ミリアの心中
【side ミリア】
マスキュラーが一人でウィスクの街を去ってしまってから、私はずっとずっと我慢してきた。
そしてようやく掴んだ念願のマスキュラーとの同行。
一緒に王都にやってきた時は、それはもう楽しかった。
二人きりで旅とか、これはもうお泊まりデートみたいなものだ。
気分が上がらないはずがない。
つい上がりすぎてハイになり、マスキュラーの背中にキラキラをこぼしてしまったこともあったが……まあそれは乙女の恥ということでご容赦願いたい。
ここ最近、私には気に入らないことがある。
それがこの、シータ村での生活だ。
ここは私が前に居た村よりもはるかに田舎な、本当に何にもない村だ。
けれどまるで何かを知っているように、マスキュラーは迷いのない足取りでこの村へとやってきた。
その目的はあのグレンとかいう少年にあるらしい。
マスキュラーよりは少し年下で、私と同年代くらいの彼を見て……私は特に、何も感じなかった。
仕事柄年上と接する機会が多く、同年代の子供に興味が持てなくなっているというのもあるかもしれない。
だがそれ以前の話で、私は自分より弱い人間に興味がない。
そもそもただ幼なじみの子と一緒に乳繰り合っているだけのお尻の青い子供に、一体どう興味を持てばいいというのか。
けれどそんなグレンを、マスキュラーはいたく気に入っているらしい。
彼の家に居候になりながら、グレンを鍛える日々。
最近はそこに幼なじみであるナージャも加わり、のほほんと平和な日々を過ごしている。
……気に入らない。
こういう暮らしなら、ウィスクの街で私とお母さんと一緒にもできるはずだ。
なのになぜマスキュラーはこの村を出て行こうとしないのか。
グレン以外にも何か狙いがあるのだろうか?
気にはなったが、彼に直接聞くのははばかられる。
だから私はずっと何も言わず、適当に流してきた。
楽しく自由に過ごすマスキュラーの邪魔はしたくなかったから。
でも毎日暮らしているうちに、どうしてもしこりは大きくなっていく。
こういう時に思ったことはすぐに言うようにしている。
以前スラムでひどい暮らしをしていた頃の経験から、我慢のしすぎは身体に毒だということをよく知っているからだ。
だから私はマスキュラーが「修行と言えば山ごもりだよな!」と謎の言伝を残して家を出ているタイミングで、彼らと話をすることにした。
「えっと……話って何かな、ミリアさん」
「……(ちらっ)」
グレンとナージャは、こちらに窺うような視線を向けている。
二人とも私と同じくらいの年のはずなのに、なんていうかすごく……子供っぽい。
私が大人になりすぎただけで、多分これが普通なんだろう。
むしろグレンなんかは、年の割には落ち着いている方かもしれない。
……いや、私も別に、大人になったわけじゃないか。
これからしようとしていることを考えれば、私が一番子供かもしれない。
「グレンとナージャは今、マスキュラーに稽古をつけてもらってるよね」
「うん、そうだね。色々と教えてもらってるよ」
「私はマスキュラーと違って属性魔法が使えるから、もっと色々なことが教えられると思うよ」
「……魔法を使えるのか。すごいね、僕とそう変わらないはずの年齢で……」
グレンは今、ようやく魔力凝集が形になり始めたばかり。
そしてナージャの方はマスキュラーが新たに開発したという『魔力ぶっこ抜き知覚法』(もちろん彼命名)によって魔力の知覚ができるようになり、今は魔力を自由に操作できるように練習をしている最中らしい。
私は彼らとの稽古には参加しないよう言われている。
なんでも同年代の優れた人間を見てやる気をなくされたりするのが嫌だかららしいけど……ごめんマスキュラー、今からあなたの言いつけを破ります。
「もし良ければ稽古をつけるよ。私は育ちが悪いし、どちらかと言えば実践的なものになるけど……安心して、回復魔法も使えるから」
「えっと……うん、それならお願いしようかな」
うん、やっぱり私が一番子供だね。
何せ私がしようとしていることは……ただの八つ当たりなんだから。




