第六部「異なる岸の記録」第225章 甲板の昼食
昼食へ向かう四人のうち、一人が足を止める。
同じ食事でも、別の場所で食べたい日がある。
ヘルマンは、甲板へ持っていける器を受け取る。
三つの扉から出てきた四人は、廊下で合流した。
エリゼーはハインツの隣にいた。
ジュリアは自分の部屋の戸を確かめ、ヘルマンへ顔を向けた。
「行きましょうか」
彼は頷いて歩き出したが、食堂の手前で足を緩めた。
「僕は、今日は甲板で食べてみたい」
ジュリアが彼を見た。
ほんの少し前まで彼の部屋にいたのに、その希望は知らなかった。
自分に言わずに決めたことを気にする理由はないはずだった。
「持っていけるものなら、と言っていたものね」
エリゼーが答えた。
「ええ。オットーさんに聞いてみる」
食堂では白身魚と馬鈴薯の香草焼きが配られていた。
焼いた魚の匂いに、温かな芋と香草が混じっている。
丸パンと豆の冷菜も添えられた。
ヘルマンが申し出ると、オットーは蓋付きの器へ魚と芋を詰めた。
「汁物ではないので運べます。器は戻してください。場所は船員に確かめて」
ヘルマンは礼を言って盆を受け取った。
三人はいつものように卓へ向かった。
ジュリアが一度振り返り、彼は軽く手を上げた。
彼女も頷いた。
甲板では、風の当たり方と人の動きを見て、食べてよい場所を確かめた。
腰を下ろし、盆を安定させてから蓋を取る。
湯気がすぐに横へ流れた。
ヘルマンは魚を一口食べた。
皮のところに香りが残り、芋は表面が少し固く、中が柔らかかった。
食堂なら誰かに味を伝えただろう。
今は自分の口の中だけで確かめた。
一人で食べると、少し早くなる。
誰かの返事を待つ時間がない。
彼はパンを持つ手を止め、水面へ目を向けた。
「こちらでも、食べられるんですね」
顔を上げると、マレーナが立っていた。
ヘルマンは口の中を飲み込んでから答えた。
「食堂で器を頼んで、ここは大丈夫だと聞きました」
彼女は盆を見た。
「気持ちがよさそう」
「すぐ冷めますけど」
マレーナが笑った。
「それでも、今日はそうしたい気がします」
彼女はいったん食堂へ戻り、自分の食事を持ってきた。
ヘルマンは隣に置けるところを確かめ、荷物のない側を少し空けた。
二人の盆は並んだが、肩は触れない距離だった。
「お連れの方は?」
マレーナが尋ねた。
「食堂です。今日は僕だけ、こちらへ」
「いつも四人でいらっしゃるのかと思いました」
ヘルマンは首を振った。
「一緒にいる時間は多いです。でも、さっきもそれぞれ部屋に」
言いかけて、ジュリアが部屋へ来たことを思い出した。
あの会話まで話す必要はなかった。
彼は魚の小骨を確かめ、器の端へ寄せた。
マレーナは豆を口へ運んだ。
「これ、冷たいのがいいですね。焼いたものと一緒だと」
「僕は、もう少しパンが欲しくなった」
「まだ食べ始めたばかりでしょう」
彼女が笑うと、ヘルマンも笑った。
それは自分を気遣って作られた笑いには見えなかった。
彼はもう一口、パンをちぎった。
風が器の蓋を動かしかけた。
マレーナが押さえ、ヘルマンは自分の蓋を盆の内側へ寄せた。
二人ともすぐに直し、それで会話が止まることはなかった。
「船の上だと、食べるのも仕事ですね」
彼が言うと、マレーナは海を見た。
「でも、歩かずに先へ行けるのは、不思議です」
ヘルマンは頷いた。
その言葉から、これまで歩いてきた道を思い出した。
自分の足で一つずつ越えた場所には、案内した相手の声がついていた。
「僕は、道を歩くことには慣れていたんです」
マレーナが彼へ顔を向けた。
急いで次の話を重ねず、彼が続けるのを待っていた。
ヘルマンは、もう少し話してもよい気がした。
一人で食べるつもりだった昼食に、マレーナが加わりました。
食堂にいる三人とは別の会話が始まっています。
ヘルマンの言葉は、歩いてきた道へ向かいます。




