ホフヌング橋
うむ。
標識の時より、かなり視界が広いなぁ。
周囲の様子がよく分かる。
そして何より――俺、新品の橋だ!
木の香りがする。まだ傷一つない。
そんなことを考えていると、橋の近くで人々が集まり始めた。
「この度、念願の橋が完成いたしました!」
おお。何か始まったぞ。
「今後は、この橋が地域の大きな経済効果を――」
なるほど。橋の完成式典か。
どうやら、俺が完成したことを祝っているらしい。
話を聞いていると、この辺りには今まで橋がなかったようだ。
川を渡るには、渡し船を使っていたらしい。
そう考えると、俺ができたことで、かなり便利になったんだな。
……ん?
川上の方から声が聞こえる。
「橋ができたぞ!」
「これじゃあ、渡し船が必要なくなる!」
「今まで渡し船で生活してきたのに!」
……。
なるほど。
俺ができたことで、困る人もいるのか。
今まで渡し船で生活していた人たちにとっては、俺の存在は仕事を奪うことになる。
便利になれば、誰もが幸せになる。
……そう簡単な話でもないんだな。
「…………」
うーん。何とも難しい話だ。
俺はただ、人の役に立つためにここにいる。
でも、俺が誰かの役に立つことで、別の誰かが困ることもある。
神力は、どう判断するんだろう?
そんなことを考えていると――
「それでは、この橋の名前を発表します!」
お?橋の名前?
「この橋は――」
少しの間を置いて、声が響く。
「ホフヌング橋と命名されました!」
ホフヌング橋?
……。
……ん?
何処かで聞いた名前だな。
ホフヌング。ホフヌング……。
「あっ!」
思い出した!
標識だ!
俺が標識だった頃、街道の脇に掲げられていた名前。
ホフヌング村。
そうだ!俺は確かに、ホフヌング村への道を示していた。
ということは――この橋、そんなに遠くない場所にあるのか?
いや。正確な距離は分からない。
でも、同じ名前が使われている。
なら――
「…………」
まさか。俺、同じ世界にいるんじゃないか?
いや、当然と言えば当然なのかもしれない。
でも、転生したからといって別の場所に生まれ変わった可能性もあると思っていた。
それが――同じ世界。
しかも、ホフヌング村の近く。
俺が標識として立っていた場所から、それほど離れていない。
……そう考えると、何だか嬉しくなってきた。
あの村は今もあるのか?あの店は?
あの猫は?
俺が立っていた標識は、まだ残っているのか?
知りたいことが、どんどん増えていく。
でも、今の俺には確かめる方法がない。
なにしろ――俺は橋だ。
動けない。
「…………」
まあ、いいか。いつかまた、何かに転生する。
その時に、この世界をもっと広く見られるかもしれない。
そして、いつか。
あの頃の場所へ戻れる日が来るかもしれない。
俺は、新しく架けられたホフヌング橋として、今日も人々を支えるのだった。




