第六部「異なる岸の記録」 231 決まらない人数
次の港で、誰と歩くのか。
人数を数えるだけの話には、まだならない。
五人は答えを出せないまま、夜の廊下へ戻る。
夕食の器が片づいたあと、マレーナが口を開いた。
「皆さんも、ヴェリオスへ向かわれるのですね」
エリゼーは頷いた。
「ええ。一度降りてみようと」
「私は、そこで下りるつもりです」
昼に聞いていたヘルマンとジュリアは黙っていた。
ハインツが顔を上げた。
「同じ港ですね」
マレーナは微笑んだ。
「もし時間が合えば、少し一緒に歩けたらと思って」
エリゼーはヘルマンを見た。
彼はマレーナへ顔を向け、次にジュリアを見た。
その目の動きに、昼間の話の続きがあると感じた。
「まだ、着いてからどうするかは決めていないんです」
エリゼーは答えた。
「私たちには用務もあるので、それをどうするか確かめてからになります」
マレーナは頷いた。
「もちろん。皆さんにも予定はありますものね」
ヘルマンが少し身を乗り出した。
「でも、一緒に歩ける時間があるのなら」
そこで言葉を止めた。
ジュリアが彼を見ていた。
突き刺す目ではなかった。
返事を見守る目だった。
「僕は、歩けたら嬉しいです」
彼は最後まで言った。
マレーナは静かに頷いた。
ジュリアはゆっくり卓の縁へ指をずらした。
「五人で、ということで?」
問いが出ると、全員が一度黙った。
人数を確かめるだけなら、簡単に答えられるはずだった。
しかしヘルマンは、すぐには頷かなかった。
「四人で動く時間もあるだろうし、いつも同じ人数でなくても」
彼は言った。
ジュリアは目を伏せた。
自分もそう考えていたはずだった。
それでも今、彼の口から聞くと、自分が含まれない時間を思い浮かべてしまう。
ハインツが水の器へ手を添えた。
「僕たちも、四人でなければ歩けないわけじゃない」
エリゼーは彼を見た。
昼、二人で過ごす先の時間を言葉にしようとして、うまくできなかった。
人数を変えれば自由になることもある。
その自由が、誰かを寂しくさせることもある。
「まず、何をしたいかを聞いてからでもいいのではないかしら」
エリゼーが言った。
マレーナは頷いた。
「私は、繕いの仕事を探したいと思っています。でも、その用事に付き合っていただくつもりで声をかけたのではなくて」
彼女はヘルマンへ一度目を向けた。
「ただ、知っている方と、少し歩けたらと思ったんです」
ジュリアはその言葉を聞いた。
自分もマレーナを知っている。
朝食を共にし、部屋で話もした。
それなのに、今の言葉が自分へ向いたものかどうかを考えてしまった。
「私も、お話しできたら嬉しいです」
ジュリアは言った。
マレーナが顔を向けた。
ジュリアは彼女をまっすぐ見た。
嘘ではなかった。
ヘルマンと二人にしたくない気持ちだけで言ったのでもない。
自分の気持ちを一つの塊にできなかった。
「ありがとうございます」
マレーナが答えた。
ヘルマンは二人を見た。
笑えば話がまとまったように見える気がしたが、笑えなかった。
五人で行こうと言えば、誰も置いていかずに済むだろう。
しかし、その返事を簡単に考えてしまうのは、違うように思えた。
「着く前に、また話そう」
彼は言った。
「今、決めてしまうより」
エリゼーが頷いた。
ジュリアも、少し遅れて頷いた。
四人か、五人か。
それぞれ別の時間を持つのか。
問いはそのまま残った。
食堂では、片づけの音が続いていた。
五人は席を立った。
マレーナは自分の船室へ向かうところで、四人へ挨拶した。
「おやすみなさい」
ヘルマンの返事とジュリアの返事が、少し重なった。
マレーナは二人を見て微笑み、廊下を歩いていった。
三つの扉の前へ戻ると、四人も立ち止まった。
ヘルマンが手前の扉を開ける。
ジュリアは隣の留め具へ手をかけた。
昨夜なら、食堂でまた会うかもしれないと思った。
今夜は、彼が部屋に入る背を見て、何も言わなかった。
エリゼーとハインツは奥へ進んだ。
扉が閉まると、二人の部屋には窓の暗さが残った。
「難しいね」
ハインツが言った。
「ええ」
エリゼーは誰の気持ちを指しているのか尋ねなかった。
自分たちの昼の会話も、まだ終わっていない。
二人は寝支度を整え、短くおやすみを交わす。
今日の会話の中で言葉になっていない部分が
部屋の空気に混じっていた。
隣の部屋でジュリアは灯りを落とし、ヘルマンも寝台へ体を横たえた。
マレーナも自室で休む支度を終えた。
五人の行き先は同じ港でも、その夜に思い描く道はまだ重ならなかった。
船の音だけが、閉じた扉の向こうにも続いていた。
五人で歩くか、四人で動くか、答えは出ませんでした。
それぞれが欲しい時間と、誰かを待つ気持ちを抱えています。
結論を翌日以降へ残し、五人は自分たちの部屋で夜を迎えました。




