リソース
本気の殺気を叩きつけ、テファンの首を絞める。
きゅっと指に力を込めれば、首の骨がメリメリと音を立て始める。
あと少し力を込めれば、一瞬でその首をへし折ることも可能な状態だ。
俺と目を合わせてこちらの本気を見て取ったテファンは、それでも絞められている首を小さく左右に振り、そしてこちらを睨み付ける。
「当ったり、前だろ……情報屋の信条として、俺は依頼人の情報だけは売らねぇって決めてんだ……」
「そうか、悪かったな」
そのままぽいっと彼のことを放り投げ、元いた場所に座らせる。
やっぱり、テファン経由じゃなさそうで安心した。
「げほっ、なんなんだよあんた、いきなり乱暴過ぎんだろ……」
頭脳明晰な俺が敢えてこんな力任せなことをしたのは、無論理由がある。
――テファンが既に魔王軍に寝返っていた場合、こいつは速やかに処理する必要があったからだ。
以前情報を聞いた時にげっそりとしてたので使うのに制限はあるようだが、テファンの能力はあまりにも強力すぎる。
もしなんらかの方法であちらに協力するようなことになったら、人間側の能力はほとんど丸裸にされると言っていい。
だからもし背信の疑いがある時には、下手なことをされる前に俺の手でくびり殺すつもりであった。
まあ設定資料集にもこいつの裏切りを示唆するような文言はなかったから、一応大丈夫かとは思ってたんだが……なんにせよこれで一安心だな。
命の危機に瀕しても尚、テファンの目は輝いていた。
俺の直感も、テファンはしっかりと信用できると言ってくれている。
「すまんな、既に魔王軍の手は人類側にまで伸びている。こうして確かめないとおちおち眠れもしないんだよ。俺は小心者でね」
「だからっていきなり暴力はねぇだろうが、次からお前の依頼断るぞ、マスキュラー」
「それは辞めてくれ。いや、マジですまんかった……って、あれ? なんで俺の名前を……って、そうか。さすがだな」
俺、こいつに名前教えたっけかと思ったが、多分死霊術を使って調べたんだろう。
まあ依頼主の身元を確認するのも情報屋の仕事の一つだし、別に怒ったりはしないが。
別に隠すつもりもないらしく、テファンは机から取り出したゆっくりとゆっくりと吸って呼吸を整えながらこちらを見た。
「お前の情報を見てびびったよ……まさか魔王軍の幹部であるジャビエルを倒すほどの実力者だったとは」
「俺は勲一等なだけで、別に俺だけで倒したわけじゃないぞ」
「いや、実質お前単独で倒したんだろ? 倒された魔王軍幹部から直接聞いたんだから間違いない」
「……マジかよ、お前の力、魔族にも使えるのか」
「しかもお前……やっぱり俺の力に当たりをつけてやがるな。一体どこまで底が知れねぇ男なんだ……」
「ふふふ、俺が産まれてから最初に喋った言葉はミステリアスだからな」
こいつの能力の関係上、基本的に俺の情報はテファンに筒抜けになるのは当然のことだ。
故に俺はこいつだけは、なんとしてでも味方につけておく必要がある。
え、それならなんで首を絞めたのかって?
……そんなこと、知るか!(逆ギレ)
「テファン、俺はお前には味方でいてほしいと思っている。だから一つだけアドバイスをしておきたい」
「暴力の次に優しい態度とか、DV彼氏みたいなことするなお前」
ため息と共に言葉を吐き出すテファンに言葉を続ける。
葉巻の匂いがくっさいが、口で呼吸をして匂いは完全にシャットアウトさせてもらう。
「魔王軍幹部のアイーダに気をつけてくれ。とにかくあいつの居場所にだけは近付かないようにした方がいい。洗脳能力持ちで、一度出会えば最後、お前は死ぬまで情報を絞られ続ける人生を送ることになる」
ここは『ルモア・ファンタジア』の世界ではあるが、何から何まで仕様がゲームと同じというわけではない。
レベルやスキルが存在していないのもそうだし、なんか俺が強くなれてるのもそうだ。
ゲームでは人間の情報屋が寝返るなんて事象は起こらなかったが、この世界ならあってもなんらおかしくない。
むしろゲーム知識がある人間があちら側にいるのなら、何がなんでもテファンのことを手に入れようとするだろう。
命をかけてでも情報屋の矜持を守ろうとするテファンであっても、魔族達が持つ固有能力を前にすればひとたまりもないだろうからな。
「……わかった。英雄様のアドバイスにはきっちりと従っておくよ」
「ああ、それでこっからはまた仕事の話だ。テファン、できれば俺と……専属契約を結んで欲しい。お前のリソースを、他のやつらに割いてしまうのはあまりにも惜しい」




