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ルナティコ・アンブランシア ~メキシコを暴走する海賊救急車~  作者: にのい・しち
月狂1 CDMX(セーデーエメクス)

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14/24

14夜 ウマノ・デ・カジェヘロ 野良人間

 脳は考えと行動の矛盾に痺れて麻痺してきたが、身体は手際よく手当てを始める。


 海外ドラマや映画で見るような場面を、現実に自身がやることになるとは、思いもよらない。

 まず、自分の袖やズボンを出来る限り破く。

 銃弾の嵐を命からがら逃げて来たものだから、服は擦り傷で穴だらけになり、指を入れて引っ張れば、簡単に引き裂くことが出来た。


 次は雨に濡らして絞り、生地の汚れを極力落とす。

 ガーゼの代わりにするつもりだが、雨水に濡らした程度では、その汚れは落ちないし、雨水だって科学物質を含んでいるので、人体への害は否めない。


 それでも流血を止めなければ、出血性ショックで心停止を起こす。


 傷口を強引にでも塞ぐのが第一だ。


 破いた布を結んで長い帯にしてから、大男の脇腹へ巻き付ける。

 なるべく強く帯を結び傷口が開かないようにする。

 めいいっぱい縛ったものだから、大男の痛み耐える声が聞こえた。


「とても傷口を塞いでいるとは言えませんので、病院に行って適切な治療する必要があります」


 手当てをしたはいいものの、スマートホンもなければ、見知らぬ地域をさ迷っているから、救急車を呼ぶことすらできない。


「貴方は電話を持っていますか?」


「持っているぞ」


「それで救急車を呼びましょう」


「ダメだ。救急車は呼ばない」


「はい? 今すぐ呼んで搬送しないと」


「救急車はカネが掛かる」


「カネよりも貴方の身体が優先です」


「ダメだ! とにかく無駄なカネは使えん。病院なら三ブロック先にある。歩いて行ける所だ」


「この怪我で歩いて病院ですか? 無理です」


「怪我してるが、やわじゃねぇ」


 大男はそう言いながら立ち上がるが、かなり出血したと見られ、貧血を起こしたようだ。

 よろめき壁に持たれるので、すかさず彼の腕の下へ頭をくぐらせて体勢を支えた。

 

「病院へたどり着く前に意識を失いそうですね。肩を貸します」


 ただ、監禁生活もあり、こちらの体力と腕力は、すっかり衰えていた。


 な、なんて重いんだ!?

 ガタイから予想してたが、これで三ブロック先まで歩いたら俺まで倒れそうだ。

 救急救命士として体力作りはしていたが、それでも支えきれない。


 後――――ワキの臭いがキツイ!


 踏ん張れよ、俺!


+++


「ここだ……」


 熊のような大男の指示で三ブロック先の病院まで到着した。

 

 うぷっ……かれこれ三十分、ワキガの臭いにさらされてたから、気分が悪い。

 雨で臭いが薄まっていたのが、せめてもの救いだ。


 たどり着いた病院の外観は質素で、平たい建物が赤い柵に囲まれていた。

 入り口の看板にはアルファベットで「ホスピタル・ミルパ・アルタ」と書かれていた。


 ずぶ濡れのまま、自動ドアを通り受付まで歩みをすすめると、女性看護師は口に手を当てながら驚き、こちらへ駆け寄って具合を確認してから、大慌てで医師を呼びに行った。


 幸い英語が解る医者が来たので、俺が救急救命士であることを伝え、怪我の具合を詳細に説明して終わるはずだった。


 が、病院の人達は駆け込んだ俺を見て、天地がひっくり返った顔を見せた。

 なぜなら負傷者を運んだ俺もまた、負傷者だからだ。


 臓器ブローカーから凄惨な暴力を振るわれて出血した鼻血は、赤黒く変色して固まり、目や額、頬は腫れ、腕や足に紫色のアザが浮き上がっていた。

 服は銃撃の嵐をくぐりぬけたり、応急措置の為に破いたりとボロボロ。

 しばらくの監禁生活で髪も髭も伸び放題で、端から見れば、無人島の漂流生活から生還したように見えるだろう。


 大男とは別の部屋に押し込まれると、あっちこっち消毒液まみれにされた後に、ガーゼと包帯でミイラにされた。


 治療が終わると院内のベッドに移動してから寝かされる。

 身体をシーツに預けると溶け込むように力が抜けた。

 何日ぶりかは解らないが、遠い記憶と思えるくらい柔らかなベッドの上に寝ることが出来た。

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