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第六部「異なる岸の記録」 227 書き留めたい声

昼食を終えたジュリアは、甲板へ上がる。

そこには、すでに続いている二人の会話があった。

残したいと思う言葉に、別の感情が混じる。

ヘルマンの笑い声が、先に聞こえた。

ジュリアは足を止めず、声のした方へ向かった。


彼の隣にマレーナがいた。

二人の前には食べ終えた器があり、パン屑が少し残っている。


「こちらにいたんですね」


声をかけると、ヘルマンが顔を上げた。

「ジュリア。食事は終わった?」

「はい」


マレーナも挨拶した。

ジュリアは彼女へ笑みを返したつもりだった。

うまく笑えているか、気になった。


「何のお話ですか」

「仕事の話を、少し」

ヘルマンが答えた。

「マレーナさんは、ヴェリオスで繕いの仕事を探したいんだって」


ジュリアは彼女を見た。

初めて聞く話だった。

同じ朝食の卓にいたのに、ヘルマンはもう、自分が知らない彼女の希望を知っている。


「直したことを忘れるくらい、使い続けてもらえたらと話していたんです」

マレーナが言った。


ジュリアは、その言い方に心を引かれた。

働く人が、自分の仕事をどう見ているか。

何を喜び、どんなことを寂しいと感じるか。

紙があれば、そのまま残したくなる言葉だった。


「素敵な言葉ですね」

彼女が言うと、マレーナは少し照れたように笑った。

「そんな立派なものではありません。気づいてもらえなければ、それはそれで寂しいんですから」


ヘルマンが笑った。

「そこが、僕と似ていると話していたんだ」


ジュリアは彼へ目を向けた。

その笑いに、自分が知らない続きを感じた。


今朝、彼の部屋で聞いたことを思い出す。

話していないと役目がないように感じること。

自分はそれを、少しだけ特別に聞かせてもらったと思っていたのかもしれない。


「どんなところが?」


尋ねた声は、思ったより硬かった。

ヘルマンは少し間を置いた。


「道を案内したあと、相手が一人で歩けるようになると嬉しい。でも、それで別れるのが惜しいこともあるという話」


ジュリアは頷いた。

記録したくなる言葉が、また増えた。

二人の話をきちんと聞けば、自分がここに来た理由もできる気がした。


彼女は手を動かしかけた。

しかし、今は筆記具を出していない。

ここは公式の聞き取りの場ではなかった。

ヘルマンもマレーナも、記録されるために話しているのではない。


「何か、書く?」

ヘルマンが尋ねた。


ジュリアは手を下ろした。

「書きたくなりました。でも、今は聞いているだけです」


マレーナは彼女を見た。

「言葉を残すお仕事をなさるのですか」

「ええ。記録に携わっています」


ジュリアはそれ以上、任務の説明を広げなかった。

今、この二人の会話を自分の仕事へ引き寄せれば、輪の外にいる感じを薄められるのではないか。

そんな思いが、記録したい気持ちに混じっていると気づいたからだった。


「お邪魔をしたでしょうか」

彼女は言った。


ヘルマンがすぐに首を振った。

「そんなことはない。座る?」


マレーナも器を少し寄せた。

空いた場所へジュリアは腰を下ろした。


二人が自分を拒んでいないことは分かる。


それでも、座る前から始まっていた話へ入るのは、簡単ではなかった。


「ヴェリオスには、初めて行かれるのですか」

彼女はマレーナへ尋ねかけ、言葉を止めた。


質問を重ねれば、聞き手の役は作れる。

だが、今朝の食卓で好きな味を話したときのように、自分も何かを話したかった。


「私は、直したところが分からない仕事に、気づけないかもしれません」

代わりにそう言った。


「あとから教えてもらって、驚く方だと思います」


マレーナは頷いた。

「それでも、使ってもらえたら嬉しいです」


穏やかな返事だった。


ジュリアは彼女を嫌いになる理由がないことを、困ったように思った。

今、胸にある小さな痛みは、相手の悪いところを見つければ消えるものではない。


ヘルマンが二人を見ていた。


ジュリアはその目を一度見返し、すぐ水面へ視線を戻した。


記録するなら、今の自分の顔はどんな言葉になるのだろう。


彼女は、それだけは紙にしたくなかった。

ジュリアは二人の言葉を残したいと思いながら、筆記具を出しませんでした。

その願いには、会話へ入りたい気持ちも混じっています。

マレーナへの好意と、小さな嫉妬が同じところにありました。

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