五部「交易都市編」第四幕「四人の距離とそれぞれの選択 176 四つの行き先
一つの道を選んでも、そこへ向かう理由まで同じになるとは限らない。
ヘルマンが港への道を確かめて戻った日の夕方、石楔旅舎の食卓には少し奇妙な静けさがあった。
道が分かった、と報告すれば皆が喜ぶと思っていた。
ところがエリゼーは「何を見に行けるのかしら」と尋ね、ジュリアは「そこで誰と話せるのでしょう」と言い、ハインツは右腕の袖口を直しながら、何も言わなかった。
誰も間違った問いをしていない。
それでも一つの話題から四つの道が伸びているようだった。
「港へ行くこと自体が目的ではないね」とヘルマンは言った。
「少なくとも、私にとっては」
ジュリアが杯を置く。
「私もです。でも、港で働く人たちの話は聞いてみたい。私たちが何を望むかより前に、そこに暮らしている人がいるから」
エリゼーは頷きかけた。
しかしすぐに頷くと、その言葉を自分と同じ意見へ回収してしまう気がして、手を膝に戻した。
「私は、この都市を離れても、ここで見たことを考え続けると思う」とエリゼーが言う。
「でも、離れることを望んでいるのか、ここで見つけられなかった答えから逃げたいのか、まだ分からない」
ハインツはその顔を見た。
「どっちか一つじゃないかもしれない」
慰めに聞こえないよう、言葉を短くしたつもりだった。
彼女が口を結んだので、かえって失敗した気がした。
ヘルマンは紙の上の線を指でなぞった。
「私は、道を知っている側でいたかったんだと思う。知らない場所が増えるほど、誰かに道を示す役目へしがみついていた」
「それでも案内してくれたでしょう」とジュリアは言った。
「できたことはある。でも、できなかったこともある。それを一緒に持っていきたいんだ」
最後の言葉の意味を、ヘルマン自身もまだ掴めなかった。
ハインツが口を開いた。
「俺は、自分の足で決めて歩けるところへ行きたい」
右腕へ皆の目が集まりそうになり、彼は続きを急いだ。
「腕の話だけじゃない。誰かを守るための旅だと決められると、守れなかったときに俺の居場所がなくなる」
エリゼーが顔を上げた。
その表情を見て、言いすぎたと思う。
しかしここで取り消せば、彼女に向けた言葉が単なる気遣いの失敗になる。
「あなたは、私がそんなふうに考えていると思うの?」
エリゼーの声は静かだった。
「分からない。俺がそう考えてしまう、という話だ」
ジュリアは二人の間に置かれた皿を見つめた。
今の言葉を書き留めることはできない。
書けば誰かの気持ちが、皆の前で固定されてしまう。
それでも忘れてしまってよいとは思わなかった。
「四人が一緒に旅を続けるかどうかも、まだ決めたわけではないですね」と彼女が言った。
その一言で卓の空気が変わった。
別れるつもりなのか、と誰かが問い返してもおかしくなかった。
ジュリアは慌てて説明したくなった。
「私は、別々に行きたいと言っているんじゃありません。ただ、続けるとしたら、誰の意思で続けるのかを……」
言葉が途切れた。
ヘルマンは彼女に続きを促さなかった。
代わりに、「一緒にいる理由が四つあってもいいんじゃないかな」と言った。
ハインツが短く笑った。
「それなら、時々違う方角へ引っ張られる」
「もう引っ張られているでしょう」とジュリアが返す。
笑いは起こらなかった。
けれど、誰も席を立たなかった。
エリゼーは彼らを見渡した。
昔、祈りの場では同じ言葉を唱えることが集まる証しだった。
声を合わせる人の内側が、必ず同じだったとは限らない。
それでも同じ節回しを聞くと安心した。
旅に出てから、その安心を別の仕方で求めていたのかもしれない。
「私は、皆が違うことを考えていると寂しい」とエリゼーは言った。
言い終えるまで、自分がそんなふうに言うとは思っていなかった。
「でも、違う考えを隠される方が、もっと寂しいのかもしれない」
ハインツは返事をせず、杯を彼女の方へ少し寄せた。
水を注ぐための動作だった。
エリゼーは差し出された杯を受け取り、その動作を約束として読み取らないようにした。
シメオンが食卓を片づけに来ると、四人は少し離れて座り直した。
食事の皿を運ぶ仕事を、誰が頼まれるでもなく分け合った。
一つの皿に四人の手が伸びれば邪魔になる。
だから順に動く。
それだけのことが、さっきまでの話を別の形で続けているように思えた。
ヘルマンは地図を畳んだ。
港へ行く道の線は、誰にとっても同じところを通る。
けれどその先に何を見るかは、まだ誰にも決められない。
彼は地図を皆の真ん中へ置き、誰もそこへ印を付けないまま灯りが落ちるのを待った。
四人が同行する理由を同じものとして扱いません。港への道を知ったことと、船便や出発日の決定は別であり、どちらもこの章では確定しません。




