ありったけ
今回俺が狙っていたアーティファクト、『打ち出の巨槌』。
不壊棒と比べれば小さいがそれでも俺が逆向きにしないと背負えないほどにデカいそれを担ぎながら、俺は颯爽と街を抜け出して合流地点へとやってきていた。
「というわけで、無事手に入れることができたな」
「あっという間だったね……」
ボンビー伯爵家のカネナリが持っているアーティファクト『打ち出の巨槌』。
その効果は攻撃の度にお金が発生し、戦闘に勝利した際にその分の金も手に入るというもの。
攻撃力がさほど上がるわけでもなく、ただ攻撃の際にしゃらららーんという効果音が鳴り金が手に入るというだけのハンマー系の武器だ。
ここまで説明すればわかると思うが、こいつはいわゆるネタ武器というやつである。
この『打ち出の巨槌』はボンビー伯爵家の領都キンマンに来ることで解放されるサブイベント『悪徳貴族、許すまじ』をクリアすることで手に入る武器だ。
本来なら民の窮状を聞き、領民が苦しい生活をしている中、自分だけで槌を使って濡れ手で粟でちゃりんちゃりんしている伯爵のカネナリをぶっつぶして民を救うというイベントがあるわけだが……いちいち正統な大義名分を用意してあれやこれやしている時間はない。
なので当然のごとく今回はスルーして最短距離で突っ走らせてもらった。
腕力に飽かせてしまっている扉をブチ開けて、そのまま開け方がわかっている隠し部屋にへ突入し、武器をゲット。
その間にミリアにはカネナリが行っていた脱税を始めとした悪事の証拠を押さえてもらい、それを王都へと郵送してもらった。
放蕩三昧していたカネナリの豪遊生活もこれまでだ。
これからは慎ましく生きていくんだぞ。
「まあ俺はこれで、金の工面とはおさらばする生活を送るんですけどね!」
「マスキュラー、一体誰に向けて喋ってるの?」
いずれグレンがクリアすることになるイベントだが、正直こいつは全くストーリー進行には影響しないので、今潰してしまってもさしたる差はないだろう。
むしろ完全にこいつに経済を依存しきる前になんとかできたから、領民達もそこまで苦しい生活をせずに済むのではないか。
結果的に多くの民を救ってしまったな。
頭が冴え渡りすぎて、自分でも怖くなってくるぜ……。
「さて、それなら早速この武器の効果の程をたしかめさせてもらうとするかな」
『打ち出の巨槌』の見た目は、もう完全に物語に出てくる打ち出の小槌そのものだ。
でんでん太鼓みたいな見た目の、なんか紐のついた槌を大男が振り回せるサイズにめちゃくちゃ大きくしたって感じである。
材質は全て樹のようだが、指で叩いてみるとカンカンと金属みたいな音が鳴る。
さすがはアーティファクト……とりあえず壊さないように気をつけながら、使わせてもらうか。
「ギャッギャッ!」
「ゴブリン発見! よっこらせっ!」
「グギャアアアッッ!!」
俺は出会い頭のゴブリン君を横殴りにひき殺させてもらう、すまんなゴブリン君。
君は尊い犠牲になったのだ。
しゃらららーんと綺麗な金管楽器のような音が鳴ったかと思うと、攻撃がミートした場所が輝き出す。
そして……ジャラジャラジャラジャラッとに大量の金貨と銀貨が落ちてきた。
「えぇ……(ドン引き)」
「なんで使ってる本人が引いてるの?」
だって、魔力凝集すら使わず軽く振っただけでこれだぞ?
こんなの、実際に使ったらどうなることか……ダメだ、試さずにはいられない!
「ブモオオオッッ!!」
「らあぁっっ!!」
今度は街道知覚にいたオーク君に、魔力凝集を使って威力を底上げした一撃をお見舞いしてやる。
無論武器の耐久度を上げるために『打ち出の巨槌』の方にも魔力を纏わせるのを忘れない。 いくらアーティファクトとはいえ、大切に使わなくちゃいけないからな。
オークは一撃で絶命し……しゃららららーん。
さっきよりも少し高い綺麗な風鈴のような音が鳴ったかと思うと……ボトボトボトッ。
大量の金の延べ棒が合わせて十五本ほど虚空から現れた。
「えぇ……(ガチ引き)」
「うわぁ……」
さっきは俺を見て不思議がっていたミリアだったが、突然現れた大量の金の延べ棒を前にしてはさすがの彼女も引いたようだった。
魔力凝集でこれだと……身体強化を使ったら一体、どうなっちゃうんだ!?
「試さずには……いられねぇっ!!」
「マスキュラー、これ以上出たら持ちきれないって!」
「キシャア……」
「ただのリザードマン相手に……身体強化、レベル10!」
「馬鹿ぁっ!」
男ってのは、馬鹿な生き物なのさ。
もうこれで、運べなくなってもいい。
だから、ありったけを……。
「うおおおおおおおおっっっ!!」
「やめてえええええええっっ!!」
俺の全力の振り下ろしを食らったリザードマンが、ものすごい勢いで吹っ飛んでいき一瞬で空の彼方へと消えていく。
そして……ジャン、ジャジャジャーン!!
先ほどまでより更に激しいベースのような音が掻き鳴らされたかと思うと光が発生し……そしてその場に現れたのは、巨大なダイヤモンドだった。
「こ、これは……」
もっとこう、すごいのを想像してたから拍子抜けだ。
ちなみに俺の予想の第一候補は金山が降ってくるで、第二候補は金貨の洪水に押し流されるだった。
「なんか……微妙だな……」
現れたのは、俺の拳ほどもある巨大なダイヤモンドだった。
手に取ってみると、指輪なんかに使われているブリリアントカットってやつがされていて、どこから見てもキラキラと七色に光っている。
なんだっけ、たしかこの光のことをファイアとか言うんだっけか。
カラット数で言えばすごいのだろうが、なんかこう……インパクトに欠けるな。
しげしげと眺めていると、俺はこのダイヤモンド自体から魔力が流れていることに気付く。
「魔力が込められた宝石ってなると……これ、魔宝石なのか」
「魔宝石……? 嘘、マスキュラー……だとしたらこれ、ヤバくない?」
「ヤバいのか? 普通に金塊の方が金になる気がするんだが……」
「そんなわけないじゃん! こんなサイズのダイヤの魔宝石、一体いくらの値段がつくかわからないよ!? というか、値段がつくかも怪しいかも!」
「なん……だと……」
前世では金が高騰に高騰を続けていたからてっきり金の方が価値が高いとばかり思っていたが……どうやらこの世界だと、宝石の価値は俺が想像していたよりもずっと高いらしい。
たしかによくよく考えてみると、この世界には前世のような加工技術が存在しない。
それに更に魔宝石としての価値も加算されるとなると……。
「え、ヤバくない?」
「だからヤバいんだってば!!」
こうして俺達は無事金策を解決するためのアーティファクトを手に入れ、そして金策として使えるかどうかもわからないほどに大粒の魔宝石ダイヤを手に入れることに成功したのであった。
「これを換金するとなると……やっぱり一度オルドに戻る必要があるな」
俺にはスラムのとりあえず値切れるだけ値切ったれみたいなカス商人にしか伝手がなく、まともにこれを買い取ってくれそうなやつに心当たりがない。
こういう時は困った時のクレインだ。
侯爵家ともなればいくらでも心当たりはあるだろう。
「少し距離が離れちまうのが心配ではあるが、ってことなら早速……っ!?」
「……マスキュラー? そんなに怖い顔して、どうかした?」
俺は即座に、大量の金貨が入っている胸ポケットからあるものを取り出した。
――連絡水晶。
つい先日グレンに渡したばかりの片割れが、強い輝きを放っていた。
「……悪いミリア、後始末は頼んだ」
「えっ!? ……わかった、行ってらっしゃい、マスキュラー!!」
俺はデカダイヤも金の延べ棒も金貨も『打ち出の巨槌』も全てを放り投げ、そのまま全速力でシータ村への道を駆けていく。
――約束通り耐えろよ、グレン!




