9夜 シペ・トテック 皮剥の儀式
「あの、今、どこに向かっていますか?」
運転手はいつの間にか黙りこくってしまう。
俺は再度、呼び掛けるが沈黙を貫く運転手。
「あの、聞こえてます? 病院を過ぎましたよ?」
すると、運転手が振り向き様、何かのスプレーを噴射。
「うわぁ!?」
驚いた俺は声を荒げて蜘蛛の巣を払うように抵抗するが、噴射された後では後の祭り、強烈な眠気に見舞われて意識を失った。
後になって知るが、メキシコシティのタクシーは誘われるままに乗り込むのは、非常に危険だ。
俺が乗せられた上下にピンクのラインが引かれたタクシーも類に漏れず。
街では『Libre』と呼ばれ、その言葉が指す意味は"流しのタクシー"。
強盗や誘拐が頻発するタクシーだった。
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目が覚めると頭痛が酷くて目が回る。
気分の悪さが腹から沸き立つ。
おまけに手足の自由が効かない。
自由を取り戻す為に身体を無理に動かすと、手首足首が擦れるような痛みが走る。
ロープか何かで身体を縛られているようだ。
ミステリーやサスペンス映画だとクロロホルムを嗅がせて意識を喪失させるが、同じことが俺の身に起きたのか?
だとしたら、ここは何かの倉庫か何かか?
倉庫らしき場所は窓を締め切り、朝なのか夜なのかわからない。
解るのは目の前の机にランプ型のライトがあり、浅黒い肌の三人の男がランプを囲んでいた。
三人の男が机に並べた物を物色している。
リュックに財布、スマートホンとパスポート。
どれも見覚えがある。
俺の持ち物だ。
男達は勝手に俺の荷物を漁っていたのだ。
「何しているんだ? それ、俺の物だ」
男の一人が財布から札を抜き取り、ポケットへ無造作に突っ込むと、空になった財布を側にあるドラムへ放り投げる。
次にスマートホン、パスポート、リュック。
俺が「止めろ」と繰り返し言っても、男達はあえて無視し続ける。
別の男が足元に置いたポリタンクを持ち上げ、勢いよくドラム缶の中へ流し込む。
見るに耐えない光景だ。
ドラム缶から微かにガソリンの臭いが漂う。
これは何かのサプライズで、目の前の出来事は嘘なんだと思いたかった。
最悪の予感が迫りる感覚に血の気が引いてきた。
男はポリタンクを床へ投げ捨てると、マッチを取り出し、馴れた手付きで棒を擦って着火させた。
「お、おい!? 何してんだ!?」
男は迷うことなく火の付いたマッチ棒を、ガソリンで満たされたドラム缶へ投げ入れる。
ドラム缶の中から、あっという間に火柱が上がり勢いよく燃える。
「止めろぉぉおおーー!!」
わめき散らす俺にドラム缶から離れたスキンヘッドの男が迫り、力任せ殴りつけた。
叩かれた頬の激痛、首がねじれたような反動、脳が一回転したような衝撃。
脳震盪なのか、俺はそのまま意識を失う。




