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第五部「交易都市編」第一幕都市の人口と異なる価値観 126 異国語の買い物

七秤市場では、品物の名と値段だけでは取引が進まない。

ジュリアは一つの言葉の訳し方をめぐり、自分の耳を疑う。

七秤市場の声は、一つの歌にならなかった。

売り手の叫び、客の返事、荷車の軋み、値段を確かめる短い数字。

ジュリアは早く耳を慣らそうとして、かえって何も聞けなくなった。

隣でヘルマンが道を開くまで、彼女は商品の列へ踏み込みかけていた。


布を売る店先で、客の男が織物を指し、早口で何か言った。

店の女は首を傾げる。

男が同じ言葉を強く繰り返すと、女の顔も険しくなった。

どちらも自分の求めるものを明らかにしたがっているのに、言い方を重ねるほど遠ざかって見えた。


「もう一度、短く言ってください」

横から声をかけたのはマイラ・セインという若い女だった。


通訳と仲介を引き受ける者らしく、互いの視線を順番に受け止める。

男は渋ったが、ようやく布の端を指して言い直した。


マイラは店主に説明し、返事を男へ戻した。

それだけでは終わらない。

「この言葉は、縫えるほど丈夫だという意味にも、長く使えるという約束にも聞こえます。どちらを求めているんですか」


男は少し考えてから、長く使えることだと答えた。

店の女は顔をしかめた。

彼女は縫いやすさを説明していたのだ。

二人は笑い合うことなく、もう一度布を広げて確かめ始めた。


「どうして訳がうまく行かなかったんですか?」

とジュリアが横から尋ねると、マイラは肩をすくめた。


「訳せましたよ。でも、訳せたと思ったところが怖いんです」

ジュリアはその言葉を手帳へ書こうとした。


筆を取りかけたところで、マイラがこちらを見た。

「私の名前も残すんですか」

「嫌なら書きません」

「嫌かどうか、まだ考えていません」

ジュリアは筆を戻した。


似た答えを自分が何度かしたことがある。

人は答えを急がされると、拒絶か承諾の二つの形のどちらかに入るしかなくなる。


「あなたは記録する人ですか」

「そうです。でも、今は旅行者でもあります」

「いいですね、二つの名前でいられる。ここで私を『通訳』と呼ぶ人は、家へ帰っても私が誰かを訳していると思っている」


マイラは笑ったが、軽い笑いではなかった。

彼女の言葉を正しく残そうとすると、その笑いの前後まで書きたくなる。

しかし文字になれば、笑いはただ笑いと記されるだけだ。


取引が終わり、男は布を買わずに去った。

店主も不満そうではない。


ジュリアには不思議だった。

金のやり取りが成立しなくても、二人の間には何か確かめられたものが残ったようだった。


「失敗した取引ですか」

「今日は買わないと分かった。そういう結論もありますよ」


ジュリアは、自分が記録の終わりに何らかの成立を置きたがる癖を自覚した。

訴えは決着し、証言には採否があり、祈りには結果がある。

そうでなければ書類が閉じられない。

しかしこの市場の会話には、閉じないことで守られる関係もあるらしい。


マイラが次の客の言葉を聞くあいだ、ジュリアは市場の看板を眺めた。

同じ品を扱う店なのに、描かれた絵が違う。


遠くから来た者が自分の言葉を読めなくても買えるようにしたのだろうか。

だが絵を見ても、布の厚さや長さまでは分からない。


一人の旅人が布の端を指し、広げるよう身振りで頼んでいた。

店主は笑顔で頷くが、手元にあるのは小さな見本だけだった。

身振りが増え、顔から笑みが消える。


ジュリアは助けたいと思いかけたが、通訳の役目を奪う気にはなれなかった。

自分にも話せる言葉がある。

しかしその言葉は両者の誤解を減らす保証にはならない。


マイラが戻ると、ジュリアは「

私にも言葉が通じない人に説明した経験があります」と話した。

「そのとき、ゆっくり話せば伝わると思っていたんです」

「相手の言葉じゃないのに?」


マイラは客へ説明を戻す際、いつも同じ速さでは話さなかった。

数字を伝えるときはゆっくり、気持ちが行き違ったときは短く、互いが黙って品物を見つめるときには自分も黙る。


ジュリアは通訳を言葉の仕事だと思っていたが、待つこともその一部なのだと感じた。

彼女はいつか自分の記録についても、相手が黙って考える時間を残せるだろうかと思った。


「はい」


マイラは怒らず、わずかに目を伏せた。

「ゆっくり言われるほど、自分が愚かになった気がする人もいます。必要なのは声を小さくすることかもしれないし、絵にすることかもしれない。何がよいかは、その人へ聞くまで分からない」


ジュリアはかつて、十分に説明したのだから理解されたはずだと思った場面を思い出した。

記録に署名した人の指先が、いつまでも紙から離れなかったことがある。

あれは納得だったのだろうか。


思い出の中の相手へ、いまさら問いかけることはできなかった。


別れ際、マイラは「名前は書いていいですよ」と言った。

「でも、私が何を考えていたかは、あなたの言葉にしないでください」

ジュリアはその頼みを引き受けた。


簡単な約束のはずが、手帳を開くと急に難しくなった。

彼女は名前と見聞きした会話を書き、笑った理由については何も記さなかった。


市場を出ても、多くの声が耳に残った。

理解できなかった言葉のほうが、分かったつもりになった言葉より長く響いた。

訳すことは言葉を置き換えるだけではありません。

相手が本当に約束したいことを確かめる行為です。ジュリアは記録でも同じ慎重さが必要だと感じ始めます。

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