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vsランド

「はああああっっ!!」


 上がった足の裏側を斬り付ければ、他の部分よりやわらかいらしくしっかりとダメージが通った。

 そのまま放たれるストンピング、その全てが必殺の一撃。


 だが不思議と恐れはない。

 全ての魔力を瞳に集中させる。

 すると相手の攻撃が先ほどまでと比べて、明らかに遅くなった。


 右から来る踏み潰しを、更に右に向かうことで避ける。

 そのまま上がった足へ一撃。そのまま攻撃を食らうのを嫌った溜めのないスピード重視の一撃は、バックステップでかわす。

 それならばと続いて放たれた踏み潰しは溜めが大きいが、踏み込んで相手の軸足に切り込めば拳の範囲内に入ってしまう。


 次は威力が高い一撃が来るとわかっているが故に、足裏に最低限の魔力を集める。

 先ほどまでの瞳への魔力凝集を維持しながら、新たに魔力をひねり出すことが可能になっていた。


 命がけの戦いの中で、魔力凝集の使い方が、今までとは次元が違うレベルで上手くなっていくのがわかる。


 攻撃の瞬間、前に出ることでそれを回避。

 両の足裏への魔力凝集を強める形でその場に自分を固定してから、左足だけを解除。


 右足を軸足として固定したまま、独楽のように遠心力を加えた一撃を相手のアキレス腱目掛けて放つ。


 人体と似た構造を持つゴリラにとっても弱点ではあるはずだが、ダメージは少ししか通らない。わずかに血が出たが、腱を断ち切ることはできなかった。


「ぐっ……こんのおっ!!」


 距離が近付いたことで、ランドの拳の射程に入る。

 僕の頭上に雨あられと大量の拳が降り注ぐ。


 足裏を固定していた魔力、そして更にひねり出すことが可能になった魔力、その全てを目に注ぎ込んだ。


 身体強化は使わない。

 そうすれば一時的にしっかりとダメージを与えられる可能性はあるが、戦いを有利に進められる時間は長くは続かない。


 今の僕に必要なのは時間だ。

 故に意識するのは継戦能力、魔力の使用は最低限にして相手を翻弄する必要がある。


 拳の手数は、足と比べれば明らかに多い。

 ランドからすればジャブ程度の一撃であっても、こちらは看過できぬ威力を持っている。

 だがその全てを捌ききることは不可能、故に僕は完璧に防ごうという考えそのものを捨てた。


 攻撃を回避し、避けきれない攻撃は剣を使って受け流す。

 衝撃をそのまま受けてしまえば剣はあっけなく折れてしまうが、そこは技量の問題だ。


 速度はあちらの方が明らかに速いが、そこに技はない。


 ミリアから教わった相手の攻撃を受け流すための剣技を用いれば、防御をすることは可能だった。

 無論、相手の攻撃力の高さ故に完璧に受け流したとしてもダメージはゼロにはならない。

 だがそれでも問題はない。


「ヒール」


 何せ僕は既に回復魔法を習得している。

 僕自身の体力がそこまで高くないからこそ、さして練度が高くない回復魔法であっても十分に回復が可能だ。


「ふぅ……」


 攻防が終わり、お互いが示し合わせたように距離を取る。

 ゆっくりと息を吐き出した。

 本当なら今すぐにでも荒く息を吸い込みたいところだが、それをしてはいけないことはわかっている。


 相手に弱みを見せては、つけあがられる、そこにつけ込まれる。

 故に僕は笑った。


 辛いときこそ、不敵に笑え。

 マスキュラーの言葉は、こんな逆境にあっても僕の心を奮い立たせてくれる。


「驚きました……まさかこれほどの逸材であったとは……」


 僕が必死の思いで全身につけた傷は、既にそのほとんどが塞がってしまっていた。

 どうやらあちらもなんらかの回復手段を持っているのは間違いないようだ。


 だが、なんとか食らいつくことはできている。


 本来であればランドは、僕よりもはるかに強い相手だ。

 だがいくつもの幸運が積み重なった結果、僕はこうして彼の攻撃を食らうことなく対等に戦い続けることができていた。


 ランドが遠距離攻撃の魔法の類いを使ってこない、近接戦を行う魔物であること。

 この魔物が使うのが武器ではなく、己の拳であること。


 そして僕には、近接戦をより高い次元で行えるマスキュラーという師匠がいること。

 全てが奇跡的に噛み合い、この拮抗を生み出してくれている。


「これは魔王様が警戒するのも頷けますね……ホホッ。あなたと戦うのが、今この時で良かった。一年後、あるいは二年後であったのなら、負けていたのは私の方だったかもしれません」


 ランドは雄叫びとしか思えない割れるほどの大音量で、こちらを見ながら笑っていた。 言葉が理解できなければ、僕のことを美味そうな餌だとよだれを垂らしているとしか思えなかっただろう。


 相手がまだ、紳士的なゴリラ型魔物で助かった……紳士的なゴリラ型魔物って一体なんだ。


 ……ダメだ、なんだか最近は思想までマスキュラーに染まってきた気がする。


「それでは私も、本気を出すとしましょうか……」


 そう言うとランドは大きく息を吸い込みながら、目を怪しく光らせた。

 その瞬間、遠方から突如として巨大な火の鳥が現れる。


「PIAAAAAAAA!!」


 上級火魔法、ファイアフェニックス。

 ミリアの魔法を見ていてインスピレーションが湧いてできてしまったという、今のナージャが使うことができる最大火力の魔法だ。


 僕が戦っている間、彼女は常に魔法を撃つタイミングを見計らい続けていた。

 ナージャの最大魔力はそこまで高くない。魔法をそう連発していたはすぐにガス欠になってしまう。


 故に僕が戦っている間もジッと待ち、最も火力をたたき込めるタイミングを伺い続けていたわけだ。


 僕から見ても、これ以上ないほど素晴らしいタイミングだったように思える。

 相手が技を使う寸前の硬直、狙いやすいところで着実にダメージを与えるのは戦いの基本だ。


「グッ……私の変身シーンを邪魔してくるとは、まったくお約束というものを理解しない人達ですね」


「ヴォルカニックレーザー!!」


 チュドーン!!


 ナージャが使うことができるもう一つの上級魔法であるヴォルカニックレーザーが、もくもくと上がる煙の向こうから話をしようとしていたランドに直撃する。


 これで終わりだと思ったタイミングで隙と意表を突く。

 彼女の中にも、師匠の教えがしっかりと息づいているようだ。


「まったく、ムカつく子供達ですねぇ……」


「フレイムショット!」


「ドラミングリジェクト」


 ドンッ!


 ナージャから放たれた中級火魔法であるフレイムショットは、煙の向こう側から現れた衝撃波によって無効化された。


 そしてようやく、煙の中に消えていてしばらく見えていなかったランドの姿が現れる。 新たに現れたランドは……その体色が白へと変わっていた。


 その身体は、先ほどまでと比べて一回り小さくなっている。

 けれど発されるプレッシャーは先ほどよりも高くなっていた。


「さて、それでは第二ラウンドと参りましょうか……」

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