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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第4章 迷宮では逃げることも仕事

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第29話 便利な台は持ち運べなければ意味がない

宿の前で乾いた音がした。振り返るとセオの救護鞄(きゅうごかばん)が肩からずり落ちていた。片方の肩紐(かたひも)が切れたらしい。


「うわっ」


 蓋(ふた)は閉まっているのに留め具の隙間(すきま)から小瓶が一本転がり出る。とっさに足先を伸ばして行く手を塞(ふさ)いだ。


「踏まないでください!」


「止めただけだって!」


 慌ててしゃがんだセオが小瓶を拾う。ひびもなく中身も漏れていない。ミレアは地面へ落ちた布包みを拾い上げた。


「肩紐(かたひも)が擦り切れてるね。昨日は大丈夫だったの?」


「昨日から怪しかったんです。店が閉まる前に戻れればよかったんですが」


「そりゃ今日切れるわけだ」


 セオは救護鞄(きゅうごかばん)を抱き直した。重くて持ち上がらないわけではない。ただ片手が塞(ふさ)がれば治療も地図の確認もやりづらそうだ。


「今日は先に直そう。迷宮で落ちたら困るだろ」


「俺もそのつもりです」


 切れた紐(ひも)を見て宿の荷物にしまった金具を思い出した。


「……そうだ」


「その声やめて」


 ミレアが嫌そうな顔をする。


「まだ何も言ってないだろ」


「あんたが妙なものを思いついたときの声だよ」


    *


 部屋から持ってきたのはボルドにもらった蝶番(ちょうつがい)だった。ハルディンを出る前に折り畳み道具の相談をしたら「試しに使え」と渡されたものだ。


「この金具で折り畳み台を作れないかな」


「肩紐(かたひも)の修理に使うんですか?」


「そっちは新しい紐(ひも)がいる。俺が言ってるのは治療道具を置く台だよ」


 救護鞄(きゅうごかばん)を地面へ置いて開けば底に泥が付く。薬瓶を取り出したあとも置き場に困るだろう。畳める台なら必要なときだけ開いて使える。


「高さはどれくらいです?」


「膝(ひざ)より少し下かな」


「片手で開けますか? 片手で傷を押さえていることもあります」


「そういう使い方もあるのか……。できれば片手で開けたいな」


 セオは小瓶を持ったまま考えている。さっきまで鞄(かばん)を抱えていたときよりずっと真剣だ。


「雨のあとでも置けるようにしてください。足が沈んだら瓶が倒れます」


「脚を広げれば安定するだろ」


「脚を広げるってことは重くなるんじゃない?」


 ミレアが蝶番(ちょうつがい)を持ち上げた。


「誰が運ぶの?」


「俺だけど」


「なら好きにして」


「急に優しくなったな」


「共同装備にするって言われたら止めてた」


 セオも黙ってうなずいた。俺は蝶番(ちょうつがい)を鞄(かばん)にしまう。三人でネイラの工房へ行くことになった。肩紐(かたひも)の修理は今日中に済ませる。それまではセオが鞄(かばん)を抱えて歩く。


    *


 工房ではネイラが小型魔道灯の外枠を削っていた。工具を置かずに顔だけ上げる。


「また来たのか」


「今日はちゃんと客として来ました」


「その顔は面倒を持ってきた顔ね」


「みんな顔で判断しすぎじゃないですか?」


 作業台へ蝶番(ちょうつがい)を置くとネイラはようやく手を止めた。指先で金具を動かし、刻まれた跡を確かめる。


「ボルドの仕事か。何を折り畳む?」


「台です。前に話したやつ」


「用途を言え」


「薬瓶や包帯を置く台です。地面がぬれていても道具を汚したくなくて」


 手振りで高さと大きさを示す。ついでに採集品や解体用の道具も載せられれば便利だ。


「高さは二段階に変えたいです。端には道具を掛ける金具も欲しい。あと魔石を組み込んで開閉を――」


「最後はいらない。手で開け」


「まだ途中ですよ!」


「魔石がなくても動くものに魔石を足すな」


「俺もいりません」


 セオが即答した。ミレアも隣で手を上げる。


「あたしも。壊れたとき直せないものは困る」


「三対一か……」


 ネイラは廃材置き場から板と細い脚材を持ってきた。台の形を確かめるための仮組みらしい。板の四隅に脚を当てて蝶番(ちょうつがい)の位置を決め、動かせる形にしてくれた。


「持て」


「おっ。ちゃんと台だ」


 持ち上げてみると見た目以上に重い。四本の脚と広い板をそろえれば安定はするが、これを背負って迷宮へ行く気にはなれなかった。


「重い……」


「四脚だからね。大きさを減らすか用途を減らせ」


「じゃあ布を張るのはどうです? 板の部分が減れば軽い」


 ネイラは小さな木枠に布を張ってみせた。確かに軽くなった。ところがセオが蓋(ふた)を閉めた小瓶を一本置くと布が沈み、瓶は横へ転がってしまう。


「これでは使えません」


「中央だけ板を残したら?」


 ネイラが細い硬い板を渡す。布の中心を支えるように置けば小瓶は倒れない。今度は脚を二本だけにして両側へ開く形を試した。


「これなら持てそうだ」


 畳んだ形をミレアが背中に当ててみる。上の金具が服に引っかかった。


「ここが出っ張ってる。歩いたら服が傷むよ」


「削る。だが開くと横幅が出るぞ」


「狭い通路では開けないね」


「置く場所は選べ。どこでも使える道具にはできん」


 次はセオが片手で脚を開こうとした。留め具に指が届かず一度閉じたまま止まる。


「治療中だと両手を使えないかもしれません」


 ネイラは別の金具を取り出した。押すと外れ、脚は重みで開く仕組みらしい。セオが一度試すと今度は片手で開けた。


「自動で開く!」


「ばねと重さで動く。魔石は使わん」


「実質、自動展開では?」


「名前は好きにしろ。魔石を付ける費用は出さんぞ」


 夢の自動展開には魔石なんていらないらしい。俺が感心しているとネイラが布を指で弾いた。


「解体台として使うなら血と脂が染みる。布を使うなら用途から外せ」


「なら治療用と記録台だけで」


「荷物は?」


「重いものは載せない。座るのも禁止だな」


 高さの変更も諦めることになった。二本脚と布を組み合わせて中央に硬い板を渡す。薬瓶や包帯を地面から離して置くだけの台になったが、最初の案より使いやすそうだった。


「試作なら千八百リル。金具代込み。布は丈夫なものを使う。失敗しても全額は返さん」


「共同経費で――」


「トウマ」


 ミレアの声が低くなった。セオまで帳面を開いている。


「……俺が払います。俺の道具だし」


「運搬も本人ですね」


 セオが帳面に書きつけた。ミレアも横からのぞき込む。


「『今日はミレアが持って』は禁止って書いといて」


「それくらい頼むかもしれないだろ」


「だから書いてるんだよ」


 前金を払って蝶番(ちょうつがい)を預(あず)けた。正確な完成日はまだ決まっていないが数日はかかるらしい。


「途中で余計な機能を増やしに来るなよ」


「一個だけ思いついたんですけど」


「帰れ」


    *


 午後にギルドへ寄るころにはセオの救護鞄(きゅうごかばん)の肩紐(かたひも)が応急で交換されていた。費用は本人持ちだ。共同経費にしてはどうかと聞いたが、きっぱり断られた。


「私物の修理です。誰が持ち主か分からなくなるのは困ります」


「使うのは俺たちのためだろ?」


「使う薬や包帯の代金とは別です。そこを分けないと後で揉めます」


 ネイラの工房でも言われたことを思い出した。便利な道具は作ったら終わりじゃない。誰が払うか、誰が運ぶか、壊れたらどうするか。そこまで決めると意外に面倒だ。


「それでトウマ。次の依頼は?」


 ミレアが掲示板を指した。迷宮管理所から新しい依頼が出ている。


『青札二番から西回廊の道標確認。異常箇所の記録。標柱の移動・修理は禁止』


「戦闘じゃなくて確認の仕事か」


「地味ですね」


「だからいい。背甲を抱えて走らなくて済む」


 依頼票を外して三人で条件を確かめた。地図と通行可能な範囲を照らし合わせ、道標は触らず記録だけを取ればいい。重い素材を運ぶ仕事でもないので荷物を増やす必要もなさそうだ。


「こういう仕事なら楽に終わりそうだろ」


「昨日も同じようなこと言ってなかった?」


 ミレアが笑う。セオは備考欄を指さした。


「道標の位置が違っていた場合の報告手順も決めておきましょう」


「決めるも何も。見たとおり書いて帰るだけだろ?」


 受付で翌日の依頼として受注印をもらった。異常があっても標柱を直さなくていい。こんなに楽な依頼がまだ残っていたのか。

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