第五部「交易都市編」第五幕「港、決断、出航前の乗船」 200 足を止めた人
たしかめたいことは、いつも大きな問題の元になるとは限らない。
小さな包みは、ジュリアの手のひらに収まるほどだった。
紙片と筆記具、それから旅の途中で書き留めた控え。
中身は誰かに秘密にしているわけではない。
ただ、自分で使い、自分で確かめながら運んできたものだった。
港の旅客案内所の中の部屋で、クララは手荷物の扱いについて追加の説明をしていた。
先日尋ねた受渡し方法に関して、貨物側の担当者から伝え聞いた内容を説明するという。
ジュリアは机の上に置かれた控えを読んだ。
そこには「小型の手回り品」という表現があり、説明の途中に「小さな包みも預ける場合がある」という言い方があった。
どちらも間違いとは限らない。
しかし、その二つの違いをどこで分けているのかが分からない。
「この包みは、どちらになりますか」
彼女が尋ねると、クララは視線を落とした。
「大きさだけでは決まりません。置き場所や取り扱いの都合もあります」
「では、それを決める人は誰ですか」
「船側で確認します」
「確認する前に預けるよう言われたら?」
クララはすぐには答えなかった。
後ろで待っている人の足音が近づいた。
自分が面倒な客だと思われ始めているのが、ジュリアには分かった。
そういう空気は記録室でも経験した。
書く人にとっては一語の違いでも、待っている人には仕事を止める長い時間に見える。
以前の彼女なら、早く済ませようとして飲み込んでいたかもしれない。
別のときには、相手の曖昧さを責めるように問いかけていたかもしれない。
今日は、そのどちらも選びたくなかった。
「預けないと言っているわけではありませんが」
ジュリアは言葉を整えた。
「預けるなら、誰に、どんな形で渡したことになるのかを知りたいんです。その説明の前に、私が理解したことにされるのが困ります」
クララは顔を上げた。
「承知しました」
けれどその返事には、先が続かなかった。
ハインツが動いた。
ジュリアは横目で見たが、彼が自分の代わりに話す様子ではなかった。
右腕の位置を直しただけだった。
エリゼーは彼女の後ろにいた。
大丈夫かと尋ねる代わりに、そこに立っている。
ヘルマンは待つ人のために少し道を空けていた。
四人の行動が、ひとつの結論へ揃うことはなかった。
「少し整理させてください」
クララは紙の上の二つの表現を指した。
「こちらは旅客に示す一般的な説明で、こちらは貨物側からの運用上の返事です。私の説明がつながっていなかったのかもしれません」
その言葉を聞いて、ジュリアは飲み込み辛かった。
クララは彼女自身の仕事について、言いにくいことをあえて口にしたのだと思った。
「いま決められないなら、決められないまま記してもらえますか」
「できます」
「私の荷のことも、ほかの三人の荷とは別に」
「はい」
クララが小さな余白に筆を置いた。
「小型包みの扱い。旅客本人から確認希望。受渡し方法、要再確認。」
ジュリアは書かれた行を声を出して読んだ。
自分の言いたかったことが言葉としてそっくり残ったわけではない。
だが、読んだことで分かったと伝わったわけでもない。
外へ出ると、港の鐘が鳴った。
何の時刻を告げたのか彼女は知らなかった
。
荷を運ぶ人々は音に合わせて動く者もいれば、変わらず働き続ける者もいた。
港にはたくさんの時計があるのだろう。
けれど、自分が納得するまでにかかる時間を、その鐘に合わせることはできない。
「長くなったね」とヘルマンが言った。
「そうですね」
「嫌だった?」
ジュリアは少し考えた。
「なんとなく。でも、聞かなかったことにするよりは」
ヘルマンは頷いた。
部屋に戻ってしまったとき、彼女を面倒な客として思い出すかもしれない。
その可能性が消えたわけではない。
それでもジュリアは、あそこで立ち止まったことを、今日は考えなくてよいと思った。
アルシオン号には、エストラーヴを出て三つの港を経由し、ノルヴァへ至る計画がある。
けれど、計画の上に港の名があることと、そこで自分の包みがどう扱われるかは、まるで別だった。
ヴェリオス、タルマ、ロスカ。
その名を順に思い浮かべても、いまわかっているのは目の前の説明だけだった。
まだ船へ乗る約束はできていない。
小さな包みの扱いすら決まらない。
だが、決まらないことを決まらないままだとしても、記録として残すために、声を出した人間がここにいる。
ジュリアには、もう一つ気がかりな紙があった。
教会へ伝える休暇の延長希望である。
海路の話が長くなったからといって、休暇が自動的に延びるわけではない。
その紙もまた、誰かに理解したことにされる前に、自分の言葉で送らなければならなかった。
それだけは、書類の余白には入りきらなかった。
手荷物をめぐる食い違いは次に続きます。
説明責任と当人の尊厳を主題に書きました。




