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第五部「交易都市編」第一幕都市の人口と異なる価値観 135 雨やどり

雨を避けようとした人々の列が、軒先にできる。

そこでは、誰に場所を譲るべきかという簡単そうな問いが、簡単に終わらなかった。

空が暗くなったのは突然だった。


朝から湿った風があったので、雨が降ること自体は驚きではない。

けれど最初の大粒が石畳を叩くと、広場にいた人々が一斉に動き出した。


ヘルマンは四人を近くの軒下へ案内した。

軒下は肩が触れ合うほど狭い。

そこには先に荷を抱えた女と子ども、仕事帰りらしい男、杖を持つ年長者が立っている。


「少し詰めてもらえますか」

と彼が声をかけると、誰かが半歩ずれた。


別の者は動かなかった。

ヘルマンはその人を冷たいと思いかけたが、足元に置かれた大きな包みに気づいた。

動かせないのかもしれない。


雨が強くなる。


エリゼーは子どもが濡れないよう身体を寄せた。

ハインツは右腕が触れない位置を探している。

ジュリアは濡れかけた手帳を胸へ収めた。

それぞれに守りたいものがある。


軒先へ新しい客が駆け込もうとすると、杖の年長者が顔をしかめた。


「これ以上は無理です」

ヘルマンは口を開きかけた。

だが誰かを受け入れると、先にいる人が濡れる。

そこにいる全員の事情を彼は知らない。


新しく来たのは若い女で、両手に荷を抱えていた。

ヘルマンが荷だけ預かろうとすると、女は反射的に後ろへ引いた。


「離せません」

彼は手を引いた。


親切は、触れてよいか尋ねるより先に動いてしまう。

その速さに、自分が驚いた。


「何ならできますか」と聞き直した。


女は少し考え、

「その角に空いたところはありますか」と尋ねた。

ヘルマンが見に行くと、隣の軒にはまだ狭い空間があった。

彼はそこを指して知らせた。

女は礼を言い、荷を抱えたまま移っていった。


簡単なことだった。

助けるために荷を預かる必要はなかった。

行き先を尋ねられ、それに答えただけだ。

しかし、それがいまの彼には最も難しい仕事に思えた。


雨宿りの人々は、誰も会話を始めようとしなかった。

見知らぬ者同士の沈黙は敵意に似ることがある。

ヘルマンは場を明るくしたくなったが、話しかけることを望まない人もいるかもしれないと思いとどまった。


雨の勢いが弱まると、子どもが先に走り出た。

女が後を追い、年長者がゆっくり杖を運んだ。

誰も互いに何をしてもらったなどと思わない。


ただ一時、同じ屋根を分け合った。


「あなた、さっき急に静かになったわね」

とエリゼーが言った。


「何をすればよいか考えていた」

「それで?」


雨の下へ踏み出した女の後ろ姿を見ながら、ヘルマンは自分の荷がほとんど濡れていないことに気づいた。

ほかの三人が自然に位置を変え、自分の紙包みを中央へ寄せてくれていたのだ。

彼は礼を言おうとしたが、それを誰の手柄にすればよいのか分からず、黙ってしまった。


雨が止みかけたころ、先ほど荷を抱えた女が遠くの軒で立ち止まり、こちらへ短く頭を下げた。

ヘルマンも軽く会釈した。

二人の間には、荷を預かったという約束も、恩を返すべき関係もない。

通れる場所を知らせただけのことだった。

それでも、短い合図が一日の中に残る。

人の役に立つとは、いつも大きな仕事ではないと感じた。


「ここを使ってもいい?」

とハインツが言い、少し身体をずらした。

右腕が軒の柱へ当たりそうだったからだ。

エリゼーは頷いて場所を譲ったが、彼に代わって荷を持つとは言わなかった。


年長者の杖の先に、雨水が一滴落ちた。

その人は杖の位置を変え、濡れても動かなかった。

ヘルマンは手を伸ばしかけた。


年長者は何も頼んでいない。

自分が動くことで、相手が困っていると決めつけることになる。

「もっと奥へ入りますか」とだけ尋ねる。


軒先の地面には、靴の形の水溜まりがいくつもできた。

立っていた人の足跡が消え、新しく来た人がそこへ立つ。


ヘルマンは人の数を数えたくなり、途中でやめた。

一人増えるたび誰かの居場所が奪われるように感じても、それぞれの人は自分の場所を探しているだけなのだ。

誰が最初に来たかを確かめることと、誰が最も濡れているかを知ることも違う。


「ここでいいよ」と返事があった。

その言葉を聞いてヘルマンは、断られたのに不思議とほっとした。


手を貸すことを許されなかったのではない。

自分にできることが、相手の返事を受け取ることだったからだ。


雨の音は激しかったが、軒の下には小さな静けさがあった。

それぞれが濡れない場所を探し、他人を押しのけないために少しずつ身体を傾けている。

誰かが見つけた一歩分の余裕は、別の誰かの立つ場所でもあった。


「尋ねる前に動かないほうがいいと、やっと気づいた」

エリゼーは少し笑った。

「私もね。いつも、気づくのが遅い」


四人は雨のあとを歩いた。

敷石の上では水が細い線となって流れている。

その道筋に、街の地形の見えなかった傾きが現れた。

ヘルマンはそれを覚えておこうと思った。


人の動く理由も、晴れた日だけ見ていたのでは分からない。

譲り合いを単純な善行として終わらせず、それぞれの荷や身体の事情を残しました。

案内することは、相手に望まれた方向を確かめることでもあります。


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