炙って
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
【side ミリア】
「そしたら次は魔法」
自分の体内にある純魔力を形質魔力に変える。
明確にイメージしながらそれを対外に放出し現象に変換させれば、魔法は完成する。
最初は使うまでに一分以上の集中が必要だったこれも、今では一秒にも満たない間で発動させることができる。
まずは初級も初級ということで、ファイアボールをグレンに打ち込む。
グレンは避けようとしたが、練度が上がっている私の魔法の方が速い。
ファイアボールをまともに食らったグレンが、その場に背中から倒れ込んだ。
威力はもちろん押さえてあるが、着ている服が焦げて破れてしまった。
……マズい。マスキュラーにバレないように、あとでこっそり着替えてもらわなくては。
アクアヒールで怪我を癒やすと、ごほっと咳をしながらグレンはゆっくりと立ち上がる。
「君は……すごいんだな」
「別に、すごくない」
「僕とそう変わらない年齢でそれだけの魔法の腕を持つ……普通はなかなかできることじゃないよ」
「普通じゃ、ダメだからね」
手にした木刀の感触を、二度三度と振って確かめる。
私も本当ならマスキュラーみたいに全てを拳で解決したいけど、私の場合身体強化をしても元の手がやわらかいので、パンチをするとこっちが怪我をしてしまう。
なので基本的に武器は必須。
フィーネに連れてきてもらった冒険者に習い実戦で磨いた剣術は、私の身体に最適化された私だけの剣。
「それは、どういう……」
「――普通じゃマスキュラーの隣にはいられないから」
私に合わせて剣を持ったグレンがこちらに剣を振ってくる。
身体に纏わせている魔力の動きにかかる時間は、先ほどまでより明らかに短くなっていた。 だがまだまだ身体強化が使えない時点で私には及ばない。
地面に叩きつけられたグレンが、顔を泥だらけにしながらゆっくりと立ち上がる。
習熟の速度は、ルークよりも早い。
なるほど、たしかにこれは逸材だ。
叩けば叩くほど伸びるだろう。
もうガンガン叩くから、早く伸びきってどっかに言ってくれないだろうか。
私はもっとマスキュラーとの時間がほしいんだけど。
苛つきながら放った振り下ろしを食らったグレンがそのまま地面に倒れ込む。
私がくるりと振り返ると、そこには子ウサギのようにぷるぷると震えているナージャがいた。
「安心して、私は男女平等だから」
「ひ、ひいいっ!!」
ナージャはこちらの様子にビビりながら、ファイアボールを放ってきた。
形はヘロヘロで、まともに魔法とも言えないほどに低い練度。
けどそれは間違いなく、初級火魔法のファイアボールだった。
「嘘でしょ……一度見ただけで?」
身体強化を使い、剣まで魔力を伸ばす形で魔法を叩き斬る。
マスキュラーが拳で叩いてやっていることの応用だ。
本当ならそのままたたきのめす予定だったのに、目の前で起きた奇天烈な出来事のせいで思考がフリーズしてしまった。
マスキュラーの話では、彼女はまだ魔法が使えなかったはずだ。
それを見よう見まねで再現してみせるなんて……ナージャもまた、グレンに負けず劣らずの逸材ということだろう。
多分だけど純粋な潜在能力なら、私より上なはずだ。
「ナージャ、あなたは本当に強くなりたいの? 足手まといになるんなら要らないよ、グレン一人で戦った方が伸びるだろうし」
けど彼女は見るからに普通の女の子だ。
きちんと戦えるようになるまでにも一苦労だろう。
こういう時は私がヒールにならなくちゃいけない。
うーむ、八つ当たりだったはずなのにきちんと指導をしすぎている気がする。
ファミリーの頭を務めている時期が長すぎたのかもしれない。
「わ、私も……私も強くなるんです! グレンと一緒に、彼の隣で戦い続けられるように」
「ナージャ……僕も、僕も負けない! 誰にも負けないくらいに、強くなる!」
「その心意気や良し……かかってくるといい」
こうして私はストレス発散も兼ねて、二人のことをボロボロになるまで痛めつけた。
けれど二人とも折れたりすることなく、しっかりと食いついてきた。
ガッツも十分、そして才能も……彼らは戦う前より明らかに強くなっていた。
ここまでの才能を見せられると、マスキュラーが彼らのことを育てようとするのにも頷ける。
お昼時になったので、稽古は終わりにすることにした。
マスキュラーが帰ってくる前に終わらせないといけないからね。
「なぁミリアさん、一つ聞きたいんだけど……マスキュラーって、そんなに凄い人なのか?」
「うん、マスキュラーは最強だから」
そうか、よくよく考えてみたらグレン達はマスキュラーがどれだけすごい人なのかを知らないのか。
散々打ち倒して鬱憤を晴らせたことで、私は以前ほど彼らに対するわだかまりはなくなっていた。
そう考えるようになったのはきっと、グレンとナージャの人柄あってのこと。
彼らは真っ直ぐで純粋だ。その光に当てられて正道を進もうとする者も、きっと多いんじゃないだろうか。
「現時点で魔王軍の幹部を倒した人類って、あの人だけじゃないかな」
「魔王軍の幹部を……」
「倒した……?」
意味がわからないといった表情で顔を見合わせる二人に、私も頷いた。
うん、気持ちはすごくわかる。
私も最初に話を聞いた時は驚いて声が出なかったから。
そもそも魔王軍の幹部って、人間が単体で倒せるようなものではない。
歴史の中でも鍛えに鍛えた勇者がなんとかして討伐できるような、めちゃくちゃ強い魔物のはずだ。
「私達って、すごい人に師事してたんだね……」
「ああ、普段の様子を見ているととてもそうは見えないけどな……」
その気持ちもすごくわかる。
マスキュラーは基本いつもふざけてるので、とても凄い人には見えない。
嫉妬で色眼鏡をかけていたけれど、ひょっとするとグレン達とは仲良くできるかもしれない。
ということで私は以後、マスキュラーと一緒に彼らのことを鍛えていくことにした。
彼らの才能があれば、そう遠くないうちに私が今居る領域に辿り着くことになるだろう。
マスキュラーは強すぎるしルークは舎弟なので、私には今まで共に切磋琢磨できるような仲間はいなかった。
でも彼らであれば……そんな風に思いながら、私は今日も容赦なくグレン達を魔法で炙って濡らして凍らせるのだった……。
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