第五部「交易都市編」第3幕 166 削られたのではなく
空白を見つけた人は、そこに何を読むのだろう。何もないところに理由を置くのは、書くことより容易い。
旅舎へ戻ったジュリアは、机の上に一枚の練習用の紙を置いた。
誰かの記録の写しではない。
自分で書いた、二列の小さな表だった。
左に「分かっていること」、右に「分からないこと」。
その間には幅の広い余白を残してある。
エリゼーが向かいへ座ると、ジュリアは右の欄を指した。
「空欄を見たとき、まず『消された』と思ってしまうんです」
「以前の記録を調べた頃から?」
「それより前かもしれません。私は、自分が書かなかったことを誰かに見抜かれるのが怖かったから」
ジュリアは笑おうとしたが、うまくいかなかった。
ここ数日、受け取った説明の中に、知らないことが増えた。
守秘の理由、証言した人の意志、受付で答えられる範囲。知るほど、書類の余白が広がっていく。
「空欄には、少なくとも違う事情があり得ます」と彼女は言った。
ジュリアは紙の端に小さな例を描いた。
ある品物の受渡しを記す架空の台帳だ。
量が分からなければ空欄になる。
まだ量っていなければ、同じ空欄になる。
事情があって外へ見せられない記載も、写しにすれば空欄のように見えるかもしれない。
「読む人には、どれも同じ形です」と言うと、エリゼーは紙を見ずに答えた。
「だから同じ事情だと決めるの?」
ジュリアは首を振った。
そう言ってもらうために例を書いたはずなのに、問い返されると腹が立った。
教えを受けているだけではないと示したくて、自分で小さな例を作った。
その時点で、相手に見せるための理屈になっていたのだ。
一つ目に、書くべき情報が失われた場合。
二つ目に、まだ確認できていない場合。
三つ目に、存在するかどうかを含めて公開できない事情がある場合。
「その三つだと分かったの?」とエリゼーは聞いた。
「いいえ。三つの可能性を考えただけです。ほかにもあるかもしれません」
エリゼーは頷いた。
「なら、そこも書いた方がいいわ」
ジュリアは返事をしなかった。
自分で区別を始めたのに、相手に正しさを認められると、急に主導権を取られた気がする。
「あなたがそう言うから書くのではありません」と言った。
エリゼーは目を伏せた。「そうね」
返事が短すぎて、ジュリアはかえって困った。
もっと反論してくれれば、そこから自分の考えを説明できたのに。
窓の外で荷運びの車が立ち止まり、道を譲り合う声がした。
二人はしばらく黙っていた。
「私、昔の教会の資料も同じ見方で読めると思ったんです」
とジュリアが再び口を開いた。
「空欄や時刻のずれを見つけると、すぐ誰かの意図を探したくなる」
「意図がなかったと決めることもできないわね」
「はい。だから怖い」
ジュリアは紙の一番下に短く書いた。
「由来不明」
その四文字は、自分の仕事を未完成だと認める印だった。
どの可能性が正しいかを決めないことが、怠けている証拠に見えそうで、手が止まる。
エリゼーは紙をのぞき込まず、窓際の椅子へ移った。
「以前、あなたに、記録は慎重に読まなければならないと言ったわ」
「覚えています」
「慎重に読むという言葉で、自分が怖がっていることを隠したかもしれない。正しく書かれたものが、私の記憶と違うことが怖かった」
ジュリアは顔を上げた。
エリゼーが自分の不安を語るとき、いつも聞くべきだとは思わなくなっている。
それでも今日は、続きを待った。
「書かれたものを疑うだけなら、私の側の記憶は試されずに済むもの」
「私は逆です。書かれたものを疑うと、自分が正しい側へ行けた気がする」
二人は互いを見た。
似ていることが、そのまま分かり合う理由になるわけではない。
ジュリアは紙を裏返し、別の言葉で書き直した。
「空欄の意味は未確認」
これなら、読み手が何かを隠したと断定しない。
同時に、空欄が問題でないと片づけたことにもならない。
日が落ち始めた頃、彼女は紙を手帳に挟んだ。
外に持ち出すためではなく、次に書くとき自分の手を止めるためだった。
その手を止める役目を、人に預けなくてもいいのだと思った。
欠落、未確認、非公開は同じ意味ではありません。空欄の由来を確定したのではなく、推測と確認済みの事実を区別する書き方をジュリアが選びます。




