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第五部「交易都市編」第一幕都市の人口と異なる価値観 133 よそ者の返事

丁寧に尋ねたからといって、答えを受け取れるとは限らない。

ジュリアは一つの質問を取り下げるまでの短い時間に、思った以上の迷いを抱く。

七秤市場で再びマイラに会ったのは、荷をまとめる男たちが昼の休憩へ入る頃だった。


ジュリアは彼女を見つけると、以前の礼を言おうと思った。

けれど相手は誰かと話している。

言葉の切れ目を待つあいだ、ジュリアは自分の手帳を開いては閉じた。


「この前の人ですね」

とマイラが先に気づいた。


「訳すことについて、まだ考えています」

「では、今日は何を買うんですか」


笑いながらの問いだったが、ジュリアは返事に詰まった。

自分は相手の時間を使おうとしているのに、その時間をどう返すか考えていなかった。


「買うものはありません。話を聞きたいのです」


マイラは頬にかかった髪を払った。

「仕事中でなければいいんですけどね」


ジュリアはそこで引き下がるべきだった。

だがどうしても一つ、尋ねたかった。

市場で異なる言葉を扱うマイラは、幼い頃からどの言語を話していたのだろう。

その答えは彼女の出自を推し量る材料になる。

ジュリアはそう考え、口を開いた。


「あなたは、どこの言葉を最初に――」

言い終わる前に、マイラの表情が変わった。

強い拒絶ではない。

ただ、仕事用に整えた顔が静かに引き下がった。


「すみません」

とジュリアが言った。

「今のは取り下げます」

マイラは首を傾げた。

「まだ聞いていませんよ」


「聞かなくても、私の知りたいことがあなたの仕事には関係ないと思ったんです」

「関係があることもあります。でも、関係があるから話したいわけではありません」


その言葉を聞いて、ジュリアは胸が軽くなった。

同時に、相手に自分の成長を見せたいと思ったことにも気づき、また恥ずかしくなった。


問いを取り下げたのは相手のためか、自分が良い人間に見えたかったからか。


マイラは次の客に呼ばれ、仕事へ戻った。

ジュリアは端へ退いた。

店で待つ人の表情を見ているうち、自分が彼らの言葉を記録する理由も曖昧になってきた。

街を知りたい。その望みを否定する必要はない。

けれど知られる側には、知られないままでいる自由がある。


少ししてマイラが戻り、紙に短い言葉を書いて見せた。


「これは『終わった』という意味にも『ここで止める』という意味にもなります。さっきのようなときは、後の意味のほうが近い」


「教えてくれるのですか」


石楔旅舎へ戻る途中、ジュリアは自分に話しかける声がして振り向いた。

道を尋ねる老いた旅人だった。

彼女は知っている道だけを示し、分からない角ではヘルマンに確かめた。

旅人は礼を言って去った。


その背中を見送ると、知っていることの少なさを告げても、人に何かを渡せる場合があるのだと思えた。


「仕事としてなら、説明できます」


ジュリアは代金を尋ね、マイラが示した額を払った。

言葉を買ったようで奇妙だったが、相手が自分の時間を使う条件を定めたことには安心した。


市場から少し離れたところに、仕事を終えた者のための腰掛けがあった。

ジュリアはそこへ座り、紙に書かれた二つの意味を何度も読んだ。


店の者と通行人は彼女の横を過ぎていく。

誰も自分の言葉を説明するために立ち止まらない。


宿の主人シメオンは、夕方になると客の話を長く聞かずに必要なことだけを返した。

ジュリアはそれを無愛想だと思いかけ、昼のうちに何度も重い荷を運んでいたことを思い出した。


誰かの言葉を聞く仕事には終わりがない。

聞かれる側にいつでも時間があると思ってしまえば、その人の一日をこちらの都合で削ることになる。

マイラから買った短い言葉の代金は、そういう時間への対価でもあったのだろう。


以前、彼女は聞き取れなかった言葉を翌日までに補っておくよう努めた。

記録係には正確さが必要だからだ。

今もその習慣は捨てたくない。


ただ、補うことと埋めてしまうことは違う。

知らない理由を自分の理解できる動機へ置き換えれば、帳面は整っても人の姿が変わってしまう。


書き留められた紙の端に、マイラの筆圧が残っていた。

文字の一画だけが濃い。

書いた人の手がどんな力で動いたかを、ジュリアは想像した。

しかし想像したことを事実の欄へ移すことはしなかった。


宿へ戻る前に、彼女は先ほど問いを取り下げた場所を振り返った。

市場の人波の中で、マイラはもう別の客を相手にしている。

こちらが大事だと思った会話も、彼女にとっては多くの仕事の一つかもしれない。

それが少し寂しくもあり、相手の生活が自分と別に続くことを、ありがたくも思った。


宿へ戻り、エリゼーが「今日は何を覚えてきたの」と聞いた。

ジュリアは見せてもらった紙を差し出した。


エリゼーはその文字を指でなぞり、「止める、という意味があるのね」と言った。

「はい。途中でやめることも、ひとつの返事なんです」

エリゼーは紙を返し、続けて何か尋ねようとして口を閉じた。

ジュリアはその様子を見て、二人ともまだ練習中なのだと思った。


知りたい気持ちを捨てるのではなく、問いを差し出す手つきを変える練習だった。

答えを得られなかった質問にも、その人の倫理が現れます。

ジュリアは礼儀と配慮を同じだと考えなくなりますが、学んだことを自分の手柄にもしたくないと感じています。

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