第五部「交易都市編」第四幕「四人の距離とそれぞれの選択 186 水上を選ぶ理由
近道に見えるものが、誰にとっても楽な道とは限らない。
人の体を思いやることと、その人の代わりに選ぶことも違う。
ハインツは旅舎の卓に置かれた二枚の紙を見比べた。
片方は陸の道についてヘルマンが書いた覚え。
もう片方は、船で移動する場合に確かめるべきことの一覧だった。
紙の厚さはほとんど同じなのに、触れる指の重さが違うように感じる。
海の方には、まだ知らないことが多すぎた。
だが、陸の方を詳しく知っているわけでもなかった。
「歩けないとは言ってないよ」
とハインツが言うと、三人が顔を上げた。
誰もそんなことを言っていなかった。
だからこそ、口にしてしまったことが恥ずかしい。
「先に言っておきたかっただけだ」
「分かった」とヘルマンが答えた。
それだけで済まされると、また説明したくなる。
痛むときはある。
以前より気にならない日もある。
右腕の状態は、その両方の間を行き来していた。
歩くことと、荷を持つことと、道の途中で休めることは別々の問題だった。
ジュリアが紙を指さす。
「陸路の途中でも、移動の手段を変えられるとは限りませんね」
「船だって途中で降りられるとは限らない」
とハインツは返した。
「そうですね」
彼女は反論しなかった。
それがかえって議論の続きを促した。
「船の狭い場所で、身動きが取れなかったら困る。そういうことは考えたい」
「考える必要があるわ」
とエリゼー。
その言い方には心配があった。
ハインツは心配を受け取り、腹を立てずにいる方法を探した。
窓の外では荷車が止まり、積まれた樽が一つずつ下ろされていた。
作業する人たちは互いの動きを見ていた。
誰かが遅くなれば、別の人が待つ。
待たれた人が、そのたび謝っているわけでもなかった。
ハインツは不意に、四人が歩いてきた道を思い出した。
待たせたことを数え続ければ、旅はどこかで借金のようになる。
逆に、待ってもらえることを当然と思えば、相手の足まで自分のものにしてしまう。
「水を選ぶなら、俺の腕が理由だって言わないでほしい」
と彼は言った。
エリゼーが顔を上げる。
「理由の一つにもならないの?」
「一つかもしれない。でも、それだけにすると、俺が良くなった途端に選び直すべきだったことになる」
「そのときは選び直してもいいでしょう」
とジュリア。
「うん。でも、俺の具合で全員の予定が決まったことにしたくない」
ヘルマンは地図を伏せた。
「海を第一候補にしたのは、腕のためだけじゃない。荷の量も、移動しながら調べられることも、途中で頼れる人がいるかも、皆で考えた」
「頼れる人がいるかは、まだ分からないでしょう」
とジュリアが言う。
「そうだ。だから調べる」
ヘルマンは間違いを直されても不快そうではなかった。
それがハインツには少し羨ましい。
自分は、訂正されるたびに能力の不足を告げられた気がする。
昼前、四人は中庭へ出た。
日差しの届く石段に腰を下ろし、飲み物を分ける。
風が吹くたび、旅舎の洗濯物が乾いた音を立てた。
海の上でも、これほど自由に場所を選んで休めるだろうか。
ハインツは一度口を開き、閉じた。
旅の前から不安ばかり話す人間だと思われたくない。
しかし、弱さを見せなければ判断に加われないというのも、おかしな話だった。
「船に乗れたとして」と彼は言った。
「俺は、船の中で何ができるかを確かめたい。できないことを言いに行くだけじゃなく」
エリゼーは頷いた。
「あなたのしたいことね」
「そう。助けを借りることもあると思う。でも、何を頼むかは俺から話したい」
彼女は返事を探していた。
「分かったつもりにならないようにする」
と、ようやく言った。
ジュリアが少し笑った。
「船の人は、そんな話をする時間をくれるでしょうか」
「分からない」とヘルマン。
「だから、質問を短くしておくしかないね」
ハインツは自分の手を見た。
左手は何もせず膝に置かれ、右手は袖の内側で静かだった。
そのどちらも、彼の一部だった。
夕方、彼は二枚の紙の上に、新しい一行を加えた。
「体への負担は本人に確認する」。
書いてから、四人で読む紙にこれを置いてよいか迷った。
自分だけの不満を、皆の決まりにすることになるかもしれない。
隣にもう一行加える。
「本人の知らない危険については、知る人が知らせる」
二つを並べると、どちらかだけでは足りないことが見えた。
エリゼーが戻ってきて、紙を読んだ。
「いい言葉ね」と言いかけて、やめる。
ハインツはその口元を見て笑った。
「言っていいよ」
「でも、私が褒めるために書いたんじゃないでしょう」
「それもそうだ」
二人は紙を卓の中央へ置いた。
その文字を採用するかどうかは、まだ全員に聞いていない。
けれどハインツは、自分の腕を説明する言葉が、少しずつ旅の条件へ変わっていくのを感じた。
傷がなくなることを待たなくても、考える側に居続けられるのだった。
水路優先の既定方針を維持しながら、身体への配慮を本人の発言権から切り離さずに扱いました。




