第五幕 第二場 魔王(六)
やはり自分は、アマテラスによって導かれていたのだと、ユディは思う。
「――――すまない! 私にはちんぷんかんぷんだ。……ユディさんに浄化ポイントを教えてくれたのは、女神さまじゃなかったのか? どういうことか、ちゃんと説明してくれ!」
自分で考えることを放棄したのだろう。ローレンスが大声で叫びだす。
サウルは、呆れたような顔をした。
「アマテラスが、女神さまなんだよ」
「へ? いや、だって、アマテラスというのは船のAI? とかいうものなんだろう? AIが何かは知らないが、女神さまとは違うはずだ!」
「そうだね。女神というのは、僕らが勝手にアマテラスに押しつけたイメージだもの。……でも、まあそれも仕方ないよね? だって僕らは、アマテラスに創られた『実験体』なんだから」
ローレンスは、ポカンとした。
「私たちが実験体?」
「そうだよ。だから魔王――――ハジュンが、僕らの敵になって、僕らが自滅するのを防いでくれていたんだろう」
ローレンスは、もはや返事もできない。
ユディも、薄々そうではないかなと思っていた。それを肯定されたのを、喜ぶべきか、悲しむべきか。
どちらもできなくて、ただ拳をギュッと握った。
そんなユディに心配そうな目を向けながら、エドガーはフリーズしたローレンスに声をかける。
「ロニ、混乱するのはわかるが、今は、それは考えても仕方ないことだ。お前はあまり余計なことは考えない方がいい。……それに、重要なのは魔王だけだと言っただろう? ユディが魔王の遺体を浄化することで、ユディに危険が及ばないようにすることが、俺たちの一番の使命だ。お前は、それだけわかっていればいい」
エドガーの主張は終始一貫。ユディ最優先だ。
エドガーに諭されたローレンスは……「それもそうだな」とあっさり頷いた。
「聖女さまのこと以上に考える必要のあることなどないからな!」
その潔さは、羨ましい。
そこまですっぱり割り切れないユディは、心の中の疑問を口にした。
「アマテラスは、ハジュンの魂を実験体に移したとして……それが何になるんだろう? ハジュンの記憶は、消えてしまうのに?」
ハジュンの記憶を持たない実験体は、どうやったってハジュンにはなり得ない。
「たとえ記憶がなくとも、ハジュンが生き返ることに意味があるんじゃないのかな? アマテラスにとってハジュンは、仕えるべき最後のマスターだからね」
サウルの言葉にエドガーも頷いた。
「そうだな。アマテラスの目的は、ハジュンの魂を移した実験体を誕生させることと見て間違いないだろう。……だがそれならばアマテラスは、ユディに一刻も早く魔王の遺体を浄化させたいはずだ。なのに、昼間はひっきりなしに魔獣が襲ってきた。……おかしいと思わないか?」
エドガーは、魔獣の大量発生の原因はアマテラスにあると思っているらしい。
「魔獣は、アマテラスと関係ないかもしれないよ?」
「しかし、あれほどの数の魔獣が襲ってくるのは不自然だ。何かしらに操られていると思った方が、まだ納得できる」
「まあ、そうなんだよねぇ」
エドガーとサウルは考え込む。
「……ひょっとして、俺にアノ夢を見させたかったのかもしれないな。だから魔獣で時間稼ぎをして、俺を夢の世界に引っ張る機会を待っていた…………とか?」
ユディは、考え考え呟いた。
「それは、何故ですか?」
しかし、ローレンスに問われて言葉に詰まってしまう。
「それは……………………そうだな。魔王の真実について知ってほしかったとか?」
迷いながら答えたが、自信なんか欠片もない。
「ユディさんが、それを知っていても知っていなくとも、浄化することに変わりはないですよね?」
重ねて問われれば、今度こそ答えに窮してしまった
――――たしかにそうなのだ。
元々ユディは魔王の遺体を浄化するつもりでいた。今回、思わぬことを知ってしまったが、だからと言ってユディが目的を違えるはずもない。
だとすれば、アマテラスがユディに夢を見せてまで伝えたかったことはなんだろう?
考え込むユディの肩に、エドガーが手をのせた。
「あまり考えても仕方ないさ。……それに、案外、夜が明けて浄化できればわかるかもしれないぞ」
楽観的な言葉だが、今はそれがありがたい。
「それよりユディ、お前はもう少し休んだ方がいい。おかしな夢を見させられたから、よく眠れていないんだろう? 夜明けまではもう少し時間がある。寝られるうちに寝ておくべきだ」
心配そうに顔を覗きこまれ、そう言われた。
エドガーの言うとおり、ユディは疲れている。
つい先ほどまで、間違いなく眠っていたはずなのに、わけのわからぬ夢のせいで、あまり休めたような気がしないのだ。
(……そうだな。考えても仕方ないか)
「わかった。寝よう」
結局ユディは頷いた。
「賛成~。僕もまだ眠いもん」
「休めるうちに休むのは、騎士の基本だからな」
サウルやローレンスも頷いて、みんなでもう一度眠ろうということになる。
「-ーーーじゃあ、おやすみ」
地面に置いた簡易な寝床に入ろうとしたユディだが、そこにしれっとエドガーが潜り込んでこようとした。
ユディは、顔を顰めてしまう。
「…………出て行け」
「えぇっ!?」
「えぇっ、じゃない! なに当たり前に一緒に寝ようとしているんだ!」
怒鳴りつけるも、エドガーはこたえた様子がない。
「だって、俺とユディの仲じゃないか」
そんなことまで言ってくる始末。
「お前と俺にはなんの仲もないだろう!」
「そんな!」
ガァ~ンとショックを受けたように、エドガーが固まる。
そこをすかさず蹴り出した。
「ユディが冷たい」
「冷たくない!」
言い合いながらも目を閉じる。
今は、こんな馬鹿げた言い合いがありがたいと思うユディだった。




