします」
「教会の仕事そのものは、残る人へ託す」
エリゼーは言った。
「でも、何かあれば戻る道も考えておく」
ヘルマンが水場の名前を一つ指した。
「ここは前に水が浅かった。私は確認に行きます」
「一人で?」
「日があるうちに往復できます」
「それなら、帰る時刻を決めておきましょう」
ハインツが答えた。
旅は始まる前から、誰かの安全を気遣う仕事になっていた。
しかし、その安全を理由に全員の行動を一人が決めることはしなかった。
***
茶屋を出るとき、ジュリアは帳面を閉じた。
「エリゼーさん、あなたの方の仕事は、出かけても大丈夫なんですか」
「必要な承認はまだ残っているわ。だから、そこが整うまでは出発しない」
「もし、整わなかったら?」
「そのときは、別の方法を考える」
帰宅したエリゼーは責任者へ相談を出した。
限定した期間の私的な旅に伴う勤務の取り扱い。
保管室の原本の管理と、未完の正式照会を誰が受け取るか。
不在中に返事が届いた場合の記録方法。
そのどれも、自分一人で決めることではなかった。
後日、保管体制が整うことを条件に、出発のための休暇が認められた。
彼女は回答を読み、すぐに署名せず、引継ぎ先の名前を確かめた。
夜、ハインツは旅のために修繕した袋を見せた。
持ち手の縫い目は、二度ほどやり直した跡があった。
「うまくいかなくてね」
「でも丈夫そう」
「一度持ってみて」
エリゼーが持ち上げると、重さは思ったより軽かった。
ハインツは笑った。
「まだ何も入れていないから」
「これから入れるものが、重すぎないといいわ」
ハインツは彼女の顔を見た。
「君が昔の答えを探す旅でも、それは君一人の荷じゃない。ただ、私の荷まで勝手に背負わなくていい
」
エリゼーは、彼が何を言いたいか分かった。
以前、エランのためによかれと決め、話を聞かなかったことがある。
ハインツはその過去のすべてを知っているわけではない。
それでも今、相手の言葉を受け取る機会はある。
「荷物も、行き先も、相談しながら決めましょう」
「うん」
翌日、四人は茶屋で再び顔を合わせた。
出発日を決め、必要な手続きと買い物を分担する。
誰のための旅かと問われれば、四人は別々の答えを持っている。
その違いを隠さずに、同じ日に同じ門を出ることだけを決めた。
四人は共同の行程を選びましたが、それぞれの目的は異なります。
旅は一人の決断に従うものではありません。




