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第五部「交易都市編」第一幕都市の人口と異なる価値観 127 二つの貨幣

同じ品物に二つの値段がつくのを見て、エリゼーは戸惑う。

数え方の違いは、人が信じているものの違いにも触れていた。

七秤市場の一角に、貨幣を受け取る者と、紙の証書を手にする者が同じ列を作っていた。

エリゼーは最初、別々の買い物の順番だと思った。

だが商品は同じ棚から出てくる。


「こちらの貨幣ならこの額、向こうの貨幣なら別の額になります」


売り手の説明を聞き、ハインツが小さく首を傾げた。

エリゼーも同じ気持ちだった。

同じものを買うのに値が違うなら、一方の客は損をしているのではないか。


「替える手間があるのです」と傍らの商人が言った。

「遠くから来た貨幣は、こちらでまた使うときに確かめることが増える」


貨幣の重みを手の中で比べたとき、エリゼーは自分が数字を重さと結びつけて考えたことに気づいた。

重いものほど価値があるのではない。薄い証書一枚で、貨物の受け渡しにかかわる約束が移ることもあるらしい。

「紙を信用できるんですか」

口にすると、若い客が振り返った。

彼は皮肉を言ったのではなかった。

「紙だけじゃないですよ。誰が渡したか、どこで引き受けるか、その全部でしょう」


売り手は証書の名と印を確かめ、答えを急がなかった。

誰かが待っている。

誰かが貨幣を数え直す。

列の中の苛立ちにも理由がある。


エリゼーは、教会の帳面で金額に線を引くときのことを思い出した。

ある人の寄付と別の人の寄付を足すとき、それぞれが何を手放したかまでは残らない。


ジュリアは二つの取引条件を手帳に書こうとして、数字の前に小さく「確認した範囲」と入れた。

エリゼーはその書き方に目を留めた。

分かったと言い切らないための文字が、いくつかの数字より重く見える。


市場の角で、一人の女が硬貨を掌に並べていた。

足りない額を知ったらしい。

女は商品を戻そうとし、店主は少し小さな品を出した。

互いに声を荒らげず、しかし笑ってもいない。

どちらかが親切だから成立したことではなく、二人の条件が折り合う場所を探しているのだ。


「価値を決めているのは誰かしら」

エリゼーの独り言にヘルマンが答えた。

「商人たち、と言いたいけど、それだけじゃないんだろうね」

「その言い方なら、何も答えていないのと同じよ」


彼女は笑いかけたが、ヘルマンは真剣だった。

「僕らも旅の途中で、同じ物に違う値段を払ってきた。宿に着けることが大事な日も、食べ物のほうが大事な日もあった」


たしかにそうだ。

エリゼーは、考えるための材料をいつも数字の側に集めていたと知った。

いまはその数字が誰の夜を軽くし、誰の明日を重くするのかを考えたかった。


ハインツが品を手に取り、戻した。

「買うつもりがないのに、手間をかけさせたかな」


別の店先で、外国貨幣を前にした客が、皿の上へ硬貨を置いては引っ込めていた。

数が足りないのではない。

どの貨幣を先に出すと有利になるかを迷っているらしい。

彼の後ろでは、同じ商品を必要としている子連れの女が待っていた。


エリゼーは、待たされている女へ同情しかけた。

だが男も自分の持ち金で暮らさなければならない。

そこで財布を開く手元に、何度も試した跡が見える。

彼も誰かを困らせたいのではないのだろう。


「証書も使うなら、財布は軽くなるのかな」とハインツが呟いた。

「軽くなっても、約束は重くなるかもしれない」とヘルマンが応じた。


そのとき、証書を手にした年長の男が、店の若い係員へ何度も印を確かめさせていた。

係員は嫌な顔をしないが、後ろに客が増えるにつれ額に汗が浮かぶ。

信じるまで確認したい男と、確認を終えて次の客へ進みたい係員。


どちらの急ぎ方もエリゼーには理解できるような気がした。

分かるような気がするだけで、決めるのはまだ早い。

彼女は立ち止まっていた足をゆっくり動かし、二人を見物することをやめた。


ジュリアは二人のを比べて笑った。

「何を約束しているか、紙に書いてあるはずです。でも私たちには、その条件を読めません」


エリゼーは改めて札を見た。

見慣れない言葉と印がある。

彼女は記録係として、紙の上にある文字を読めば何かが分かると長く信じてきた。

しかし文字があっても、受け取る人が確かめられなければ、約束は片側だけのものになってしまう。


人を信用することは無条件に信じることではなく、疑問を尋ねることができる関係かもしれない。

そう考えた途端、彼女は自分がまた一つの結論を急いでいると気づいた。

市場で交わされた金銭の重さを、たった一度の観察で理解できるはずもなかった。


「触って確かめてもいいと書いてある」とジュリアが指した。


小さな許しが文字になっている。

エリゼーは安心し、同時に、その許しがなければ誰に何を尋ねてよいのかと身構える自分にも気づいた。


四人は何も買わずに店を離れた。

商品は元の場所にあり、値札も変わらない。

けれどエリゼーには、先ほどより多くの人がその小さな棚を支えているように見えた。

支えているのは貨幣ではなく、疑いながらも取引を続けようとする者たちの手だった。

エストラーヴでは外国貨幣と都市の信用、商品を担保とする証書が共存しています。

仕組みそのものを説明しきるより、それを使う者の不安と判断を描きました

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