幕間一 迎え火の宴の図
――黄泉沢死合い絵巻 第一巻 詞書
天正の某年、文月十三日の宵。
甲斐信濃の境なる黄泉沢の城主、穂刈刑部どの、盂蘭盆の迎え火を盛んに焚かしめ、谷の河原に宴を張りたまう。
篝火は天を焦がし、町の者ども、城主の御恩を謝して、夜もすがら踊り明かす。その顔、みな喜びに満てり。
この宵、天下に名高き剣客ども、刑部どのの御威光を慕い、四方より馳せ参ず。
一番に進み出でたるは、三十人斬りの勇名轟く鬼塚弾正。その声、雷のごとし。
南蛮渡りの剣士ガルシア、異国の細剣を掲げて名乗る。
修験の不動坊、我が腕を貫きて血を見せ、なお顔色を変えず。護符の験力、まことに恐るべし。
狐火の小太郎、槍を回せば鬼火のごとく、見る者みな息を呑む。
鉄漿丸どの、美しき女どもを従えて、威風堂々と名乗りを上げる。
影次と名乗る黒衣の剣客あり。寡黙にして、底知れず。
金山の人足辰五郎、刀も持たずに名乗り出でたるを、刑部どの、御慈悲をもって許したまう。その御度量の広きこと、海のごとし。
城主の名代、蓮丸どの、二刀を帯びて名乗る。若年ながら、その眼光、すでに剣聖の風あり。
城主刑部どの、自ら大小二本の香を立てて名乗りたまう。この香を折る者あらば谷を譲らんとの仰せに、挑む者ひとりとしてなし。谷の主の御姿、まさに雲を衝く山のごとし。
琵琶法師ひとり、剣を捨てたる身なれども、城主の御厚情に感じ入り、自ら進みて名乗りを上げる。刑部どの、これに一振りの刀を賜う。
最後に一人、細き若武者、千之助と名乗りて居合を称す。
かくして香は十二本、大香炉に立ち並び、その煙、迎え火とともに天へ昇る。
明日より、死合い始まる。
勇士たちの武運、いずれに傾くや。
◇
(詞書の余白に、細い筆で書き込まれた走り書き)
踊る者に、笑みなし。
法師は、自ら進みてにあらず。坑の闇の上に吊られて、のち名乗る。
最後の若武者、香の持ち方、尋常にあらず。
――是、いずれも書かず。




