豊かな山
うむ。山になって数日。
意外と――山もいいな。
最初は山って何をすればいいんだ?
なんて思っていたけど。
あれから、山全体に意識を広げる感覚にも少し慣れてきた。
今では、この山に何があるのか、だいたい把握できるようになった。
まず、大小様々な動物がいる。
小さな動物もいれば、俺が名前も知らないような大きな動物もいる。
鳥の声もあちこちから聞こえる。
……かなり賑やかだ。
さらに、山の中には何軒か家もある。
人が住んでいるらしい。
話し声を聞いていると、どうやら木を切っている人たちや、炭を焼いている人たちのようだ。
山の中で生活しているんだな。
他にも、山菜を採ったり、沢で魚を捕ったりしている人もいる。
こうして改めて見てみると――この山、結構いろいろあるな。
木がある。水もある。食べ物もある。動物もいる。そして、それを利用して暮らしている人までいる。
何となくだが――かなり豊かな山っぽい。
俺自身は何もしていない。
ただ、ここにあるだけ。
それでも、人や動物がこの山から恵みを得て生活している。
……。
もしかして、山って思っていた以上に、人の役に立っているのかもしれないな。
そう考えると、少しだけ山としての自信が出てきた。
杭の時は何もできなかった。
標識になって、ようやく人の役に立てた。
橋になって、もっと多くの人を支えられた。
そして今は――山として、多くの命を支えている。
「…………」
神力、ちゃんと貯まってるといいな。
まあ、急ぐ必要もない。
俺には時間だけは、いくらでもあるんだからな。
今日は、雨か。
朝から雲が出ている。
山全体が雲に包まれているような感じだ。
おかげで、山裾にある町もほとんど見えない。
今日は何も見えないなぁ
まあ、山なんだから仕方ないか。
そんなことを考えていると――ふと、不思議な感覚があった。
雨が降っている。
その雨が、俺の身体に染み込んでくるような感じがする。
……いや。身体というより、山全体に雨が吸い込まれていくような感覚だ。
「…………」
吸ってる?雨を吸ってる?
自分で言っておいて、何だそれって感じだけど。でも、本当にそんな感じがする。
山の表面に落ちた雨が、土に染み込んで。
そのまま山の中へ入っていく。さらに奥へ。
そして、どこかへ流れていく。
……もしかして、これが山の役割なのか?
雨を受け止めて。水を蓄えて。川へ流していく。俺が何かをしているわけじゃない。
ただ、山として存在しているだけ。
それでも――
「…………」
意外と、ちゃんと役に立ってるのかもしれないな。まあ、気のせいかもしれないけど。
山になったばかりの俺には、まだ分からないことが多い。
でも、この感覚。嫌いじゃない。雨の日も、悪くないな。




