第五部「交易都市編」第四幕「四人の距離とそれぞれの選択 187 調べる船
船の名を知ることと、乗れることは別だ。
紙の上の候補を、いま乗る船へ変えるには、まだ多くの人の判断が要る。
ジュリアは候補便について書いた紙を開き、空欄を数えた。
船側へ確認すること。
本人たちで決めること。
いま調べても分からないこと。
三つに分けたつもりだったが、読み直すたびに項目が移った。
荷の都合で予定が変わる可能性は、船側へ聞かなければならない。
予定が変わった場合に旅を続けるかどうかは、四人の判断だった。
二つを一行に書いていた。
「同じ文の中に、違う人の責任がある」
とジュリアが言うと、ヘルマンが顔を上げた。
「どれ?」
「ここです」
彼女は紙を差し出した。
ヘルマンは一度読み、もう一度読んだ。
「確かに、私たちが決めれば動く話に見える」
「それが怖いんです」
「船の人の時間まで、紙に入れてしまうから?」
ジュリアは頷いた。
「頼んだことを、返事が来たことにしたくない」
旅舎の端の机を借り、四人は照会する項目を絞った。
少数の旅客を扱う余地があるか。
人を受け入れる場合、荷と一緒にどのような条件があるか。
出入りする港について、何を事前に説明できるか。
未確定のことは未確定として答えてほしい。
最後の一行は、ジュリアが加えたものだった。
尋ねる側に都合のよい答えを求めないためだった。
「少し失礼じゃないか」
とハインツが言った。
「分からないなら分からないと書いてくれ、と言われたら」
「私たちも、分からないことが多いと伝えればいい」
とジュリアは答えた。
「同じ立場になれるわけじゃないけれど」
ハインツはしばらく考え
「そうだな」と言った。
今の彼は、反対することに以前ほど力を入れていない。
それが調子のよさなのか、疲れなのか、ジュリアには判断できなかった。
エリゼーは文章を見て、一か所だけ指を置いた。
「ここ、四人で乗ることを前提にしていいのかしら」
ジュリアは筆を止めた。
四人で旅を続けたいという意思は確かめてきた。
だが、四人を一度に受け入れられる船かどうかは、まだ知らない。
「四人での乗船を希望している、と書きます」
とジュリア。
「その方が正確ね」
以前なら、エリゼーからの訂正に、自分の不注意だけを感じただろう。
今日は、紙の前で同じところを確かめる人として彼女を見られた。
照会文が整うと、ヘルマンが持って出ようとした。
「私も行きます」とジュリアが言う。
「道は知ってるよ」
「道を知りたいんじゃありません」
ヘルマンは少し驚いた。
ジュリアは息を整えた。
「書いた人間として、渡すところまで見ておきたいんです」
「そうか」
「それに、私の書き方が相手に通じなければ、私が聞き直せます」
二人は水路に近い通りを歩いた。
船そのものが見える場所へ行くのではなく、情報を扱う窓口のある方へ向かう。
途中で運び手の列が道を横切り、しばらく待たされた。
待っている人の前では、一枚の紙を出す用事がとても小さく見える。
ジュリアは自分たちの旅が、港で働く人々にとって特別な出来事でないことを思い出した。
小さな用事として正確に扱われる方が、たぶんよいのだ。
窓口にいた人は、すぐに返事を約束しなかった。
用件を聞き、紙を確認し、預かれる範囲を説明した。
ジュリアは相手の言葉を遮らないようにして聞いた。
ときどき言葉の端が曖昧になったが、急いで都合のよい意味に直さなかった。
「これは、まだ申し込みにはならないのですね」
と確認すると、相手は頷いた。
「条件を確かめるための照会です」
その区別が聞けただけでも、来た意味はあった。
帰り道、ヘルマンが言った。
「預けてしまうと、少し決まった気がするね」
「します」とジュリアは認めた。
「だから、帰ってから皆に、決まっていないと話さないと」
「そこまで言わなくても分かると思うけど」
「私も分かっているつもりで、忘れそうだから」
ヘルマンは笑った。
彼女もつられて笑ったが、胸の中には小さな緊張が残った。
旅舎へ戻ると、エリゼーとハインツが別々の用事をしていた。
二人の時間を中断して、照会が済んだことを伝える。
「受け取ってもらえました」とジュリア。
ハインツが顔を上げた。
「返事は?」
「まだです」
「そうか」
彼は自分の手元へ戻った。
エリゼーは「お疲れさま」と言いかけ
代わりに椅子を引いてくれた。
ジュリアは座り、渡した紙と自分の写しの違いを確かめた。
同じことが書かれている。
だが今、一方は誰かの仕事の中にあり、もう一方は自分の手元にある。
紙が離れたことで、決める権利まで離れたわけではなかった。
返事を待つ時間を、四人で引き受けられるようにしたかった。
既に選定していた候補便に対して条件照会を行いました。
受領は予約成立を意味せず、船名の明示・旅客受入の承認・出発日は次幕以降になります。




