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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第2章 傷と荷物を抱えて旅に出る

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第9話 逃げ道は足元から崩れるらしい 1

四匹目のフォレストハウンドが、帰り道の真ん中で鼻を鳴らした。


 森側に三匹。村へ続く道に一匹。右手には畑の畝(うね)が広がり、左手には崩れかけた水路がある。


 さっきカイルに踏むなと言われた土の縁は、俺の靴先から二歩も離れていなかった。


「村まで走れると思うか?」


 カイルが槍(やり)を構えたまま尋ねた。


「一匹なら振り切れるかも。でも、四匹とも追ってきたら無理」


 ミレアの耳が後ろへ伏せている。普段なら俺よりずっと速く走れるやつが、逃げ切れないと言った。


 どうやら今回は、敵から逃げるのにも作戦が必要らしい。


「畑の奥へ回るのは?」


「やめろ。あっちも地面が柔らかい」


 カイルが石突(いしづ)きで右手の土を突くと、湿った泥が先端にくっついた。


「村へ戻るなら、俺の足元から続く固い土を通れ。ただし、途中から一人分の幅しかない。並んで走れば端が崩れるぞ」


 森側の一匹が前脚を踏み出した。それに合わせて、残りの二匹も距離を詰めてくる。


 こいつら、こっちが逃げようとするのを待っているのか?


 俺は足元の籠(かご)に目を向けた。


 横に置いた網の中では、さっき捕まえた穴ネズミが暴れている。口は結んであるが、持ち運ぶには両手が必要だ。


「……籠は置いていくぞ」


「依頼はどうするの?」


「生きて帰らないと報告もできないだろ」


 ミレアは網を籠の中へ収め、少し離れた固い地面まで押していった。


「これでいい?」


「ああ。依頼人にはあとで説明しよう」


「あとで、ね」


 ミレアが短剣を抜き直す。


 カイルも穂先(ほさき)を覆っていた布を外し、槍を低く構えた。


「来るぞ」


    *


 最初に飛びかかったのは、森側の右端にいた一匹だった。


 地面を這うように走ってきたかと思うと、ミレアの足を目がけて跳ねる。


「っと!」


 ミレアは半歩だけ体をずらし、右の短剣を振った。


 刃が前脚をかすめる。フォレストハウンドは低く鳴き、畑の畝に着地した。


 ミレアが追おうとする。


「深追いするな!」


 カイルの声に、その足が止まった。


 直後、二匹目が正面から飛び込んできた。


 カイルが槍を突き出す。


 相手は体をひねって穂先を避け、そのまま木の柄(え)に噛(か)みついた。


 ぎり、と嫌な音がする。


「トウマ、横から!」


「分かってる!」


 俺は片手剣を振り上げた。


 だが、フォレストハウンドの体は槍の向こう側だ。無理に切り込めば、狼より先にカイルの武器を傷つけかねない。


 だったら、少しだけ顔をそむけさせればいい。


「《ブリーズ》!」


 風が地面をなでた。


 固い土の上に残っていた乾いた砂が舞い上がり、フォレストハウンドの鼻先に当たる。


 相手が目を細めた瞬間、カイルが槍を引き抜いた。


「助かった。だが、風を俺の方にも送るな」


「……すまん。方向は次から直す」


 カイルも片目をこすっていた。


 思った以上に砂が広がったらしい。


 《ブリーズ》は畑のほこりを払うときにも使っている魔法だが、風向きを間違えると自分たちまで迷惑をこうむる。


 味方を巻き込む攻撃は、ゲームでも嫌われるやつだ。


 カイルが槍の柄を確かめた。噛みつかれた場所には、二本の歯の跡が残っている。


「まだ使える。だが、何度もやらせるなよ」


「了解!」


 村側の一匹は、相変わらず土道を塞いでいた。残る一匹も森の手前からこちらを見ている。


 四匹とも、同時には飛びかかってこない。


 代わる代わる仕掛けて、俺たちの動きを見ているようだった。


「このままじゃ、ずっと囲まれたままだよ!」


 ミレアが短剣を構え直す。


 俺もそう思う。


 逃げ道を開くには、少なくとも一匹を退かさなきゃならない。


 正面から四匹を相手にするのは厳しい。なら、さっき調べた足場を利用できないだろうか。


 俺は水路の縁を見た。


 穴ネズミが掘り進めたせいで、土の下が空洞になっている。踏めば崩れるかもしれない場所だ。


 それは俺たちにとって危険だが、フォレストハウンドだって同じはず。


「カイル、あそこの土はどのくらい弱ってる?」


「近づくなと言った場所か?」


「ああ。俺たちは固いところに残る。向こうが勝手に踏んでくれれば……」


 カイルは水路と狼の位置を見比べた。


「落ちるかどうかは分からんぞ。崩れ方だって読めない」


「だったら、落ちなければ逃げるだけだ」


「……いい。ただし水路側へ踏み出すな。追い込まれてもだ」


 そこは俺も譲れない。


 敵を倒すために自分まで穴へ落ちたら、本末転倒だからな。


 俺は剣を握り直し、固い土の上で足の位置を確かめた。


    *


「こっちだ!」


 俺が地面を蹴ると、さっき槍に噛みついた一匹が顔を上げた。


 剣先を向けたまま横へ移動する。


 水路へ近づきすぎないところで立ち止まると、フォレストハウンドが低く唸った。


 一歩。


 また一歩。


 向こうも横へ動き、俺との距離を詰めてくる。


 その後ろ脚は、水路の縁に近づいていた。


「トウマ、無理するな!」


「分かってる!」


 フォレストハウンドが跳んだ。


 俺は剣を斜めに立て、横へ受け流そうとする。


 しかし、思ったより重い。


 爪(つめ)が刃の平らな部分を滑り、衝撃が手首から肩まで突き抜けた。


 足が半歩ずれる。


 まずい。


 次に押されたら、俺の方が水路へ落ちる。


「下がれ!」


 カイルの槍が横から伸びた。


 穂先を避けようとしたフォレストハウンドが、着地する場所を変える。


 後ろ脚が地面についた。


 ぐずり、と土が沈む。


 狼の体が傾いた。


 次の瞬間、水路の縁が崩れた。


 泥と草が水の中へ落ち、フォレストハウンドの後ろ脚が滑る。


 前脚を伸ばして這い上がろうとするが、土がまた崩れた。


「今だ!」


 カイルが固い地面に踏みとどまり、槍を突き込む。


 穂先が胸元へ深く刺さった。


 フォレストハウンドの体が一度大きく跳ねる。


 カイルは槍を握ったまま踏ん張った。やがて相手の力が抜け、水路の縁に横たわる。


「……やったか?」


「動かん。だが、近づくなよ」


 カイルが槍を抜こうとした。


 ところが、穂先が引っかかったらしい。


 強く引くと、木の柄がたわんだ。


 みしっ。


 さっき噛まれた辺りから、嫌な音がする。


「おい、カイル!」


「分かってる。引っ張るな」


 カイルは力を緩め、穂先の向きを少しずつ変えた。


 ようやく槍が抜ける。


 その代わり、柄の表面には白い裂け目が走っていた。


「……まずいな」


「折れたのか?」


「まだ折れてない。だが、強く突けば次は分からん」


 カイルは槍を持つ位置を変えた。


 あれでは、さっきまでのように遠くから敵を止められない。接近される前に迎え撃つという、槍の強みが減ってしまった。


 俺は思わず柄を見つめた。


 武器の修理には金がかかる。


 俺の片手剣だって、折れたら困る。命の次に大事なのは、働くための道具だ。


「カイル、槍の修理代は……」


「今は数えるな。まだ三匹いる」


「分かってる。だから、これ以上壊れる前に逃げたい」


 カイルは一瞬こちらを見て、傷んだ柄へ手を添えた。


「……それなら、俺も賛成だ」


 敵は一匹減った。


 こちらは三人。残る狼も三匹。


 数字だけなら互角になったはずなのに、槍が傷んだせいで、さっきより状況は悪くなっている気がする。


 ゲームのようにはいかないものだ。


 ミレアが俺の横に戻ってきた。


「トウマ、道の方は?」


「まだ一匹いる」


「じゃあ、あたしが回り込む。そいつを引きつけておいて」


「一人で行けるか?」


「ずっとここにいたら、また囲まれるでしょ」


 ミレアは短剣を持ち直し、固い土の続く道筋を目で確かめた。


 俺は村側の一匹へ剣先を向ける。


「よし。そいつが動いたら俺が止める。カイルは森の二匹を頼む」


「無理に倒そうとするなよ」


「ああ。道が開けば十分だ」


 カイルは短く持った槍を構え、森へ向き直った。


 ミレアが動き出す。


 畑の畝は踏まず、乾いた土の上を選んで道の右側へ回る。俺は狼の注意を引くように、わざと一歩前へ出た。


 すると。


 村側のフォレストハウンドが、すっと後ろへ下がった。


「……ん?」


 飛びかかってくると思っていたのに、相手は道の端へ移動する。


 俺が剣を向けても、そこから近づいてこない。


 まるで、道を空けてくれたみたいだ。


「逃げる気か?」


「違う」


 カイルの声が鋭くなった。


「トウマ、森の方を見ろ」


 言われて振り向く。


 森側にいたはずの二匹のうち、一匹が見当たらない。


 目に入るのは、森の手前にいる一匹と、村への道を空けた一匹だけだった。


 倒した狼は、水路のそばに横たわっている。


 四匹いた。


 一匹倒した。


 残りは三匹。


 なのに、二匹しか見えない。


「……ミレア、止まれ」


 俺がそう言った直後だった。


 かつん、と小石が転がる音がした。


 音は、俺たちのすぐ後ろから聞こえた。

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