第五部「交易都市編」第一幕都市の人口と異なる価値観 123 住む者、通る者
門は人を通すためにある。
しかし、そこを通った人すべてに、同じ手続きと同じ言葉が用意されているわけではない。
ヘルマンは道を覚えるのが得意だった。
木の傾きや石垣の割れ目を一度見れば、戻るときに役立つ。
だから旅の途中で誰かが迷いかけると、彼は迷う前から道を教えた。
自分の得意なことが、人にとって必要であると信じるのは気持ちよかった。
南石門へ戻ったのは、街の内側の道筋を確かめるためだった。
朝には見落としていた通路の分かれ目が、午後になると影を違えている。
門の脇に立って案内している女の声が聞こえてきた。
「ここを通れるかどうかと、ここへ住むかどうかは、別の話です」
女は旅荷の薄い男と向き合っていた。
叱るような口調ではない。
男も抗議していない。
ただ互いに、自分が尋ねていることが相手に伝わるまで待っているように見えた。
男が去ったあと、ヘルマンは女に頭を下げた。
「道を尋ねてもいいですか」
「もちろん。私リディアと言います。で、どちらへ?」
リディア・フェルゼは、地図ではなく街路を指して案内した。
彼が知っていた道とほとんど同じだったが、途中の石段には荷車が通れないこと、雨の日には別の道を使う者が多いことを付け加えた。
「さっきの方には、別の案内をしていましたね」
「違う用事で来られたので」
「門は同じなのに」
言った途端、自分の言葉が子どもじみて聞こえた。
リディアは笑わなかった。
「同じ門だから、同じ人だとは限りません。通過の案内だけで済む人も、住む場所について相談が要る人もいる。私が決めてよいことは多くありません」
「困る人もいるでしょう」
「いますね。私も困ります」
意外な答えだった。
彼女は役所の側に立っている人のはずなのに、役所の形ですべてを説明しようとしない。
ヘルマンはそれを好ましく思い、すぐに自分の判断を疑った。
彼女の困り方を、彼はまだ何一つ知らない。
リディアが次の来訪者に呼ばれると、ヘルマンはそこを離れた。
角を曲がってから振り返ったが、彼女はもう見えなかった。
名前を知っただけで、相手について何か大切なことが分かったようになるのは危険だ。
それでも名を知ったことで、彼女がもう「門の案内の女」ではなくなったのも事実だった。
宿へ戻る途中、四人を連れてきた道をもう一度確かめた。
行きと帰りでは、同じ建物が違う向きに見える。
以前の自分なら、これも慣れの問題だと片づけただろう。
しかし、旅人の目に見える街と、ここで暮らす人の街は、そもそも同じ地図ではないのかもしれない。
夕方、石楔旅舎に落ち着いてからジュリアが「その人なら、どこまで教えてくれますか」と尋ねた。
「知らない」
即座に答えていたヘルマンがその答え方に驚いた。
その1時間ほど後、再びヘルマンは市場へ抜ける近道を尋ねようとして、門の前でリディアが机に小さな水の器を置いているのに気づいた。
次の来訪者へ差し出すためか、自分が飲むためかは分からない。
仕事場に置かれたありふれた器だったのに、彼はそれを見て彼女にも休む時間が要るのだと初めて思った。
「ここには一日中いるのですか」と尋ねかけて止めた。
勤務時間を知ったところで、自分にできることがあるわけではない。
ただ何か役に立つことを言いたかっただけかもしれない。
リディアは彼の様子を見て、「まだ道を探しているんですか」と聞いた。
「いいえ。道は教わりました」
石段の途中には、荷を置いて息をつくための幅広い石があった。
誰が置いたものかは分からない。
ヘルマンはそこへ自分の包みを載せた。
便利さは道筋だけでは決まらない。
途中で立ち止まれることも道の一部なのだ。
彼は石の位置を覚えたが、四人へ必ずこの道を薦めるつもりはなかった。
歩けると思うことと、歩きたいと思うことは、尋ねなければ違いが分からない。
「でしたら、歩いて確かめるのがいちばんですよ。私の知っている道が、今のあなたに歩きやすいとは限らない」
ヘルマンは礼を言った。
以前なら、自分の案内に自信を持てない者の言葉だと受け取ったかもしれない。
しかし今は違う。
見知らぬ者の歩幅や荷の重さまでは、どんな案内人にも分からない。
彼は指された石段を下りてみた。
軽い荷なら困らないが、長旅の包みを抱えていれば狭く感じる。
彼はハインツの右腕を思い出し、帰りには別の道を選ぼうと決めた。
けれど相手のために黙って道を変える前に、まずどちらを歩きたいか聞こうとも思った。
「名前は聞いた。でも何でも尋ねていいわけじゃない。
次に会ったら、まず話していいかどうか聞く」
ジュリアは彼の話を聞いて静かにうなずいた。
案内人が知らないと言うことを、非難する者は誰もいなかった。
それでも彼には、その一言を言うのに思った以上の力が必要だった。
夜、窓から門の上部だけが見えた。
人はその下を通り続けている。
彼は、それぞれに違う道を尋ねられたら自分はどう答えるだろうと考えた。
正しい道を示すことと、行きたいところを尋ねることの順番を、明日は変えてみたかった。
ヘルマンが案内役であることは変わりません。
ただ、知識を差し出す前に「何を求めているか」を聞けるようになることが、彼の変化の始まりです。




