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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第1章 俺のチートは村から始まる

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第6話 畑ネズミは本命の罠を知らない

「この紙、昨日はどこにあったの?」


 ギルドの職員が、俺の差し出した依頼票を指先で持ち上げた。角ウサギを捕まえた日に押してもらった完了印が、紙の真ん中に残っている。


「服の内側です」


「一昨日は?」


「同じ場所です」


「……ずいぶん大事にしてたんだね」


 職員は苦笑いしながら帳面を開いた。


「完了印は間違いないね。これで正式に一件達成。次からは、できればその日のうちに報告してね」


「はい。次は忘れません」


「本当に?」


「……次からはミレアが覚えてます」


「何であたし任せなのよ!」


 ミレアに背中を小突かれた。


 職員は笑いながら帳面に記入を済ませ、俺たちにそれぞれ報酬袋を渡してくれた。


 ついに、冒険者としての初収入だ。


 袋の中から、硬貨が触れ合う音がする。今すぐ数えてみたいが、隣ではミレアが次の依頼票を探し始めていた。


 俺は袋を懐にしまった。


 元から持っていた十二リルと合わせて数えるのは、家に帰ってからでもいい。今は仕事を増やす方が先だ。


「ところで、畑ネズミの駆除(くじょ)依頼って残ってますか?」


「あるよ。でも、角ウサギより厄介(やっかい)かもしれないね」


 職員が掲示板から一枚の紙を外す。


「小さいし、すぐ穴に潜(もぐ)る。追いかけて畑を掘り返すと、依頼人に怒られるよ」


 なるほど。


 小さい敵。狭い通路。追いかけると逃げる。


 どう考えても、罠の出番じゃないか。


「受けます!」


「内容は最後まで読んだ?」


「……今から読みます」


 ミレアの肘が俺の脇腹に入った。


 依頼票には、畑ネズミを二匹以上捕まえること、畑を掘り返さないこと、とある。捕まえたネズミの処理は依頼人が引き受けるらしい。


 よし。これなら剣を抜く必要もなさそうだ。


    *


 今回の畑は、村の外れにあった。


 湿った土の上に細い水路が走り、植えたばかりの菜が、あちこちで根元から倒れている。葉の食べられたものより、根をかじられて枯れかけたものの方が多かった。


「昨日の朝も、今朝もだ」


 畑の持ち主が、根の残った菜を一本持ち上げた。


「葉だけならまだしも、根までやられると植え直しになる。穴を見つけても、畝の下へ逃げ込まれたら手が出せん」


「二匹捕まえれば、依頼は完了でいいんですか?」


「ああ。今、よく出てくるやつを減らしてくれれば助かる。残りの穴は、収穫の邪魔にならん場所からわしが塞(ふさ)ぐ」


 男は畑の縁を指した。そこには、指が二本入りそうな穴がいくつも開いている。


 俺たちが近づくと、一匹の畑ネズミが顔を出した。


 灰色の毛に丸い耳。前歯は、普通のネズミを想像していた俺には少し大きすぎた。


「あ、いた」


 ミレアが身をかがめた途端、ネズミは穴へ消えた。


「……速っ」


「追ったら逃げるのは分かってただろ」


「まだ追ってないっつってんでしょ」


 ミレアはしゃがんだまま、穴の周りを指でなぞった。


「こっちは使ってる。あっちは草が生えてるから、古い穴かな」


 俺も横からのぞき込む。


 新しい土が盛り上がった穴と、草に埋もれかけた穴。畑の外側へ続く溝には、小さな足跡も残っていた。


 父さんと害獣の罠を作ってきた経験が、ここでも役に立ちそうだ。


「よし。今回は二段構えでいこう」


「二段?」


「囮(おとり)の罠と、本命の罠だ。目立つ方を避けたところに、本命を仕掛ける」


 ミレアは畑の穴を見渡した。


「でも、どっちへ逃げるか分かんないじゃん」


「……まずは、それを調べよう」


「最初からそう言いなさいよ」


 危ない。


 危うく、作戦名だけ立派な計画を始めるところだった。


    *


 畑の持ち主から、古い籠と短い板、それに細い網を借りた。捕まえたネズミを入れるため、通気穴のある蓋(ふた)付きの木箱も二つ用意してもらう。


「道具は壊さないでくれよ」


「もちろんです。できれば修理代も使いたくありませんから」


「正直だな」


 俺は籠を逆さにし、片側を短い板で持ち上げた。


 板には紐を結んである。少し離れた場所から引けば支えが外れ、籠が落ちる仕組みだ。餌には畑で捨てるはずだった傷んだ菜を使った。


「これが囮?」


「一応、捕獲もできる。中に入ったら一匹目はいただきだ」


「入らなかったら?」


「逃げた方角を調べる」


 どちらに転んでも情報が増える。


 俺たちは石垣の陰に座り、穴から畑ネズミが出てくるのを待った。


 しばらくすると、灰色の頭がひょこりと現れた。


 鼻を動かし、耳を震わせる。


 そして籠を見た。


「……来るぞ」


 俺は紐を握り直した。


 畑ネズミは穴から半身を出し、餌の匂いを確かめるように鼻を動かした。


 だが、そこから先へ進まない。


 一度穴へ戻り、また顔を出す。それを二回繰り返しただけだった。


「……入らないね」


「入らないな」


「籠が目立つんじゃない?」


「……そうかもしれない」


 遠くからでも見える大きな籠。


 俺がネズミでも警戒するだろう。


 結局、そのまましばらく待っても何も起きなかった。


「どうする? あたしが反対から追い立てようか?」


「いや。畑へ逃げ込まれたら面倒だ」


「じゃあ、あたしは外側を見てくる。穴、ほかにもあったでしょ」


 ミレアは石垣から立ち上がると、畝を踏まないよう畑の外側へ回っていった。


 俺は引き続き籠を見張る。


 餌はある。


 支えも安定している。


 しかし肝心の獲物が来なければ、ただの置物だ。


 これでは、罠の性能を確かめようにも何も始まらない。


「トウマ、こっち!」


 草の向こうからミレアが呼んだ。


 行ってみると、低い草の下に細い通り道があった。土には、小さな足跡が何本も重なっている。


「見て。ここ、さっき二匹通った」


「本当か?」


「うん。あんたが籠を置いたあと、別の穴から出てきたの。籠の方へは行かないで、こっちの草をくぐってた」


 ミレアは草の一部を持ち上げた。


 その下には、畑の縁に沿って続く細い道がある。


 なるほど。


 畑ネズミは動かなくなったわけじゃない。目立つ場所を通らず、見えにくい道を使っていたのだ。


「ここなら本命を置けそうだな」


「最初からここを探せばよかったね」


「……それは言わない約束にしないか?」


「約束してないし」


 もっともだ。


 それでも、ミレアが見つけてくれなければ、俺は今頃も籠の前に座っていただろう。


    *


 本命の罠には、借りた細い網を使った。


 草の下を通る細道に沿って網を袋状に広げ、入口が潰れないよう小枝で支える。周りの土は少し寄せたが、穴や畝には手を加えなかった。


「ここ、ちょっと狭くない?」


 ミレアが入口を指した。


「畑ネズミなら通れそうだけど」


「その台詞、角ウサギのときも聞いた」


「……そうだったな」


 前回は、角が枝に引っかかりそうになった。


 今回は相手が小さいからといって、同じ失敗をするわけにはいかない。


 俺は入口を少し広げ、丸めた木片を通してみた。網が途中で折れ曲がっていないことも確かめる。


「これなら大丈夫そうだ」


「うん。あとは口を閉じる紐ね」


 ミレアが網の縁を押さえている間に、俺は長い紐を通した。ネズミが奥まで入ったところで引けば、口が絞まる。


 問題は、獲物が本当にそこを通るかどうかだ。


 最初の籠は、あえて動かさなかった。


 あちらを警戒して草の道へ回るなら、この網が役に立つ。逆に別の穴へ逃げるなら、また通り道を探し直す必要がある。


 畑の持ち主が様子を見に来たので、仕掛けを説明した。


「ほう。畝を掘らずに済むのか」


「はい。籠の方には近寄らないので、こっちに置いてみました」


「使わん罠を、そのまま置いておくのか?」


「籠を避けて草の下を通っているみたいなんです」


 男は二つの仕掛けを見比べた。


「つまり、嫌がる道と通りたい道を分けたわけか。よく見てるな」


「いえ。最初は普通に籠で捕まえるつもりでした」


「失敗したから、ネズミの通り方を調べ直したんだろ。畑仕事でも、そういうのが大事なんだ」


 ……また評価が上がってしまった。


 まあ、俺が何と言おうと畑の持ち主が納得してくれるなら、それでいい。


 できるだけ少ない労力で依頼を終える。


 その目的に変更はない。


    *


 夕方が近づくと、畑の草が揺れ始めた。


 ミレアが俺の袖を引く。


「来た」


 灰色の小さな体が、草の下を進んでいた。


 畑ネズミだ。


 籠のある方へ一度顔を向けたが、近づくことなく草の道へ戻る。


 俺は紐を握った。


 ネズミが網の入口で止まり、鼻を動かした。


 一歩。


 もう一歩。


 後ろ足まで網の奥へ入る。


「今!」


 紐を引くと、網の口が閉じた。


 袋が跳ねる。


「よし!」


「まだ! 口を結んで!」


 ミレアが飛び出して網の縁を押さえた。俺は紐を引き切り、逃げ道が開かないよう結び目を作る。


 中のネズミは暴れていたが、網に穴は開いていない。


 一匹目、捕獲成功。


「やったじゃん!」


「当然だ。二段構えだからな」


「最初の籠、失敗しただけでしょ」


「結果的に囮になっただろ?」


「……まあ、なったけど」


 俺は畑の持ち主から借りた木箱を近くへ寄せた。


 ミレアに網の口を押さえてもらい、箱の入口へ向けてネズミを移す。蓋を閉じるまで少し手間取ったが、逃がさずに済んだ。


 箱の中で小さく引っかく音がする。


 よし。これなら網をもう一度使える。


「トウマ、まだいるよ」


 ミレアが草の向こうを指した。


 別の穴から、小さな影が二つ出てきていた。


 先ほどの騒ぎを警戒しているのか、すぐには近づいてこない。だが、籠のある場所を避け、草の下を行き来している。


「……もう一回、張れる?」


「ああ。今度は早いぞ」


 俺たちは網を元の位置へ戻した。


 枝の長さも、紐を通す場所も分かっている。最初は何度も調整した仕掛けが、今度はほとんど迷わず組み上がった。


 あとは、また通ってくるのを待つだけだ。


 しばらくして、一匹が網の入口へ近づいてきた。


 草の下で鼻を動かし、ゆっくりと奥へ進む。


 俺は紐に指をかけた。


 完全に入るまで待つ。


 今度は慌てない。


 後ろ足が網の奥へ消えたところで、力を込めた。


 口が閉じる。


 ミレアがすぐに駆け寄り、網を押さえた。


「二匹目!」


「よし!」


 もう一匹は草の向こうへ逃げてしまった。


 それでも、依頼票に書かれた二匹は捕まえた。


 俺たちは二匹目も別の木箱へ移し、蓋が開かないことを確かめた。


 どちらの箱からも、かりかりと音がしている。


 初めの一匹を捕まえるまで、あれだけ時間がかかったのに。


 二匹目は、仕掛けを作り直すところからずっと早かった。


 同じ場所で同じ失敗を繰り返さなければ、次はもっと効率よくできる。


 すると視界の端に、見慣れた青白い文字が浮かんだ。


【ステータス】


称号:罠の申し子


 ……来た。


 どうやら、罠を使った仕事にも専用の称号があるらしい。


 角ウサギに続いて畑ネズミも捕獲したんだから、獲得条件は満たしたはずだ。


「トウマ、何にやけてんの?」


「いや、罠師として一歩進んだ気がしてな」


「じゃあ次は、あたしが道を見つける前に気づいてよね」


「……努力します」


 称号があっても、観察は自分でやらなきゃいけないらしい。


    *


「二匹か。確かに捕まえたな」


 畑の持ち主は木箱を一つずつ確かめ、蓋を押さえた。


 俺たちは借りた網や籠を片づけ、捕まえた畑ネズミを引き渡した。残った穴については、男が畑仕事の合間に手を入れるという。


「畝を荒らさずに済んだ。助かったよ」


「いえ。掘り返したら、直すのが面倒だったので」


「そこまで考えてくれたか」


「いや、本当に面倒だっただけなんですけど」


「分かるよ。後の仕事を減らすために先に手間をかける。畑をやってりゃ、そういうことばかりだ」


 男はそう言い、依頼票へ完了印を押した。


 どうも俺が楽をしようとすると、周りの人には勤勉に見えるらしい。


 悪いことではないが、そろそろ本当に楽になる方法も見つけたいところだ。


 ギルドへの帰り道、ミレアは俺の隣で、土のついた指先を払っていた。


「今日のあれ、あたし一人だったら追いかけてたかも」


「俺一人だったら、籠の前で夜まで待ってたな」


「それ、効率悪すぎじゃん」


「否定できない」


 ミレアは少し笑ってから、草むらの方を見た。


「でも、次はもっと早く見つけられそう。穴の周りの足跡とか、逃げ道とか」


「ああ。俺も罠を張る場所を工夫したい」


「じゃあ、次はもっと捕まえようよ」


「もちろん。数が増えれば、稼ぎも増えるからな」


 懐の報酬袋に手を当てる。


 初仕事の報酬は、まだ数えていない。今日の依頼票も、これからギルドで報告するところだ。


 それでも、少しずつ仕事の進め方が分かってきた。


 追いかける前に通り道を調べる。失敗したら仕掛けを直す。仲間に任せられるところは任せる。


 これなら体力も残るし、無理な訓練で寝込むことも減る。


「……よし。次は共有猟場だな」


「角ウサギ?」


「ああ。今度はまとめて捕まえてみたい」


「いいじゃん。あたしもやってみたい!」


 ミレアはすぐに乗り気になった。


 角ウサギなら、通り道の探し方も分かっている。罠の作り方だって、最初のときより上手くなっているはずだ。


 七匹、いや十匹。


 まとめて捕まえられれば、町づくりの資金も一気に増える。


「ねえ、トウマ」


「何だ?」


「いっぱい捕まえたら、誰が運ぶの?」


 俺は足を止めた。


 角ウサギは一匹でも、袋網ごと持ち上げるにはそれなりの重さがあった。


 十匹となれば、俺たち二人では到底抱えきれない。


 荷車を借りる?


 それとも、誰かに運んでもらう?


 ……待て。


 楽に稼ぐための計画なのに、どうして仕事を増やす方法ばかり思いつくんだ?

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