↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/68

グレンの気持ち 前編

【☆★おしらせ★☆】




あとがきにとても大切なお知らせが書いてあります。




最後まで読んでくださると嬉しいです。

【side グレン】


 僕の名前はグレン。

 生まれも育ちもシータ村の、農家の息子だ。

 両親から愛情を持って育てられ、何不自由のない生活を送ってきた……と思う。


 僕にはナージャという幼なじみがいる。

 彼女の両親は母さん達と仲が良く、ゆくゆくは……という感じで、いわゆる許嫁みたいな関係にある。


 もちろん、それが嫌というわけじゃない。

 手伝いをしている農家の仕事も退屈だけど、嫌いではないし。


 けれど畑一面に広がっている麦を見ている時も、パシパシと棒で脱穀をしている間も、僕の心の奥底にはここではないどこかに行きたいという、漠然とした欲求があった。


 その感情は焦燥のようなもので、寝て起きる度にどんどんと強くなっていく。


 これが一体なんなのかはわからない。

 気になって父さんに聞いてみた時も、思春期特有の漠然とした不安みたいなものだと言われてしまった。


 たしかにこのまま農家を続けて村を一度も出ないことに対して、ひっかかりを覚えているのは事実だ。


 だからといってここではない外の世界を見たいという気持ちは強いけれど、そのために全てを擲って放り出すのは不義理だと思う。


 多分僕はこの気持ちを抱えたまま、この村で生きていくんだろう。

 今感じているもやもやも、平穏で、ちょっと退屈ではあっても心地よい日々を送っているうちに、消えていくものなんだ。


「ナージャ……僕が君を守るよ、何があっても」


「グレン……」


 そんな風に思い、自分なりに納得して、許嫁であるナージャに改めて彼女を守ると誓った、その時のことだった。


「だ、誰だッ!?」


「俺だよ俺……マスキュラーだよっ!」


「そうか、マスキュラーか……って、誰だよ!?」


 僕の誓いの言葉をこそこそ隠れて聞いていたのは、筋骨隆々のマッシブな男だった。


 彼は意味がわからない言葉を連発しながらなぜかいつも自信満々な、嵐のような男だった。


 出会った時には欠片も思ってなかったよ。

 まさか彼が僕が感じていたもやもやを、まとめて気合いで吹き飛ばしてしまうだなんて……。


♢♢♢


 彼……マスキュラーは僕が今まで一度も会ったことがないタイプの人間だった。


「シズカママ、おかわり!」


「だから……母さんはお前のママじゃないって言ってるだろ!? 何回言えばわかるんだ!?」


「一体何を言っているのか、意味がわからねぇ……シズカママは全人類のママだろ?」


「そんなわけ!! ないだろうが!!」


 思いっきりテーブルを叩くと、母さんがあらあらと笑いながら告げる。


「大丈夫ですよグレン、私はグレンだけのお母さんですから」


「ち、違っ、そういうつもりで言ったんじゃ……」


 俺が顔を真っ赤にしていると、なぜかマスキュラーが母さんの手を取った。


「そうだよね母さん、俺の大切な母さんはママ一人だよ」


「嘘だろこいつ、自分をグレンだと自己暗示をかけてるっ……!?」


 マスキュラー。

 なぜかシズカ母さんにだけ明らかに態度が違うこいつは、出会った初日から図々しくもご飯を作ってもらい、そして出会って二日目から我が家に居候することになった。


 距離感の詰め方がおかしい。親友でも許されないってそんなの。

 俺は気がつけば、マスキュラーに師事することになっていた。


「シズカママ、おかわり!」


「はい、どうぞ。うふふ、元気な息子が一人増えたみたいですね」


 マスキュラーはこんな感じでいつもふざけているのだが……めちゃくちゃに、強い。

 これでも村でのチャンバラや喧嘩では年上のやつらにも負けたことはなかったけれど、戦ってみたらまったく歯が立たなかった。


 ボコボコになって、ボロボロにされて、僕は自分の胸がスッと軽くなっていることに気付いた。


 僕の身体の中で淀んでいた何かは、面白いほどに綺麗さっぱりと消えてしまったのだ。

 そこでようやく僕は、自分が感じていた不満の正体に気付いた。


 僕は……広い世界が見たかった。僕のことを誰かに、うちのめして欲しかったのだ。


 もちろん僕がMだとかそういう話ではない。

 僕はかけっこでも喧嘩でも、誰かに負けたことがなかった。


 勝つことがわかっている勝負というのは、面白くないものだ。

 けれど村で、僕に勝てる人は誰一人としていなかった。


「母さん、俺頑張って母さんに楽させるよ!」


「あらあら、頼りになる息子ができて私は幸せ者ですね」


「だから……お前はグレンじゃなくてマスキュラー!」


「マスキュラー、誰ソレシラナイネー」


 負けるからこそ悔しいし、次は勝ちたいと思う。

 なんで僕がこんなふざけたやつに……そう思えるからこそ、もっと頑張ろうと奮起できるのだ。


 僕はマスキュラーが来て、今までの人生の中で初めて、挑戦者の側に立つことができた。

 どれだけ頑張ってもその背中が見えないほどに距離は離れているけれど……いずれ絶対、追い越してみせる。


新作の短編を書きました!


↓のリンクから読めますので、そちらもぜひ応援よろしくお願いします!

めちゃくちゃ気合い入れて書きましたので、ぜひご一読を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。