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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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第五幕 第二場 魔王(五)

 目覚めたとき、ユディはエドガーの腕の中にいた。眠っているユディの隣にエドガーが潜り込んでいて、ギュッと抱き締められていたのだ。


(…………なんか、もう今さらだな)


 ユディは、いろいろと諦めた。


「おい、エドガー」


 自分の体に回っている手を、バシバシと叩く。


「…………う、うぅん……ユディ……ユディ? ……ユディ! ユディ! 気がついたのか!? ユディ――――」


 エドガーは、飛び起きた。

 そのまま怒濤の勢いで喋りだそうとする口を、ユディは自分の手でモギュッと塞ぐ。


「わかっている。心配してくれていたのは、十分わかっているから、今はまず俺の話を聞いてくれ。……ちょっと、俺も混乱しているんだ」


 ともかく、あの夢で知ったことをエドガーたちと共有したかった。とてもユディひとりでは抱えていられなかったから。


 ユディの真剣な様子がわかったのだろう、エドガーも表情を引き締める。


「…………何があった?」


「話す。今から話すから、サウルさんもローレンスさんも起こしてくれ。これは、みんなで共有しなければいけないことだと思うんだ」


 ユディの言葉に頷いたエドガーは、近くで寝ているサウルとローレンスを起こしに行く。


「おい! 起きろ、お前ら。起きないと殺すぞ!」


 言いながら寝ていたふたりに拳を叩き込んだ。


「……うぅ~、なんだよぉ? 僕はいっぱい寝ないと調子が出ないんだぞ」


「なんだ? …………あ、ユディさん! 大丈夫ですか?」


 もっともふたりは、へっちゃらだ。

 サウルは眠そうな顔で、ローレンスは心配そうな顔で、起きてきてくれた。


 ツッコミどころ満載だが、今はそれどころではない。


「起こしてすみません。でも、皆さんに聞いてほしくて――――」


 ユディはそう言うと、つい先ほどまで見させられていた()について、彼らに話した。





 結果――――。


「――――世界が、丸いね」


「船? 空に浮かぶ船とは、どんなものですか?」


「あの魔王の行動が、俺たちのためだったと?」


 サウル、ローレンス、エドガーの順に、そう呟く。

 ユディは、大きく頷いた。荒唐無稽な話だと思うのだが、彼らは信じてくれるだろうか?

 不安に思っていれば、サウルがあっさり「そっか」と頷いた。


「まあ、信じるよ。……世界が丸いってことくらいは、僕も()()()()()からね」


 ユディは、驚いてしまう。


「知っているんですか?」


「もちろん。ある程度の高さまで飛べれば世界の形は一目瞭然だからね。そうでなくとも、海に出航していく船は、下の方から隠れていって最後にマストが見えなくなるんだよ。これって、世界が平らならありえないことでしょう? 僕以外にも、力の強い魔法使いや、そこそこの知識人なら、みんな世界は丸いって知っているんじゃないのかな?」


 サウルは、自慢げにそう言った。

 世界の形なんて、ユディは考えたこともない。


「私は知らなかったぞ!」


「君は、戦闘バカだからね」


 ローレンスの主張を、サウルは一刀両断で切り捨てる。

 一緒に切られたユディは、密かに胸を押さえた。


「俺は知っていたが……だからといって、どうということもなかったな。世界が丸かろうが平らだろうが、たとえ四角であったとしても、今俺がここで生きていくことに何の関わりもないだろう?」


 器用貧乏ならぬ器用大富豪のエドガーは、知識だけはあったらしい。その上で、どうでもいいと思っていたようだ。


(それでいいのか? 大事(おおごと)だと思うのは、俺だけか?)


 ユディは開いた口が塞がらない。自分の立つ大地が平らじゃないなんて、まさしく足下の崩れるようなショックだと思うのだが。


「…………まあ、たしかに言われてみればそうだな」


 ところが、ローレンスまでそう言うので、仕方なく開いていた口を塞いだ。

 言いたいことは多々あるのだが、三人に自分の話を信じてもらえたので、よしとする。


「ということで、聖女さまの話を全面的に信じるとして……注目すべきは、魔王が僕たちの真の敵ではなかったということ()()()だよね」


「え? ――――」


 しかし、次いだサウルの言葉に、ユディはまたもや口をポカンとあけてしまった。


「――――魔王のこと()()()って……他はいいのか? 宇宙船や移民、アマテラスと、なにより実験体のことは? それも、どうでもいいのか?」


 今度は黙っておられず、声にする。

 自分が正しいと思ったユディだが、エドガーはあっさり頷いた。


「そうだな。他のことは今さら考えても仕方ないことばかりだ」


 それはそうかもしれないが!


「…………だとすれば、魔王のことだって、考えても仕方ないのではないのかな?」


 ローレンスがエドガーの言葉に異議を唱えるが、彼の意見はユディとは正反対。魔王までどうでもいいと言っている。


「いや、魔王はまだ完全に消滅していないからな。俺たちに何らかの影響を与える可能性が残っている」


 首を横に振ったエドガーの言葉に、サウルが「そうだね」と賛成した。

 どうやらエドガーとサウルの判断基準は、自分たちに影響があるかないかの一点だけらしい。


「死んでしまった魔王が、私たちに影響を及ぼすはずがないだろう?」


 ローレンスは、まだ不服そうだ。


「実際まだ瘴気っていう影響があるじゃないか」


「あっ、そう言われれば」


 サウルに言われてローレンスも納得した。


「まあ、それも聖女さまに浄化してもらえば、遺体は消滅するはずなんだけどね」


「油断は禁物だ。ユディに危険が及ぶ可能性があるのなら、魔王の遺体の浄化などしないぞ」


 エドガーはいつでもユディ優先。きっぱり断言してしまう。


「そこは大丈夫じゃないかな? むしろ()()()()()は、魔王が完全に浄化されて消滅することを待っているみたいだしね」


 サウルの言葉に、ローレンスが首を傾げた。


「消滅するのを待っている?」


「そうだよ。ハジュン――――魔王じゃなく、あえてハジュンと呼ぶけれど――――彼の体が完全に消滅したら、アマテラスはその魂を実験体に移せるんだろう? ……きっと彼女はそのときを、今か今かと待っている。……浄化の旅に出て早々、その力を無駄に使って倒れた聖女さまに、あえて浄化ポイントを教えて旅がスムーズに進むように()()くらいにはね」


 サウルは、ニコリと笑ってそう言った。


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