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サーマルクに入って先ず、アークの居る宿屋を探した。手紙を遣り取りしているから、所謂住所は知っているけど、それを基に探す術は、現代機器が紛失、有っても圏外である以上無理なので、非常に原始的な方法を取らせてもらった。そうです、人に聞きました。最初にサーマルク側の国境に居た騎士さんに。で、ざっくりそっち方面に進んでまたその辺の人に聞いて、っていうのを繰り返して辿り着いた宿屋。恐らくだけど、途中嘘を教えた人が居たと思う。だって結構歩いたし、ニヤニヤしてた人も居たし、今、夕方だし!くっそう、お腹空いた…って思った頃に到着したんだ。聞いた人の中のどれだけが女性への偏見を持っているのか知らないし、そもそもそんな理由じゃなかったかもしれないし、そんな事はこの際どうでも良い。そう、何だかんだ着いた私の事はどうだって良いんだ。問題はティナだから。
「…という訳なんだけど……」
到着した時、アークは居なかった。でも前で待ってたら思ってたより早く会えて、今居酒屋みたいな場所に居る。宿屋の真向かいで、入り口が見える席に座っているから、いつティナが来ても分かるんだけど、一向にくる気配が無い。
其処で食事をしながら、私は此処に来るまでの経緯を話した。アークに言われて来た、というよりも、已むに已まれずだという事を。ティナ宛の手紙が届いて、慌ててこうなった事、ティナは後から来ると言っていた事を。途中の私の出来事は特に話してないけど、それで良かったと思う。だって、今目の前のアークの顔は、物凄く怖いから。
「ゴメンやっぱり一緒に来た方が良かったよね」
「…いや、アイツがそう動いたなら間違ってない。けど、物凄く嫌な予感しかしない」
「……来ないって事…?」
「…来られない、と、思った方が良いだろうな」
「どういう事!?」
来ない、じゃなくて来られないって何。誰かが邪魔するって事?何かが邪魔してるって事?
「絶対行くって言ってた。ちゃんと後から行くって、言ってた…」
「手紙が来てからおかしかったんだろ?だったら逆にお前だけが来られた事の方が異常だ」
「…え?」
異常…?私が来られた事が?テラくんに助けてもらったからだって事を言った方が…と思っていると、アークは不意に席を立った。いつの間にかテーブルにお金が置かれている。見上げれば、視線が合った。付いて来い、と言われた気がして、慌てて立ち上がって後に付く。不特定多数が居るこの場で話せない大事な話か。それとも、何か別の事情だろうか。
〇
移動した先はアークの借りている部屋で、彼は戻るや否や机に向かって何かを書き始め、その紙を細長く折って、ベッド横に在る窓を開けた。其処には一羽の鳥が手すりにとまっていて、その鳥の足に着いている器具に紙を仕舞うと、夜空へと飛ばした。私はただ、その様子を黙って見ていた。ふう、と彼が一息つくまで。
「…急に悪かった」
「ううん大丈夫だけど…手紙?」
「あぁ、フィルにな」
「え?」
パタン、と窓を閉め、私が座るベッドにアークも腰を下ろす。隣り合わせで座る様な形になって、距離が近付き、自然と声のボリュームが下がる。恐らく、何処で誰が聞いているのか分からない、万が一を考えてこの距離にしたのだろう。
「お前やティナが来たら、直ぐに知らせて欲しいと鳥を置いて行ったんだよ、フィルがな。何かあったら直ぐに連絡が取れるようにって。あのヨタカはフィルの鳥だ」
「ヨタカ…?」
「フィルみたいな商人や、王族、貴族なんかは夜行性の鳥を連絡用に飼っているんだ。勿論昼行性の鳥もな」
「成る程、それが今の…」
「そ。で、だ。本題だけど、さっきの話の続き、ティナが見た手紙だけど、恐らく城からだ」
「はっ!?」
その言葉に、思わず大声を出しそうになって、慌てて口を閉じる。何故。どうして。その言葉が頭の中を巡る。見た目からして立派だとは思ってたし、ファシートの関係者か何かだと勝手に思っていたけど、まさか城…王か、宰相か。
「内容は分からないが、聞いた慌てっぷりと行動を考えると、二人だと目立つと思ったか、確率を上げようと思ったんだと思う」
「…さっき言いそびれたけど、私が此処に来られた事が異常だって話、アレね、実はひと悶着あった」
「は?」
「私を見付けた貴族だと思う人が、一旦何かのいちゃもんを付けて来たんだ。でもその時、傭兵だって人が助けてくれて、役人や騎士の人達も書類に不備が無いからって通してくれた」
「何かのいちゃもんって何だ」
「分かんない。だってずっとお前が逃がしたんだろ、認めろとしか言われなくて、多分それが何か言いそうだった丁度その時、傭兵の人がグキッてやって倒れたから」
「…傭兵、ねぇ…」
何かを考える様に、アークは腕を組んだ。もしかしたら、一連の流れで、何処か違和感を感じているのかもしれない。今回傭兵として会ったテラくんは、アースと呼ばれていたし、そもそもガッツリ顔を晒していた。私としての違和感は、フクロウが顔を晒して違う職に就いている事と、メルーソルの部下であるフクロウのイヴァンくんが私を逃がす様に彼に言った事、私は良くてティナは来られない事の3つ。私でこんなにも有るんだから、アークならもっと出てきそうだ。
「傭兵が気になる?」
「いや、傭兵自体は別に居てもおかしくない。ただ、タイミングが良いな、とは思った」
「助けてくれた事が?」
「あぁ。騒いだのが貴族、相手が平民でしかも女である事で、その揉め事を見ていた人間は、詳細が分からない以上あまり深く考えない。良くも悪くもな。でもその理由を聞けば、興味を持って、下手をすれば加勢する奴も出たかもしれない」
「成る程…」
「だから偶然にしてはちょっと、と正直思う。手紙が城からの物だったと思われる事も含めて、お前が此処に居られる事が異常だと思えてしまうんだ。勿論居て欲しくないと思ってるわけじゃないからな」
「それは、うん」
「まぁ、その事も含めて、さっきフィルに手紙を飛ばした。てんと生産計画は中止して、一旦俺はオルスタムに戻るから、って」
「え?」
「状況を確認してくる。もしティナと入れ違いになったら困るから、イナ、お前は此処に残ってくれ。フィルにもそう伝えた」
ちょ、ちょっと待って。何か怖い!
「ア、アーク」
「ん?」
「そんなに大事な感じなの?ティナが危ないとか…?」
「…分からない。だからこそ、一回この自分自身で確認したいんだ、冒険者の性でもあるな」
「わ、私も戻…」
「るな。アイツがオルスタムの外に出したがって、途中どうあれちゃんと出られたんだ。あんな言い方をした俺のせいで不安だとは思うけど、お前は当分戻るな。俺がちゃんと確認してくるし、アイツに会ったら、首に輪をしてでも無理矢理連れて来るから、良い子で待ってろ。それに、此処に居ればフィルがお前を守ってくれるだろうから、俺だって安心して確認しに行ける」
「……」
「そもそも、俺がサーマルクに来たのはてんとを作る為だろ?それが完成してもいないのに途中で行くんだ、お前にはその間進めててもらいたいくらいなんだからな。だから…ティナと必ずサーマルクに戻ってくるから、そんな顔するな」
不安で変な顔をしていただろう私に、アークは優しく微笑んでくれた。
どうか無事でありますように!絶対に二人ともサーマルクに来られますように!!




