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第五部「交易都市編」第二幕働く人々と責任の行方 142 直せない機械

直す腕があっても、直せると約束できないものがある。

エルンストは、長く働いた手で、何を守るべきかを考える。

エルンスト・グラーフは、小さな金具を作業台に置いた。

欠けた端を揃え、客に指で確かめてもらう。

これなら直せる。手を加える前と後を見比べれば、相手にも違いが分かる。

料金を受け取るとき、彼は仕事を終えた者として客の顔を見ることができた。

それに比べ、閉じた扉の向こうには、見た目だけでは確かめられないことが残っている。


「親方、また尋ねられました」

フィンが布を抱えて戻ってきた。

「早く使いたい人ばかりです。断るたび、俺まで怠けているみたいに見られる」

「実際、今日はそれほど働いていないように見えるか」

「見えます」

即答してから、若い男は顔をしかめた。

エルンストは叱らなかった。


閉じた方の仕事を待つ者には、その品物を必要とする理由がある。

代わりが見つからない注文もある。

エルンストはそのことを知らないわけではなかった。

客が怒るのも、ある程度までなら分かる。

ただ、その怒りが機械の状態を変えることはない。


「直せば使えるんでしょう、と言われたんです」

「そう言いたくなるさ」

「親方は直せないんですか」

問いの刃がどこへ向いているか、フィンも分かっていたはずだった。

エルンストは作業台を拭く手を止めた。


「直せないと決めたわけじゃない。直ったと言える条件が、まだ分からない」

「それは違うことですか」

「違う。部品を替えたら動くだろうということと、人をそこへ戻していいということはな」

フィンは伏し目になった。


エルンストは、若い手が早く仕事を覚えようとする気持ちを嫌っていない。

その手が自分より速くなる日を、むしろ待っている。

だが、自分の若い頃にも、できることをすぐ見せたい夜があった。

あの頃は、目の前の仕上がりの良さで、客の明日まで責任を取れると思い込んでいた。


昼近く、また客が来た。商いで使う器具の修理を急ぐ男だった。

閉鎖の札を見てから、まっすぐエルンストに向かった。


「いつまで待たせる。ほかに頼めるところがないんだ」

「急ぐ事情は伺います。でも、あの区域の作業を再開するとは約束できません」

「あなたほど腕のある人が、できないと言うのか」

「再開できますと言ってしまって人を近づけるほうが、今は恐ろしい」

相手の顔が赤くなった。


エルンストにはその赤さが気の毒だった。

失う仕事の重みは、相手にしか量れない。

自分が相手を困らせていることを認めなければ、正しい判断をしているとさえ言えないのかもしれない。


「ほかの手は、ないのか」

声が少し下がった。


「別の職人へ相談する道はあるかもしれません。

ここでできる小さな修理なら、内容を聞けます。

ただ、どちらも同じ仕事の代わりになるかは保証できない」

男はしばらく黙り、包みを持ち帰った。礼はなかった。


フィンが外へ出たあと、エルンストは閉じた扉の前へ立った。

かつてはこの扉が開く音で一日が始まった。

内側で働く人の歩き方も、物を置く順番も、自分はよく覚えている。

そこを閉じた日から、暮らし全体が小さくなった気がする。


いつまで守れるだろうか。

自分の言い分を、仕事を失った相手は受け入れないかもしれない。

今朝の客が別の場所で危険な方法を選んだら、それも自分の責任になるのだろうか。

答えはなかった。

けれど、だから開けてよいとも思わなかった。


閉じた区域の外に置かれた小さな道具箱を、フィンが片づけていた。

エルンストは、彼が以前より丁寧に道具の位置を決めているのを見た。

使える場所が狭くなったから、間違えて手を伸ばす余地も少ない。

自分たちが失った作業の大きさを、年長者はその整った箱で思い知った。


「明日の注文を聞きに、別の職人を訪ねてもいいですか」

とフィンが尋ねた。

「俺に許しを求めることじゃない。何を確かめるのか、相手に説明できるならな」

「閉じた場所の仕事を代わってもらうつもりじゃありません。できることの範囲を知りたいだけです」

エルンストはうなずいた。

安心した自分がいた。

若い相棒が、師の見えないところで仕事の道を作ろうとしている。

その成長が頼もしい半面、自分が必要でなくなる日のことを考えてしまう。

師でありたい気持ちは、ときに若い者の仕事を奪う欲望と隣り合う。


夕方、フィンは閉鎖の札が少し傾いているのに気づき、紐を結び直した。

エルンストはその様子を見て、なぜだか胸が痛くなった。

若い者の仕事を減らしたまま、判断だけを守っている

。いつかその決断を恨まれる日が来るだろうと思う。


「親方」

「何だ」

「さっきの人、明日また聞きに来るかもしれません」

「来れば、答える」

「同じ答えですか」

「確かめたことが同じならな」

フィンはうなずき、札から手を離した。


その頷きが賛成なのか、ただ今日の仕事を終える合図なのか、エルンストには分からなかった。

分からないものを勝手に分かったことにしない。

そのことが仕事の技術だと、若い頃には教えられなかった。

今は教えようとしている。いつか彼が、その教え自体を疑えるようになればいい。


エルンストは何も解決できず、閉じた扉を守ります。

技能の高さと、再開を保証できることは別です。

その違いを受け入れる苦さを、職人本人の側から描きました。

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