4夜 天国の口、終わりの楽園
羽田空港から飛行機に搭乗して十五時間のフライトに揺られる。
日本との時差も考えて、機内での過ごし方は、ほとんど睡眠時間だった。
アメリカのジョン・F・ケネディ空港へ到着すると、旅行先であるニューヨーク州へ降り立つ。
時差に合わせてフライトの時間を睡眠に当てたのに、いざ来てみると多少の時差ボケは感じられた。
身体と頭が重く気分が落ち込む。
とにかく、予約したホテルへ急いで行こう。
バスを使い通りの壁や建物に描かれた、芸術点の高い落書きが景色として流れて行く。
ブルックリン区の町並みを眺めながら、二十個ある橋の一つ、ブルックリン橋を越えて川と海に囲まれた島、マンハッタン島へ到着。
ビジネス街から外れたホテルへ泊まり、リュックに詰め込んだ荷物を整理した。
移動が多い旅行を想定しているので、荷物は背負えるくらいにして、着替えなどは土産を買うつもりで、現地の服屋を見て回る。
働き詰めだったので貯金にはかなりの余裕があった。
この貯金で何を買おうか、今から迷っていると頬がほころぶ。
買いすぎたら日本へ郵送すればいい
一週間、ニューヨークを満喫した後に次なる目的地をサッカーの本場、ブラジルにと考えていたが、ニューヨークからブラジルまでの間に、メキシコを挟むことになる。
NYからブラジルまでは飛行機で十時間。
対して途中にあるメキシコは早くて三時間、長くても五時間だ。
なのでニューヨークからメキシコを経由して、そこでしばらく滞在。
そこを折り返し地点とすれば、メキシコからブラジルまで飛行機で五時間くらいで行ける。
地図で見るとメキシコはアメリカのすぐ隣。
二本の指を地図にのせて歩かせれば、踏み出すだけでたどり着ける。
今からどんな物が見れるか胸が高まる。
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メキシコ空港へ到着すると、早速、砂袋でも担いでいるような、身体の重さを感じた。
軽い頭痛が目眩いを誘発する。
場所にもよるがアメリカとメキシコの時差は約三時間。
にもかかわらず、ニューヨーク空港へ到着した時とは、比べ物にならないくらいの気ダルさを感じた。
しばらくすれば身体が馴れてくると思い、気に止めないようにした。
まさか、これが後になって事態を左右するとは思ってもみなかった。
メキシコ空港の土産物コーナーで、ガイコツの形を模したお菓子を見かけ、メキシコ人の奇妙なセンスに一歩引いてしまう。
ただ、しばらく見ているうちに、どことなくキュートな造形に物欲が芽生えた。
自動ドアを出てメキシコの気候を肌で感じる。
雲一つない快晴は日射しが強く、風は分厚い毛布がかかったように暑かった。
照りつける熱射に時差ボケも増した気がする。
ネットで予約したタクシーに乗ってメキシコ空港を後にした俺は、風景を眺めながら少し違和感を覚えた。
近代的な空港と違い周辺は、少し荒れていた。
まるで空港の回りに不法投棄されたゴミの山という印象を受け、海外では珍しくない貧困街と重なる。
華やいだ空港なのに、その周辺は大寒波が来たように景色が灰色だ。
まるで春と冬が隣り合っているのかと思える。
到着して早々にアングラな風景を見せられるとは、メキシコにとって街の安易はコインの表裏ほど、すぐ側にあるのかもしれない。




