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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第4章 迷宮では逃げることも仕事

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第34話 青い石は儲かる前に立入禁止になった

『西回廊・資源露出部周辺 安全確認補助』


 迷宮管理所の掲示板でその依頼を見つけた瞬間、俺は足を止めた。


 資源露出部。つまり地面や壁から何かが採れる場所だ。


 西回廊なら心当たりがある。


「ミレア。これってあの青い石だよな?」


「たぶんね。採掘とは書いてないけど」


「安全を確認したら採掘できるようになるんじゃないか?」


「誰が?」


「……俺たち?」


 ミレアは依頼票の注意事項を指した。


『採取禁止。壁面の加工禁止。試料への接触は管理所職員の指示がある場合のみ』


「残念だったね」


「まだ何も言ってないだろ」


「顔に書いてある」


 セオも横から依頼票をのぞいた。


 報酬欄には目も向けず、注意事項を最後まで読んでいる。


「壁の安全確認なら危険が残っているはずです。採掘のことを考えるのは早いですよ」


「分かってる。まずは下見だな」


「下見ではなく依頼です」


 受付へ登録札を出すと、奥からグレンが出てきた。


 道標(みちしるべ)事件で何度も顔を合わせた職員だ。机に地図を広げ、西回廊の奥を指す。


「お前たちは一度あの台車を見ている。道も分かるだろう」


「はい。それで青い石の採掘権は?」


「ない」


「安全確認の報酬として一個くらい――」


「ない」


 グレンは俺の登録札を返し、別の紙を取り出した。


「今回は経路の確認と危険箇所の記録が仕事だ。石の調査は管理所が行う。勝手に削るな」


「分かりました」


「持ち出すな」


「分かってますって」


「値段を聞く前に壁を見ろ」


 言おうと思っていた質問まで封じられた。


    *


 今回はグレンも同行する。


 腰には短い槌(つち)と細長い測定棒。記録用の紙は革の筒に入っていた。


 青札二番を過ぎたところでグレンが立ち止まった。


「西回廊はまだ通行注意だ。今日も安全確認のために入る。勝手に別の通路へ行くなよ」


「特別な調査隊って感じですね」


「知っている道を案内できるから呼んだだけだ」


「もう少し夢のある言い方はありませんか?」


「仕事があるだけありがたいと思え」


 その通りだった。


 迷宮へ入るだけなら入場記録が必要だし、魔物に出会えば討伐や採集の仕事がなくても手間が掛かる。今回は現場まで歩いて調べれば報酬になる。


 一つ目の道標には、正しい出口を示す仮設札(かせつふだ)が残っていた。


 古い矢印はまだ逆向きのままだが、板には『点検中・仮設札に従え』という注意書きが取り付けられている。


「前に来たときより分かりやすくなったね」


 ミレアは標柱を見上げた。


「これなら迷う人も減りそうだな」


「正式な交換はこれからだ。修理記録も残す必要がある」


 グレンは固定具を確かめて先へ進んだ。


 俺たちも列を戻し、ミレアを先頭に歩く。


 床には台車が通ったような跡が残っていた。


 片側の車輪が通った部分だけ深く沈んでいる。石の継ぎ目に沿って青灰色の粉も落ちていた。


「これって青い石の粉ですかね?」


「触るな」


「触ってませんよ」


 伸ばしかけた指を戻した。


「何の粉かはまだ確認していない。勝手に決めるな」


 グレンは車輪の跡と粉の位置を記録した。


 俺も自分の地図に印を付ける。帰りに同じ道を使うなら、危ない場所を先に書いておく方が楽だ。


 西へ進むほど壁の魔道灯の間隔が広くなった。


 足元は見えるが、奥の暗がりまでは光が届かない。壁には古い採掘跡にも見える浅い削れが続いている。


「ここって今も採掘していい場所なんですか?」


「許可のある場所と作業がある。何でも自由に採っていいわけじゃない」


「じゃあ隠し鉱脈を見つけても勝手に掘れないのか」


「当たり前だ」


 なかなか自由度の低いダンジョンだ。


 とはいえ、誰でも好き勝手に壁を掘り始めたら、いつか天井まで落ちてきそうではある。


    *


「……あった」


 ミレアが足を止めた。


 灰色の岩肌を、青みがかった帯が斜めに走っている。


 幅は場所によって違い、奥の暗がりまで続いていた。台車の荷の隙間から見えた小さな欠片(かけら)とは迫力が違う。


「これ全部が青い石なのか?」


「見えている部分だけだ」


 グレンは帯の端を測定棒で示した。


「壁の中まで同じとは限らん。価値があるかも分からない」


 近くで見ると青い帯の下側が棚のようにえぐれていた。


 削った跡は新しいように見える。下の床には小さな石片が散らばり、泥の付いた足跡と麻布の繊維も残っていた。


「台車の男が掘ったんでしょうか」


 セオが言うと、グレンは首を横に振った。


「可能性はある。だが別の者が採ったかもしれん」


「今は断定できないんですね」


「そうだ。まず記録する」


 俺は地図へ位置を書き込み、削れた部分を簡単な図にした。


 セオは足跡と布の繊維を記録している。


 ミレアだけは壁を見たまま動かなかった。


「ミレア?」


「……ちょっと待って」


「何か聞こえた?」


「分かんない」


 猫耳が小さく動いた。


 ミレアは青い帯を見つめたまま一歩後ろへ下がる。


「ここ嫌だな」


「石が?」


「石かどうかも分かんない。なんか嫌」


 俺も壁を見る。


 青い帯の下が削れている以外は普通の岩壁だ。何かが動く音も聞こえない。


 グレンは記録の手を止めた。


「全員下がれ」


 短い声だった。


 俺たちは壁から距離を取り、来た道の少し広い場所まで戻った。


 グレンも離れた位置に立ち、長い測定棒を伸ばす。


「上部を確認する。近づくなよ」


 棒の先が、張り出した石の下へ軽く触れた。


 ぱらぱらと砂が落ちる。


 グレンはすぐに棒を離した。


 上の石がわずかに動き、爪(つめ)ほどの欠片が床を跳ねた。


「……浮いているな」


「崩れるんですか?」


 セオは救護鞄(きゅうごかばん)の肩紐(かたひも)を握り直した。


「今すぐとは言えん。ただし安全な壁として扱う理由もない」


 グレンは近づこうとせず、張り出した部分と削り跡の位置を記録した。


 青い帯の下がえぐられたことで、上の岩が支えを失っている可能性があるらしい。


「この区画への立ち入りは制限する。詳しい調査が終わるまで採掘もさせん」


「まだ石の値段も分かってないのに?」


「価値があっても頭に落ちたら使えん」


 まったく反論できなかった。


 岩の欠片が散った床を見る。


 もしさっきまで立っていた場所へ大きな石が落ちていたら、救護鞄の包帯ではどうにもならないだろう。


 セオがミレアへ向き直った。


「どうして危ないと思ったんです?」


「だから分かってないって」


「何か聞こえましたか?」


「違うと思う。何も聞こえなかったし」


 グレンも尋ねた。


「空気が変わったか?」


「それも違う気がする」


「なら今のまま記録する。同行者が違和感を申告し、職員が確認したところ上部に浮きがあった。そこまでだ」


 ミレアは小さく頷(うなず)いた。


 なるほど。


 俺の《超成長》がパーティーへ波及している可能性は、ますます高まったわけだ。


 名付けるなら《超感覚》だろうか。


「何?」


「いや。何も」


 ミレアの目が細くなったので口を閉じた。


    *


 グレンは安全な位置から測定棒を使い、露出部の見える範囲を確かめた。


 壁へ近づきすぎないよう立つ場所を変えながら記録を取る。俺たちも床に落ちた石片と通路の幅を調べた。


「ここから先は寄るな。落ちている試料を一つ持ち帰る」


 グレンは危険な張り出しから離れた床の石片を確かめ、布で包んだ。


 管理所の試料として持ち帰る分だ。


「それ俺が持ってもいいですか?」


「開けるなよ」


「はい!」


 許可をもらって受け取った包みは、手のひらより少し大きかった。


 ところが持ち上げると、見た目以上にずっしりくる。


「重っ」


「石ですからね」


 セオの返事が冷たい。


「いや、これを台車いっぱい運んでたんだぞ。そりゃ車輪もおかしくなるよな」


「石が重ければ運搬にも費用が掛かります」


「これを高く売れたら――」


「運ぶ人への報酬も必要ですね」


「……夢を削るの早くない?」


「値段の分からない物に夢を乗せすぎです」


 ミレアが包みを軽く持ち上げて重さを確かめた。


 すぐに俺へ戻してくる。


「こんなの何個も持って帰りたくないね」


「魔法鞄さえあればなあ」


「ないんだから運び方を考えなよ」


 俺はグレンへ包みを返した。


 管理所の試料なので、持ち帰るのもグレンの仕事だ。俺の鞄(かばん)へ入れたところで、自分の物になるわけではない。


 帰り道では壁から距離を取った。


 青札二番の手前で岩甲虫が一匹姿を現したが、グレンが手前の分岐を指す。


「戦う必要はない。戻るぞ」


「魔石を一個くらい――」


「今日の依頼は何だ?」


「安全確認です」


「なら帰る」


 俺たちは別の通路へ回った。


 岩甲虫を倒す手間も素材を運ぶ手間もなかったので、結局この判断が一番楽だった。


    *


 管理所へ戻ると、グレンは採取した試料へ番号札を付けた。


 現場の記録と照らし合わせ、危険箇所の印を地図へ追加する。


 西回廊の資源露出部は、詳しい安全調査が終わるまで立入制限となった。


 調査補助の依頼は達成だ。


 追加の採掘許可はもちろんない。


「最後に一つだけ聞いていいですか?」


「何だ」


「事件の解決に協力した報酬で青い石を少し――」


「ない」


「まだ言い終わってません!」


「見つけたのもお前じゃないだろ」


「……確かに」


 グレンは試料袋の口を結び直した。


「道標を動かした男の処分と石の価値は別の問題だ。勝手につなげるなよ」


 金になる道はなかなか開けないらしい。


 管理所を出ると、ミレアが耳の付け根を指で触っていた。


「ミレア。さっきの感覚だけどさ」


「何?」


「もしかしたら俺の《超成長》が仲間に波及して――」


「やっぱりそういう話か!」


「まだ途中だろ!」


「最後まで聞かなくても分かるよ!」


 ミレアは俺を追い越して歩き出した。


 セオも横で小さく首を振る。


「でも、危険を感じて立ち止まったのは事実です。次も何か気になったら教えてください」


「あたしもまだ何なのか分かんないけどね」


「分からなくても離れる理由にはなります。危険でないと分かったら戻ればいいんです」


 ミレアは耳から手を離した。


「うん。そうする」


 俺は二人の背中を見ながら考えた。


 連携も早くなった。ミレアの勘は何度も役に立っている。セオは必要なときにすぐ撤退を選べる。


 これはもう、パーティー全体が《超成長》の恩恵を受けていると考えてもよさそうだ。


「トウマ」


 ミレアが振り向いた。


「今また変なこと考えてるでしょ」


「……俺の顔ってそんなに分かりやすい?」


「かなり」


 いつか偽ステータスに『表情を隠す技能』が解放されないものだろうか。

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