第五部「交易都市編」第四幕「四人の距離とそれぞれの選択」 188 怖さの言い方
同じ船へ向かおうとする四人が、同じものを恐れるとは限らない。
怖いと言えることは、強さを証明するより難しい場合がある。
船側へ照会を預けてから、旅舎で口に上る話題が少し変わった。
船に乗れるかどうか分からないと誰もが知っている。
それでも、知らないうちに「乗れたら」という言葉が増えていた。
ハインツはその言葉のたび、右腕を意識した。
痛むところを先回りしてかばう癖がつき、
それが人に見つかるのも嫌だった。
夜の食卓で、エリゼーが言った。
「船に乗ることを、怖いと思ったりする?」
誰に向けた問いでもないようだった。
ヘルマンが最初に口を開く。
「怖くないと言えば嘘になるね」
「何が?」とジュリアが尋ねた。
「自分が知らないことを、知っている顔で話してしまうことかな」
ハインツは思わず笑いそうになった。
海の恐ろしさではなく、自分の役目の話だったからだ。
けれどヘルマンの表情は真剣だった。
「港までの道は歩いて確かめられる。でも、船の上の道は、自分の足で選べないことが多いだろう」
ヘルマンは杯を回した。
「皆を案内してきたつもりだから、何か起きたときにも先に答えなきゃいけない気がする」
「答えられないなら、答えられないと言えばいい」とハインツ。
「それを君に言われるとは思わなかった」
二人は少し笑った。
ジュリアは手元の紙を畳んだ。
「私は、あの船のことを調べているうちに、書いておけば分かった気になるのが怖いです」
「まだ分からないのが怖い?」とエリゼー。
「分からないまま誰かに説明して、信じてもらってしまうことが怖いんです」
「私たちも、あなたの言うことを確かめる責任があるわ」
ジュリアは頷いた。
「それでも、信じてもらうのは嬉しいから。そこが怖い」
言い終えた彼女は、聞かれたことより多く話してしまったように顔を伏せた。
エリゼーは何も言わずにいた。
少しの沈黙のあと、ハインツが言った。
「俺は、何かあったとき身動きが取れないのが怖い」
口にすると、予想していたほど惨めではなかった。
「船の狭いところで、荷物が動くとか、誰かが倒れるとか。そういうとき右腕がうまく使えなかったら」
エリゼーが彼の手を見そうになる。
ハインツは先に言った。
「ん、腕を見てもいいよ。ただ、今ここで大丈夫だと言わないでほしい」
「言わないわ」
彼女は顔を上げたまま答えた。
「それでも、船をやめたい?」とジュリアが尋ねた。
ハインツは驚いた。
やめたいと言ったら、三人はどうするだろう。
すぐに大丈夫だと励ますかもしれない。
一緒にやめると言うかもしれない。
どちらも、今は受け取る準備ができていなかった。
「やめたいと決めたわけじゃない。怖いことと、行きたいことが一緒にある」
「そうですね」とジュリア。
彼はその返事を聞き、肩の力を抜いた。
エリゼーは自分の杯の中を見ていた。
「私は、船を出したあとで、戻りたくなるのが怖い」
「故郷に?」とヘルマン。
「場所だけじゃないの。ここでやり残したことが、向こうで急に大きく思えるかもしれない」
彼女は一度言葉を止めた。
「ずっと、何かを確かめ終えてから動かなければならないと思っていた。けれど、確かめられないことが残っている」
「そのまま行くことになるかもしれない」とヘルマンが言う。
「そう。それを、ずるいことのように感じそうで」
食卓の向こうで、皿を運ぶ音がした。
四人は話を中断し、通る人に場所を譲った。
旅舎の仕事は、彼らの怖さを聞くために止まらない。
そのことがありがたかった。
怖いと話した四人も、食べた皿を片づけ、水を飲み、翌日の用件を考えなければならない。
恐れが生活のすべてになるわけではなかった。
「全員、違う話をしたね」とヘルマンが言った。
「私たちは、同じものを恐れているわけじゃないから」とジュリア。
「でも、一緒に乗ったら、何かが起きたときは一緒だ」とハインツ。
エリゼーは首を横に振った。
「一緒にいることと、同じ目に遭うことも違うわ」
誰も言い返さなかった。
その違いが正しいかどうか、まだ分からないからだった。
食卓を離れるとき、ハインツはジュリアに尋ねた。
「さっきの質問、俺がやめたいと言ったらどうした?」
ジュリアは少し困った顔をした。
「その理由を聞いたと思います。でも、続けるようには説得しなかったと思いたいです」
「思いたい?」
「自分が本当にそうできるかは、まだ分からないから」
彼は頷いた。
確信のない返事の方が、今夜は信じられる気がした。
部屋に戻ると、右腕を下ろす位置が定まらなかった。
ハインツは椅子を動かし、窓を閉め、灯りを少し弱めた。
船の揺れも、風の強さも、まだ知らない。
それでも今夜、怖さを聞いた三人の顔は知っている。
そのことを勇気と名付ければ、また何かを証明しなければならなくなる。
だから彼は、怖かったと話せた一日だった、とだけ思うことにした。
四人の不安をそれぞれ異なるものとして描き、誰かの怖さを励ましで消しません。




