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俺の転生チート《超成長》がどう考えても壊れている ~楽するために努力していたら故郷が発展していきます~  作者: MIYA
第4章 迷宮では逃げることも仕事

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第25話 初迷宮は宝箱より先に規則が待っていた

「昨日のうちに来なかっただけ、褒めてほしいくらいだ」


 北西迷宮の依頼板に手を伸ばした俺へ、ミレアが冷たい視線を向けた。昨日ようやくEランクになったばかりだ。今朝まで待ったのだから、十分な我慢だろう。


「普通はそれを我慢って言わない」


「だったら何て言うんだ?」


「せっかち」


 否定しづらい。


 外した依頼票には『白脈苔の採集』とある。第一層の湿った壁に生える白っぽい苔(こけ)で、必要なのは小袋一つ分。採集できる場所は管理所の地図に示されており、閉鎖区画に入らないことも条件だった。


「初めての迷宮で採集なの?」


「いきなり強い相手と戦うより、道を覚えた方が次から楽だろ。ついでに宝箱の場所も確認できる」


「最後の一言で台無し」


「迷宮だぞ。何か落ちてるかもしれないだろ」


 魔法鞄(まほうかばん)が落ちていれば、今度こそ運搬の苦労から解放される。そんな期待を胸に受注を済ませ、俺たちは北西門へ向かった。


    *


 数日前は補給の手押し車を押してきた道を、今日は剣と採集袋を持って歩く。管理所の入口では、職員が登録札を二枚とも確かめた。


「Eランク二名。入れるのは第一層までです。青札の道を基準に進んでください。赤札の先は閉鎖区画。地図と現場の表示が違う場合は、現場表示を優先して戻って報告してください」


 机に広げられた地図へ、今日の日付の印が押される。


「地図って、そんなに変わるんですか?」


「崩落もあれば、魔物が通路を塞ぐこともあります。昨日通れた場所が今日も安全とは限りません」


「なるほど……」


 初回で地図を埋めれば二回目からは楽になると思っていたのに、更新が必要らしい。ゲームの攻略地図ほど親切ではなかった。


 注意事項を聞き終えて、ようやく石の入口をくぐる。湿った石の匂いが鼻に届いた。壁には一定の間隔で魔道灯があり、足元が見えなくなるほど暗くはない。どこかで天井から水が落ちている。


「もっと真っ暗だと思ってた」


「入口から真っ暗だったら、管理する人も困るでしょ」


 ミレアは平然と答えるが、尻尾(しっぽ)はいつもより低かった。


「緊張してる?」


「してない」


「尻尾(しっぽ)が」


「見るな」


 怒られたので、青札一番へ視線を戻した。


 白脈苔が採れる候補地は三か所。まず入口に近い壁を調べる。地下水が染み出す石の隙間(すきま)には白い苔(こけ)が残っていたが、厚く育った部分はほとんど先客に採られていた。


「また先を越されたか」


「残ってるのもあるよ」


「根こそぎ採ったら次に来たとき困るだろ。使えるところだけにしよう」


 持ってきた小さな道具で育った部分を少しずつ削ぎ取り、採集袋へ入れる。袋の底がようやく隠れたところで手を止めた。これでは足りないが、三か所も候補があるなら焦る必要はない。


    *


 二か所目へ向かう途中、石を引っかく音がした。


「いる」


 ミレアの声と同時に、曲がり角の先から灰色の背中が現れた。岩甲虫だ。胴体(どうたい)ほどの大きさがあり、甲殻(こうかく)は石壁とよく似た色をしている。


 岩甲虫は足を鳴らし、こちらへ体を向けた。


「迂回(うかい)できる?」


 ミレアが地図を開く。


「入口まで戻れば別の候補地へ行ける。でも、かなり遠回り」


「正面から殻(から)を切るのは難しそうだな」


「脚の付け根ならどう?」


「広いところへ誘おう。狭いままだと回り込めない」


 片手剣を抜いて後退する。左腕はもう日常生活に困らないが、大きな衝撃を受け止めるのは避けたい。岩甲虫が石床を叩きながら進み、通路の幅が広がったところで速度を上げた。


「来るよ!」


「《ブリーズ》!」


 風を足元へ当てる。岩甲虫の巨体を持ち上げるほどの力はない。乾いた砂を巻き上げて脚元へ流すと、相手の足運びが乱れ、進む向きがわずかに変わった。


「今!」


 ミレアが横から踏み込み、短剣を脚の付け根へ突き立てた。硬い音が響くが、一撃では止まらない。ミレアはすぐ離れ、俺も正面へ立たないよう斜(なな)め後ろへ回る。


 甲殻(こうかく)に剣を当てても滑る。狙いを脚へ変えて一度突き、相手が向きを変える前に下がった。二度目は少し浅かったが、傷を負った脚がもつれる。岩甲虫は頭を振り、壁へぶつかった。


「トウマ、こっちへ寄せて!」


 ミレアが空いている側へ動く。俺が音を立てて注意を引くと、岩甲虫は再び向きを変えた。その隙にミレアが腹側へ短剣を入れる。


 虫の脚が石床を引っかき、やがて動かなくなった。


「……硬かったな」


「名前に甲って入ってるしね」


「親切な名前だよな。弱い場所も書いといてくれればいいのに」


 ミレアは肩を軽く回したあと、すぐにやめた。俺も左腕を一度曲げ伸ばしする。新しく痛む場所はないが、連戦になれば心もとない。


 魔石を一個回収し、岩甲虫の背甲を見た。素材として売れるらしい。ただ、今日は白脈苔の採集袋しか持っていない。


「背甲、持っていく?」


「持つだけならできそうだけど、帰るまで邪魔だ。依頼は苔(こけ)だし、先にそっちを終わらせよう」


「珍しく宝物を置いていくんだ」


「背甲は宝箱じゃない」


「魔法鞄(まほうかばん)なら入ったのにって顔してる」


 そんなに分かりやすかったか。


 二か所目の壁には、十分な厚さの白脈苔が残っていた。濡れた石を滑らせないよう足場を確かめ、必要な分だけ採る。小袋を閉じ、二人で採集量を確かめた。三か所目まで行く必要はない。


    *


 帰り道、赤札の立つ脇道が見えた。


『崩落確認中 立入禁止』


 地図にも閉鎖を示す印がある。その奥は魔道灯が消えており、数歩先から暗闇だった。


「行かないよ」


「分かってる。昨日もらったばかりのEランクを取り上げられたくない」


「ならいいけど」


 そこで金属を打ったような音がした。


 カン。


 一拍置いて、カン、カン。


 石の崩れる音とは違う。奥で何かが当たっているらしい。ミレアの耳が立ち、俺も赤札の手前で足を止めた。


「聞こえた?」


「うん。誰かいるのかな」


「……分からない」


 作業中の職員かもしれない。そうでないならなおさら危ない。地図の閉鎖位置へ小さな印を付ける。


「宝箱が転がってたらどうする?」


「解除されるまで待つ」


「よく言えました」


「ただし場所は覚えておく」


「そういうところは変わらないね」


 赤札には触れず、来た青札の道を引き返した。


 岩甲虫の背甲は同じ場所に残っていた。試しに端を持ち上げてみたが、重い上に抱えると前が見えづらい。剣と採集袋もある。帰り道で別の魔物に出くわしたら困る。


「置いていく。次に背甲が必要な依頼を受けたら、運び方を考えてから来る」


「……本当に準備から始めるんだね」


「楽するためだからな」


 管理所へ戻ると、職員が白脈苔の量を確かめてくれた。閉鎖区画の奥で金属音を聞いたことも、地図を指しながら伝える。


「閉鎖札の先には入っていませんね?」


「手前までです。音が三度聞こえました」


「分かりました。こちらで確認します」


 職員は地図に位置を記し、別の職員へ確認を頼んだ。こちらに入る許可が下りたわけではない。詳しい説明もないまま、俺たちは採集品を持ってギルドへ戻った。


 依頼は無事に完了。魔石一個も持ち帰ったが、宝箱は結局見つからなかった。


 宿へ向かう途中、ミレアが口を開いた。


「ねえ、三人目を探さない?」


「急だな。今日だってちゃんと勝てただろ」


「勝てたけど、あたしが脚をやられたら誰が歩けないあたしを運ぶの?」


「俺が……いや、この腕じゃ難しいか」


「じゃあ、あんたが怪我(けが)したら?」


「あたしが手当てする。でも、今度は戦う人が一人になる」


「二人とも動けなくなったら?」


 返す言葉がなくなった。今日、岩甲虫がもう一匹出てきたらどうしていただろう。白脈苔を袋へ詰める手も、負傷した仲間を守る手も足りなくなる。


「治療ができる人か。盾役もほしいな。できれば荷物も持ってくれる人がいい」


「一人だけ探す話だからね」


「全部できる人はいないのか?」


「そんな人がいたら、あたしたちの出番がなくなるでしょ」


 どうやら次の攻略では、まず仲間の募集条件から考える必要がありそうだった。

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