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ルナティコ・アンブランシア ~メキシコを暴走する海賊救急車~  作者: にのい・しち
月狂1 CDMX(セーデーエメクス)

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18/24

18夜 イハ(娘) カノジョは正論を愛しすぎてる

 娘は憎悪を込めて睨み、父親の肩へ革のハンドバッグをぶつけて、小さい声で問い詰める。


「もっと早くに連絡して。家に帰って来ないから心配したのよ? しかも、医者は銃で撃たれたって説明するし」


「すまなかった。それよりも、娘よ。パパの命の恩人を紹介するぞ。ハポネスだ」


 紹介の仕方もそうだが、今の話を"それよりも"で、済ませる家庭がどこにあろうか?


 父であるアティリオは窓際のベッドにいる、俺へ手を差し出しながら紹介したので、とりあえず会釈で彼女に挨拶した。

 娘は眉を潜めて疑う表情でこちらを見ていた。

 次にアティリオは娘に手を添えながら、こちらへ紹介した。


「ハポネス。俺の自慢の娘、アルセリアだ!」


 どうやら彼女にとって、俺の第一印象は良くないらしいが、それはお互い様ではある。

 父のアティリオは話を急展開させる。


「アルセリア。パパは、この男をウチのダブル・バイ・セップスとして雇う!」


「は? なに言ってるの?」


 親子の会話に割り込み「それはボディービルダーのポージングです」と、訂正を加える。

 この父親は誰に対してもマイペースを貫くのか、相手の反応などお構い無しに続ける。


「しかも、住み込みでだ」


「無理。ありえない。知らない男を娘がいる家に招き入れるなんて、常識的に考えられない」


 「飯付き」が、いつの間にか「住み込み」に刷りかわっている。

 畳み掛けるような正論に圧倒され、隣にいる自分が恥ずかしくなった。


「娘よ。この男は行く宛がない。それにパパを助けた"善きサマリア人"だ」


 すかさず俺は誤りを正そうと話に割り込む。


「い、いえ、自分は日本人(ハポネス)です」


「んぅにゃ。お前は善きサマリア人だ」


 そう言いながらセニョール・アティリオはニカっと笑う。

 一体なんの話をしているのか理解できない。


 こっちの名前と言い、今後の方針と言い、何一つ俺の意見が反映されていないまま、全てが決まってしまった。

 この押しの強さが、何らかのトラブルに繋がらなければいいのだか。


 大男のアティリオは娘が「本当に大丈夫?」と不安な面持ちを見せてので、ヘラクレスのように両腕を上げダブル・バイ・セップスで元気をアピールした。


+++


 入院は次の日まで続き、監禁生活により栄養を得られなかったので、点滴と病院食で失われた健康を取り戻そうと試みている。


 アティリオにカネを借りて病院の売店でシャツと短パンを購入。

 髭は相変わらず生やしたままなので、服を代えても、みすぼらしい姿は相も変わらず。


 隣で病院食にガッつくセニョール・アティリオは一分足らずで食べ終わると、「飯が足りん」と不満を溢していた。

 アティリオの娘が昼頃にやって来ると、世話しなく退院の準備を始めた。

 

 彼は胸から腹にかけて包帯を巻き付けて、銃創の傷も塞がっていないにも関わらず、医者の制止を振り切って病院から逃げるように退院した。


 彼曰く、「これ以上、カネは払えん」と言い、俺も巻き込まれる形で退院した。


 俺に関して言えば、身分も所持金も連絡手段も犯罪組織に処分されたので、どのみち長くは入院を維持できない。


 閑散とした町の病院を出ると、親子とおまけ一人の三人は都市バスと地下鉄(メトロ)を乗り継いで移動する。

 地下鉄の騒音の中で父親と娘は、見ず知らずの俺に会話を悟られないよう、スペイン語で何やら話し合いをしていた。


「ポル、ケ、ディシディスタ、ポル、トゥ、クエンタ?(なんで勝手に決めたの?)」


「ロ、ラメント。ペロ、エスタス、エン、コントラ、ベルダ?(すまなかった。でも反対するだろ?)」


「ポル、スプエスト!(当然よ!)」


 腕と足を組んでそっぽを向く娘のアルセリアは、話す度、不機嫌になっていく。


 言葉は解らないが、その態度と表情は俺が原因で機嫌を損ねたことを物語っている。

 気まずさを紛らす為、窓の外へ視線を逃がすも、トンネルの照明がレーザーのように端から端へ消えるだけだった。


 父のアティリオに声をかけられ、降りる駅に到着。

 地下から上がり駅のホームに出ると、人でにぎわう町並みが目に飛び込んだ。


 セニョール・アティリオは町へ手をかざしながら、何かのショーでも見せびらかすように言った。


「ハポネス。よく来たな? ここが俺達、家族が暮らす町【イスタパラパ】だ!」

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― 新着の感想 ―
 いよいよ主人公が働くことになりそうですね。  とはいえ娘は割と常識人で苦労してそうです。  ただメキシコ故に国風が違うから、ハポネスにとって異世界と思います。
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