雨
今日は朝から雨が降っている。
そのせいか、人通りはほとんどない。
あの猫も、さすがに今日は来ていないな。
……ちょっと寂しい。
ちゃんとどこかで雨宿りしていればいいが。
しかし、この道。
舗装もされていないから、雨が降ると泥が酷いな。
この世界だと、文明レベルってどのくらいなんだ?
まあ、日本の水田とか畑の畦道なんかも、未舗装のところはある。
この辺りに田畑がないような気もするが……。
あくまでも、俺の感じだ。
それとも、たまたまこの辺りだけなのか?
動けないから、周囲のことは感じ取るしかない。
それでも、転生してから妙に周囲のことを感じやすくなった気がする。
風の流れとか。地面の状態とか。
人や動物が近づいてくる気配とか。
……まあ、気のせいかもしれないけど。
早く雨、止まないかなー。
そんなことを考えていると――
ん?何か来る感じがする。
少しずつ近づいてくる。
馬車?
……いや、違う。馬車より遅い。
雨だからか?
いや……人だ。何かを引いている。
手引き台車か。雨の中、大変だなぁ。
ゆっくりと近づいてきた人は、俺の前で止まった。
ん?ここで止まるのか?雨宿り?
……なわけないか。
だって俺は、ただの杭だ。屋根なんてない。
そんなことを考えていると、何かを下ろす音がした。
木の板?何をするんだ?
……ん?
明らかに俺に板を当てている。
屋根を作るにしても、位置がおかしい気がする。
そして――トン!トン!トン!
何だ!?板を打ちつけられた?
ちょっと待て。俺、杭なんだけど。
さらに何度か音がして――
「ふぅ~。これで分かりやすくなったかな」
声がした。
分かりやすく?
俺には何のことだか、さっぱり分からない。
しばらくすると、男は満足したように立ち上がった。
「これなら、初めて来る人にも分かるだろ」
そして、そのまま去っていった。
……。
何だったんだ?
俺の身体に何かを取り付けたようだが。
ん?さっき打ちつけられた板。
何か書いてある。
……読める。
「ホフヌング村」
ホフヌング村?村の名前か?
ということは――ここに行けば、ホフヌング村があるのか。
いや、待て。文字が読める。
この世界の文字なのに、俺には普通に意味が分かる。
転生した時から言葉が理解できたが、文字まで読めるとは。
これはかなり助かる。
……それより。
ホフヌング村。
正面に続いているこの道ではなく、左方向に行けば村があるらしい。
つまり俺は――杭から標識に進化したぞ!
……。
……これで良いのかな?
よー分からんけど。
少なくとも、今までの俺よりは、人の役に立てそうだ。
道に迷った人が、この標識を見て村へ向かえる。
つまり――神力が貯まる可能性がある!
「…………」
まあ、声には出せないんだけど。
よし。
じゃあ、標識を頑張るか!
……いや。だから、標識を頑張るって、何だ?
自分で考えておいて、よく分からない。
それでも、俺は今日から――ホフヌング村への道を示す標識として、ここに立ち続けることにした。




