6夜 独立記念塔 ラウンド・アバウト
白いタクシーを見つけてレフォルマ通りを走る。
高層ビルに挟まれた通りは、都心ならではの目まぐるしい流動がある。
木々を並べた大通りの真ん中を仕切る、小さなオブジェは、ピラミッドから森が生えた物がづらりと並んでいる。
三角のテッペンが左右交互に傾いているので、走行するタクシーからオブジェを流しで見ると、脈打っているように見えた。
タクシーで通りの中心に到着、車両から降りると高い塔が目に飛び込む。
塔の先に黄金の天使が草の冠を空へかがていた。
早速、スマートホンをかざして塔を撮影すると、旅行アプリが解説を添える。
【独立記念塔】
通称はアンヘル(天使)と呼ばれ、スペイン支配の解放を宣言した独立革命「ドロレスの叫び」から、一〇〇周年を記念して作られた街のシンボル。
頂上の黄金像は女神ニケを模した像とのことだ。
ドロレスの叫びとは、また聞きなれないワードだ。
新しく目にしたワードを検索すると、ニ〇〇年以上前に、革命家が民衆の前で行った演説らしい。
ちなみに"ドロレス"は人や街の名前の他に「痛み」や「苦痛」の意味もあるそうだ。
記念塔も美しくて神々しいが、何より通りの騒がしさも気になるところだ。
塔の中心から輪っかが広がり、レフォルマ通りを湾曲させた道路に囲まれている。
日本でも広まりつつある【環状交差点】だ。
リング状の道路の外縁は真っ直ぐな道が伸びており、リングの外からラウンド・アバウトへ入った車は、目的の道に入るまで、この輪っかの道路を"流れるプール"のように回り続ける。
進行方向は時計回りで統一されており、ドライバーの良きタイミングでリングの外へ出る訳だ。
それ故に、ラウンド・アバウトには信号機がない。
渋滞緩和として、とてもユニークな作りになっている。
メキシコの街を歩いていると、割かし「観光ですか?」と、日本語で聞かれる。
目をやると、俺と同じ日本人で観光や仕事で来ている人、メキシコの大都市に移りすんでいるなど、理由は様々。
ほとんど挨拶をして他愛の無い話で終わるのだが、中には親切心から忠告をしてくれる人もいた。
「気を付けて下さい。メキシコは夜になると治安が悪くなりますから。観光客を狙った窃盗や誘拐もよく聞きます」
お礼を述べてから忠告をしてくれた日本人を見送ると、俺は思いのままメキシコ観光を続けた。
犯罪に巻き込まれるなんて、どこか縁遠いと思っていたのだ。
今になって思えば、自分の危機管理の甘さを痛感する。
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北米と南米に挟まれた、歪なパズルピースに見える部分は中央アメリカ。
ここに、かつて栄えた古代文明は総称で【メソアメリカ】と呼ばれている。
北アメリカ大陸をフライドチキンに見立てた時に、太ももからハミ出た足の部分だ。
アステカ文明、マヤ文明、トルテカ文明など、時代と地域によって様々な文明が栄えた。
現在で言うとメキシコからグアテマラを越えてコスタリカ北部辺りに存在した。
と、博物館のパンフレットに載っていた。
独立記念塔の西にある、【メキシコ人類学博物館】はアステカ室、マヤ室、トルテカ室など、大きく仕切られている。
メキシコ全土で出土した古代の異物が展示されており、メキシコシティでも有数の博物館だ。
アステカ室に入ると巨大な都市の絵が飾られてあった。
絵の下に表記された金属のプレートには【水上都市テノチティトラン】と書いてある。
水上都市と言うだけあって山に囲まれた巨大な池があり、その水の上にブロック型の島が寄せあっていた。
ブロック一つ一つに建造物が書き込まれている。
絵の手前には水上都市の一部をジオラマとして再現していた。
テノチティトランの中心部らしく、階段の付いた台形の建物やピラミッドの頭を切り落とした建物が並べられていた。
巨人が見下ろすようにジオラマを眺め、想像の中で階段を昇る様子や建物の前を通行する、アステカ人の姿を重ね合わせた。




