がっつり
あとがきに大切なお知らせがあります!
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テファンはかつてこのグランダット王国で子爵家であった、アングラー家という家系の末裔だった。
彼らは代々特別な力を受け継いでおり、その力を使い王国を影から支えてきたのだ。
アングラー家が持つ力とは、死霊術。
霊体となった死人と交信し情報を集めることで、彼らは拷問でも口を割らぬような諜報員達から情報を集めることに成功していた。
一時は諜報の長に収まることもあったものの、その栄華は長くは続かなかった。
死霊術を危険視した貴族家によってその地位を追われ、彼らは貴族位を剥奪されて在野に下らざるを得なくなったのだ。
その末裔であるテファンもまた、死霊術の使い手だ。
彼が手に入れた『霊代の笛』は、降霊に必要な依り代を自身の魔力で代用させることができるというマジックアイテム。
これを使うことで彼は死体や遺髪、遺留品などの物品がなくとも、思った死人を自在に召喚しそこから情報を引き出すことができるようになった。
これを使って一族を復興させる……などという大それたことは、まったく考えていない。
そもそも陰日向で動く死霊術士が貴族位をもらったこと自体が間違いだったのだと、テファンは思っていた。
故に彼は情報屋として裏に潜みながら、その力を活かしてひっそりと生活している。
十分な金は稼げるし、人の役にも立てる。彼はこの生き方でいいと思っている。
そんな最中現れた謎の男であるマスキュラー。
彼が求めた情報があまりに不可解だったために、テファンはその身辺調査を行った。
するとそこから信じられない情報の数々が出てくるようになる。
魔王軍幹部をほぼ単身で倒した稀代の英雄。
俺にはそんなことは無理だなと思いながら、やはり一男児として憧れと劣等感を抱かずにはいられない自分もいた。
複雑な感情を抱いていたマスキュラーが来てそして組み伏せられた時には目を白黒させることになったが、彼から渡された情報には目を剥いた。
彼がそれだけ自分が魔王軍側に寝返ることを危惧しているのだということが、その態度からわかったからだ。
英雄からそれ程までに重要視されているという事実に、喜びを感じずにはいられない。
そしてそんな風に思ってるなら首絞めるなよと思わずにもいられなかった。
勧誘自体は嬉しくないわけではない、だが……。
「……俺はそういうのはしないようにしてるんだよ。雇い主に忖度するようになったら、情報屋は終わりだ」
テファンに自身の先祖達と同じ轍を踏むつもりはまるでなかった。
彼はあくまでも影働きに徹するつもりだ。
英雄と共に光の道を歩くつもりはない。
「だが、ある程度優先的に仕事を受ける程度であればしても構わないさ」
情報屋に求められる情報は、基本的にはしけたものばかりだ。
誰かの弱みであったり、雲隠れした人間の居場所であったり、裏社会の重要人物についてのものであったり……そういった誰かを追い込むための情報よりは、彼に誰かを救うための情報を与えた方がよっぽどマシだろう。
以前彼が求めたグレンという少年が一体なんだったのか、テファンは調べてはいない。
依頼人の素性は調べてもそのプライベートには立ち入らないというのが、彼の持つ信条の一つだからだ。
だがおそらくマスキュラーはオルドの街を救った時と同様、被害を未然に防ぐためにあちこちを走り回っているに違いない。
(なんやかんやで俺はこいつのことが、気に入ってるのかもしれねぇな)
先ほどの行動も、彼が真に人類のことを思っているからこそだろうということがわかっているからこそ、そこまで腹も立たなかった。
『これはDV彼氏にほだされている彼女と同じ心理なのか?』と内心ちょっとだけ複雑な気分になった。
「まあそれならそれでいいぜ。俺が求める情報はめちゃくちゃ幅が広いが、問題ないか?」
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってる?」
「王都一の情報屋にしてむっつりスケベのテファンだろ?」
「馬鹿言うな、俺はがっつりスケベさ」
「ははっ、そんじゃまあ、これからもよろしく頼むぜ」
二人は固い握手を交わす。
テファンはその後、マスキュラーからとんでもない量の情報を求められるようになり実質ほとんど専属で働き続けなければいけないほどに死霊術の行使に追われることになるのだが……それはまた、別のお話。
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