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はじまり

政治とは、主権者が領土並びに国民を治めることである。


「班長! 財務がまた無理言ってきました!」


対立や利害を調整して社会全体を統合するとともに、社会の意思決定を行い、これを実現する作用とも言える。


「財務? あそこは大臣代わるから適当にしのいどけよ」

「一時的に仕事止まる上に、大臣交代したらやっぱりその案無かったことにしてくれって言ってくるからな」

「代替わりあるあるですね!」


難しく考える必要はない。


「それより今日提出の治水工事関連の書類はどうした?」

「あぁ、あれなら室長が……」


要は簡単だ。


「室長が?」

「破ってしまわれてですね……はは」

「はぁ!?」


国家という枠組みを形成するに必要不可欠なもの、である。




 ルーベル王国の中央にある王城の中、数多の回廊を抜けた先にある人通り少ない通路の端にこの部屋はある。元々は小さな会議室として作られた部屋らしいが、何しろ本当に王城の中心から遠い。掃除担当の下働きも滅多に来ないほど、遠い。それ故に使われていないこの部屋を秘密裏に使うことはとても簡単だった。 元々部屋に据え置かれていた会議用の巨大な机は壁に立てかけてある。そのまま使っても良かったが、二次被害防止のために各自机を並べている。山脈のようにそびえ立つ書類が雪崩れるほど悲惨なものはない。

 そんな危険と隣り合わせの机の中でも一際立派な山を作っているのは、部屋の最奥に座り方々に指示を出すこの部屋の管理者であり責任者だ。他の者のそれより大きめな執務机には使用者が見えなくなってしまうほどに多くの物が積まれている。



「室長、少しよろしいでしょうか」


ふと自身に声を掛けられたことに気付く。書類に囲まれているため顔の確認はできないけれど、今の声は副室長を任せている者の声に間違いない。


「何か問題が起こりましたか?」


「今日提出予定だった治水工事に関する書類についてなのですが――」


「あぁ、あれですね。調べたところあの工事、財務大臣が工事費を横領するためにでっち上げたものだっ

たから放っておいていいと思います」


「そうでしたか……室長の慧眼には恐れ入ります」


「大したこと無いですよ。削れるものは削っていかないとですからね。貴方がたの負担が大きくなってしまいますから。今でも十分すぎるほど負担していただいているけれど」


「そんなことはありませんよ。室長のお蔭で大分仕事が楽になりましたから。これからもよろしくお願いします」


「えぇ、こちらこそ」


 副室長が仕事に戻ったことを確認して、私も仕事に戻る。今日は公爵令嬢のサロンで開かれるお茶会に招かれているから、早めに切り上げなければならない。確実に終わらせなければならないものを優先に、可能な限り進めておきたい。


 お茶会が無ければもっと仕事が捗るのに……。


 そんな考えが頭を過ぎるけれど、お茶会は情報交換の場でもあるし、公爵令嬢の催しを格下の私が無碍にすることはあまりに不敬すぎる。下手な行動はしないに限る。上からのお声掛けは絶対だ。どれほど考えてもお茶会の参加は必須だ。諦めて、目の前のことに集中しよう。



 自身に喝を入れなおし、彼女は部屋にいる他の者同様に一心不乱に文字を綴り書類を成していく。周りに室長と呼ばれる紅一点の名は、ジゼル・ナディア・サシャ・アズナヴール。伯爵令嬢である。


 そしてルーベル王国現国王の側妃でもあった。




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