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五部「交易都市編」第四幕「四人の距離とそれぞれの選択 175 知らない道の案内人

案内する人が道を尋ねることは、失敗なのだろうか。知らないと告げるために必要な勇気もある。

挿絵(By みてみん)

港へ続く道を確かめに行こうと提案したのは、ヘルマンだった。

まだ船便を決める段階ではない。

石楔旅舎に置かれた案内図には、広い通りと市場、港へ向かう幾つかの通路が描かれていた。

彼は昨夜から、そのうち一本を指でなぞっていた。


「君が先に立ってくれるなら助かる」とハインツが言った。

軽い言葉だった。

ヘルマンは頷き、そのあとで少し困った。

知っている道を案内するのと、図の上で読んだ道を歩くのとは違う。

けれど、いまさら「分からない」と言えば、長い旅で頼られてきた自分まで否定するように思えた。


二人で宿を出る。

商人が引く荷車のあとを歩き、市場の角で右へ折れた。

通りには海に近いところ特有の匂いが混じっている。

まだ岸壁は見えない。

ヘルマンは道幅と店の位置を確かめながら、地図の中の一本線へ町の奥行きを押し込もうとした。


やがて通りは、荷を積み下ろす人々で狭くなった。

向こうへ抜けられないわけではないが、二人が通ると誰かの作業を邪魔する。

ハインツが立ち止まる。

「ほかの道は?」

「少し戻れば……」

ヘルマンは言いかけて、道を思い浮かべられない自分に気づいた。

曖昧なまま先に進めば、そのうち知っている景色へ出る気がした。

昔なら、それで歩いただろう。


通りの端で桶を洗っていた住民が顔を上げた。

ヘルマンはしばらく迷い、声をかけた。

「この先の港へ、人の仕事を妨げずに行ける道はありますか」

その人は手を止め、二人を見た。

「何を見に行くの」

「まず、道を知りたいんです」

「荷を運ぶなら遠回りになるけど、歩くだけなら裏の通りが静かだよ」


住民は二つの目印を教えた。

片方は古い井戸、もう片方は壁際に並ぶ低い石。

ヘルマンは礼を言い、言われた方へ歩き出した。

ハインツは隣で何も言わない。

その沈黙に、ヘルマンは勝手に失望を読み取った。


「案内すると言っておいて、道を聞いてしまったね」

「聞かなければ、あそこにいた人たちの仕事を邪魔したかもしれない」

「それは、そうだけど」

「それに君は、ここに詳しいと言った?」

言われてみれば、そうではなかった。

地図を見ていた姿を、他人が能力の証拠と受け取っただけかもしれない。

その誤解を解こうとしなかったのは自分だ。


細い通りは、海から離れているように見えた。

壁の陰には空になった籠が積まれ、乾いた縄がゆっくり揺れていた。

ヘルマンは「ここで働く人は、今、いったい何を待っているのか」と考えた。

問いを持つことと、本人の代わりに答えを書くことは違う。

道を示してくれた人にも、名前を聞かなかった。

次に会う約束をしていない相手へ、旅人の好奇心だけで縁を結びつけるのも違うと思った。

ヘルマンは不安になって足を速めたが、次の角で潮の匂いが強くなった。

小さな荷を抱えた人がすれ違い、道を譲る。

一歩ずつ進むうち、先ほど教わった二つの目印が見えた。

教わった通りに歩けたことを、手柄にする必要はなかった。


港の一部が見える場所へ出た。

人の声、繋がれた荷、船の木材がこすれる音が混じり合っている。

ヘルマンは地図の端を開き、その景色をしばらく見比べた。

海へ出る人間のことを考えようとしても、目の前の暮らしの大きさに押される。

行き先が決まれば、港の人々の時間へ自分たちも入っていく。

今はまだ、そこまで決まっていない。


「道を聞けてよかった」とハインツが言った。

「気を遣ってる?」

「少しはね」

ヘルマンは思わず笑った。

気を遣うことを隠さずに言われると、楽になるものなのか。

「でも本当だ。俺はあそこで立っているより、この道を歩けた方がよかった」


帰り道、ヘルマンは自分の地図へ細い線を一つ加えた。

その線のそばには、教えてくれた人の名を書かなかった。

知らなかったのだ。

代わりに「仕事を妨げない道」と記した。

住民が何を望んでいたかまで、自分が代筆するつもりはない。

「遠回り」と教えられた道を、今の自分には近道に思えた。

けれど、その言葉も書き込まなかった。

自分の都合に合ったことと、道が誰にとってもよいことは違う。

地図の余白は思ったより狭く、書かない方がよいことは思ったより多かった。


旅舎へ戻ると、ジュリアが地図を見て尋ねた。

「この道、誰が見つけたんですか」

「私じゃない」

ヘルマンは答え、少し考えて続けた。

「教えてもらった。でも、歩いて確かめたのは私たちだよ」

その二つを分けて話せることが、今は自分の役目に思えた。

案内人の誠実さを、すべての道に通じていることとは区別しました。港へ行く道を知るだけで、船便や出発日が決まったわけではありません。


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