いい男
あとがきに大切なお知らせがあります!
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「――がふっ!?」
ぞくりと背筋に嫌な寒気が来た瞬間、俺は魔力凝集を使い瞳に魔力を集中。そして同時に身体強化を併用した。
その反応は間違っていなかった。
次の瞬間、俺は横からやってきたランドの一撃をモロに受けて身体を吹っ飛ばされていたからだ。
「くっ……」
打撃を食らいながら、なんとか立ち上がる。
急いで体勢を立て直そうとした時には既に、ランドはこちらに近付き二発目を放つ体勢に入っていた。
先ほどのように魔力凝集と身体強化を併用し、今度は頭に身体強化の出力を集中させることで意識を集中させ、思考加速を行った。
身体強化は身体全体を強化する魔法だが、発動してから全身からある程度数カ所に偏りを持たせることができる。
マスキュラーは出力が馬鹿みたいに高いのでそんなことをしなくて全部まとめて一気に強化した方が速いと言っていたが、あれは彼がおかしいだけだ。
身体強化のスペシャリストではない俺は、こうして魔力凝集と同様に身体強化も指定の部位に集中させることで低い出力を補うしかない。
その目的は、防御ではなく見。
先ほどは見れなかった相手の攻撃を、着実に……見るッ!
「見えたッ!」
再びの衝撃。
地面を引きずられるように後ろに大きく下がりながらも、今度は吹き飛ばずに済んだ。
攻撃の瞬間に魔力凝集と身体強化を腕に集中して防御姿勢を取ったおかげで、ダメージはそこまで大きくない。
「なるほどな……」
止めていた息を吐き出しながら、俺はランドの動きの一挙手一投足を見ることができた。
白くなったことでパワーアップしたのは間違いなく、あいつの動きが速くなっている。だがそれだけではなく、ランドの攻撃には先ほどまでになかった追加効果があった。
彼が攻撃をする際に肉体にまとわりついている魔力。
これが形を変えて物質化することで、本来の射程よりも長い攻撃を高速で放つことを可能としているのだ。
「これが第二形態の私が持つ力……魔手魔脚。何人たりともこの攻撃から逃れることは……できないッ!」
再びの加速。
ここに来てはもはや四の五の言っていられる状態ではない。
身体強化を全力で発動し、魔力凝集も発動させて目と頭の動きを活性化させる。
相手の一撃を見てから避けるのは不可能。
故にやることは、勘と予測による攻撃の回避。
スピードは上がったが、その攻撃スタイルが変わったわけじゃない。
完璧にとは言わずとも、これなら避けることが……っ!?
「ぐうっ……!?」
攻撃を避けた、そう安心した僕をあざ笑うかのように、ランドが纏っている魔力が形を変えてこちらへ攻撃を繰り出してきた。
拳から分かたれるようにして現れた第二の拳。
その威力は先ほどの第一形態のランドが放つ全力の一撃に匹敵する。
僕は再び吹き飛ばされながら、なんとかして受け身を取ろうと回転しながら自分の場所を確認する。
「きゃああっ!?」
追撃をしようとするランドへ牽制をしたナージャが、そのままランドが魔力を使って伸ばした蹴撃をもらいボールのように吹っ飛んでいく。
ベキベキといくつもの樹をへし折りながら後ろに飛ばされていく彼女の方を、顧みるだけの余裕もない。
種がわかれば、対処は不可能ではない……そう思っていたが、対処はあまりにも難しい。
ランドの意志に沿う形で攻撃の最中から突如として分裂してくる魔力の腕と足……なるほど、だから魔手魔脚なのか。
これをなんとかしようとするのなら、僕の方も手足が二本ずつじゃ足りない……。
……そうか!!
一瞬見えた一筋の光明、その可能性の糸をたぐり寄せるために、僕はランドの動きを観察し続けた。
致命傷となる以外の攻撃を食らい続け、重傷に関してだけは動きが鈍る前に光魔法での回復を行う。
命のやりとりをしている土壇場だからか、今まではできなかったはずの魔法の二重の起動も実にあっさりと成功するようになっていた。
痛みも不思議と感じない。これが戦場で兵士が感じる、高ぶりというやつなのかもしれない。
「往生際の悪い……ッ!」
ランドが放つ渾身のストレートを、剣によって受け流す。
その刹那現れる、魔力の腕……通算五度目になるその腕を見たことで、僕はそこに宿っている術理を理解した。
つまるところあれは、形質魔力をそのまま対外に放出し魔法のような何かとして物質化させているに過ぎない。
それを魔法と同様魔力を足して加速させれば……。
「はああああっっ!!」
「なっ!?」
僕の顔を打ち据えようと伸びてきた魔手を、僕は己の腕から伸ばした第三の魔力の腕を使って受け止めてみせた。
なるほど、魔力で作られているからこそ込めれば込める分だけ威力が上がるのか……。
だが拮抗は一瞬、相手の魔手の一撃に完全に耐えることはできなかった。
魔力による腕で方向を逸らすのが精一杯で、僕は何度目になるかもわからぬバウンドをしながら再び受け身を取って立ち上がる。
「まさか今の一瞬で、私の魔手魔脚をトレースしてみせるとは……」
「友人の話では僕は、なんでも吸収できるスポンジらしいからね」
「あまりにも、あまりにも高すぎる学習能力……君は……危険だ、グレン君」
「……どうして、俺の名を?」
「それはもちろん……おっと、さすがにこればかりは言うわけにはいきませんねぇ」
そういえば先ほどの口ぶりも、まるで俺本人を狙っているかのようだった。
なんで魔物が俺のことを知っているんだ?
俺はシータ村から出たこともない、普通の人間なのに……。
「全力で……行かせていただきます」
瞬間、ランドの姿が消える。
次の瞬間には、その拳が俺の肉体に穴を空けていた。
「が、ふっ……」
口から思い切り血を吐き出す。
動きが……まったく見えなかった。
ちくしょう、あれでもまだ本気じゃなかったってことなのかよ。
「ふふふ、これで……ぐわあああああっっ!?」
「へへっ、ざまあみやがれ」
攻撃をぶち当てていい気になっているランドの股間に、俺は硬質化させた魔力をぶち当てた。
どうやら強靱な肉体を持つ魔物であっても急所が弱点なのは変わらないらしく、そこからは血がドクドクと流れていた。
どうだ、一矢報いてやったぞ、このエテ公。
「なんと、往生際の悪い……ッ!」
あいにく生き汚さは、師匠譲りなもんでね……っ!?
こみ上げてくるものを吐き出すと、ごふっと口から血の塊がこぼれ落ちた。
腹から流れる血の勢いは変わらず激しい。
こんなに血を流したのは、生まれて初めてだ。
身体が……寒い。
死の足跡が近付いてくるのをたしかに感じる。
多分そう遠くないうちに僕は、命を落とすことになるだろう。
死を前にしても、状況を冷静に俯瞰できている自分がいることに驚く。
「これで……最後ですっ!」
ランドが放つとどめの一撃を前にして、僕は奇妙に落ち着いていた。
なんでだろう、わからないけれど……やれることはやったという自覚があるだろうか。
今の僕にやれることは全てやった。
ランドの迫り来る剛拳が、僕の頭を吹き飛ばすべく迫る。
そして……ッパアアアアンッ!!
ランドが放った拳が受け止められる。
僕の前に現れた、大きな手。
そして現れた、頼りがいのある男の背中。
「いい男になったじゃねぇか」
「もう……遅すぎるぞ、師匠……」
必死に保っていた意識が明滅し、頭がふらふらと動く。
僕の身体は既に限界を超えている。緊張の糸が切れることで、揺り戻しが来たのだろう。
さっきの一撃で魔力もほとんど全て使い切り、体力も残っていない。
「安心して眠るといい。こいつは俺が……ぶち殺しておくからよ」
師匠が来れば大丈夫……なぜか僕は、そう確信していた。
マスキュラーの言葉に頷きを返した僕は、そのまま意識を失うのだった……。
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