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第三部 異郷の声 68 大きすぎる祈り

人が大きな力の話をするとき、その言葉だけで力を増していくことがある。


挿絵(By みてみん)

市場に、小さ人形芝居を広げる男が来ていた。


人垣の外でエリゼーが足を止めると、男は古い災いの話を、身振りを交えて語っていた。

海ほどの水が谷を満たしたこと。

夜なのに空が明るくなったこと。

そして、大勢の祈り手が一斉に唱え、山のような魔法が起こったということ。


子どもたちは息を呑んだ。

大人の中には、笑う者も、胸の前で手を合わせる者もいた。


「それは、いつの話なのですか」

一人の若者が尋ねた。


「はるか昔だ」

「どこの谷?」

男は一瞬、言葉に詰まった。


「どこと言われても、そう伝わっているのだ」

人垣から失笑が上がる。

男はさらに大きな声で、光の話を始めた。


「空が割れたと聞いた者もいる。神の手が山を持ち上げたと――」

「私の祖母は、そんな話はしなかった」

後ろから声がした。

振り返ると、ヘルマンが立っていた。

男が眉をひそめる。


「お前の祖母の話が、皆の話と同じとは限らん」


「そのとおりです」

ヘルマンは穏やかに答えた。


「だから、ほかの人の話も、同じだと決めない方がいい」

人垣は静かになった。


エリゼーは二人の間に割って入らなかった。

どちらも、その場にいなかった昔について語っている。

一方だけを黙らせれば、答えが出るわけではない。


そこへ人形芝居の男の子たちが小さな箱を運んできた。

芝居の男が一枚の絵を掲げた。

描かれた山の斜面には、人が粒のように並んでいた。

絵を見た少年が声を上げる。


「祈りが大きすぎたら、山まで動かせるの?」

男は答えに迷い、やがて言った。


「そういう話を聞いたことがある」

少年は母親の顔を見た。


「じゃあ、家の裏の石をどかしてもらおう」

母親は首を振った。


「石が動くと思って近づいてはだめよ。あの石は、みんなで運ぶ相談をしているの」

少年は不満そうだった。


エリゼーは思わず、その母親に目を向けた。

信仰の話を否定しているのではない。

今日の子どもが怪我をしないように、今できる判断をしているのだ。


ヘルマンもそのやり取りを見ていた。


「話は、聞く人の足元にも届きますね」

「だから、どう語るかも大事なんでしょう」

エリゼーが答えた。


男はそれを受け取り、話を終えた。

客が銅貨を置いて離れていく。


「言い過ぎましたかね」

男がヘルマンへ尋ねた。


「聞く人が、話と本当の出来事を同じだと思わなければ」

「そんなことは客が決めることだ」

男は肩をすくめた。


エリゼーはようやく口を開いた。

「あなたは、その話を誰から聞いたのですか」


男は荷を片付けながら答えた。

「父から。父は祖母から。祖母が誰から聞いたかは知りません」


「では、そのことを次に話すときも伝えてください」

男は彼女を見た。


「面白くない話になりますよ」

「それでも、聞く人はいると思います」


男は返事をしなかった。

男は芝居の道具を一つずつ片付け、布へ包んだ。

布の端が少しずつ擦り切れている。


「父が作った物なんです」

不意に、男は言った。


「子どものころは、この明るい空が怖くてね。夜にこんな光を見たら、きっと目を開けていられないと思った」


「お父さんは、実際に見たのですか」

「いいえ。父も、祖父から聞いたのだと」

男は布に包まれた道具の角を撫でた。


「でも、怖い思いをした誰かの話だったんでしょう。笑って捨てるには、長く聞いてきすぎました」

エリゼーは頷いた。


「捨てなくていいと思います。ただ、見た人が誰なのか分からないことも、そのまま残してほしいんです」


男はすぐには答えず、包みの結び目を結び直した。

エリゼーはそれ以上頼まなかった。

彼にもまた、受け継いだものを次へ渡す方法がある。



***


二人は人垣が消えた広場の石段に座った。

ヘルマンは手の汚れを払っていた。


「私の故郷の話も、ああやって変わったのかもしれません」

「本当に大きな魔法があったと思いますか」


「知りません。あったかもしれないし、違う出来事が重なったのかもしれない」

「でも、祈った人々はいたと思う?」

「そう願いたかった人々は、いたでしょう」


エリゼーは、市場で見た子どもたちの顔を思い出した。

大きな光の話に目を輝かせていた。

いつかあの子たちは、自分の村の出来事にその話を重ねるだろうか。


「紙に記録された言葉にも、似たことが起きているわ」

「書けば変わらないのでは」


「言葉が変わらなくても、後で読む人が変わる。何を重要だと思うかによって、同じ一行が違って見えるの」

ヘルマンは黙っていた。


「だから私は、確かなことを少しずつ残したい」

「少しずつで、間に合うでしょうか」

エリゼーは答えられなかった。


戻る道で、ヘルマンは先を歩かなかった。

彼女の歩調に合わせて並び、分かれ道を教えた。


エリゼーには、その距離の取り方がありがたかった。

疑問は増えたが、それを急いで他人の答えに置き換えずに済んだ。

強大な魔法と光は伝承の中の出来事です。

実在や災いとの因果はまだ確定していません。

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